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第五話 : 幕間二 : 赤と青の欠片

本文中のどこに入れていいのかわからなかったお話、その二です。

お話の展開上、必要なイベントなのですが、本文中に自然に入れ込むことができませんでした。

まだまだ、書くのって難しいです。

 相変わらずの灰色の空の下、静かな異界の「あおぞら公園」。


 航と恵理は、青と赤のカラータイルが敷き詰められた円形のサークル内にあ

る古いベンチに座っていた。

 サークルの外では、無機質なコンクリートの壁や地面から、時折あの不気味

な黒い影が滲み出ている。しかし、このタイルの境界線を越えて中に入ってく

ることは決してなかった。


「……なぁ、新城」

「うん?」


 不意にベンチから立ち上がった航は、足元のタイルをじっと見つめ、しゃが

み込んだ。


「この青と赤のタイル。ここだけがあの影を寄せ付けない結界みたいになって

るんなら、これそのものに何か意味があるんじゃないのか?」

「意味って……これ自体が、影を遠ざけているってことかな?」

「ああ。もしそうなら、これを持っていれば、サークルの外に出ても襲われな

いのかもしれない」


 航はタイルのひび割れた箇所に指を差し込み、欠けて剥がれ落ちていた青と

赤の小さな欠片をいくつか拾い上げた。

 くすんだ色合いのそれは、石ともプラスチックともつかない、不思議な硬さ

と冷たさを持っている。

 恵理は目を丸くして、航の手の中にある欠片を見つめた。


「でも宮瀬くん、それ……現実の世界に持ち帰れるの?」

「分からない。だから、試してみる」


 航は拾った欠片を、制服のズボンのポケットに押し込んだ。

 もしこれが現実でも消えずに残るなら、あの異界の構造を逆手に取ることが

できるかもしれない。



 それから数日後の放課後。


 異界の「あおぞら公園」へと入り込むと、サークル内のベンチに座って過ご

すのが二人の定番となっていた。


「……っ」


 恵理が、持参した水筒のお茶を飲んで一息ついている横で、航はさっきから

落ち着きがなかった。無意識のうちに何度もズボンの右ポケットの上から、そ

の感触を確かめてしまう。


(どうやって渡そうか? これ……)


 航の脳内では、ここに来る前からずっと同じ思考が渦巻いていた。


『これ、やるよ』

 いや、それはぶっきらぼうすぎるだろう。


『お前のために作ったんだ』

 気持ち悪い上に重いし、自分の性格上、それはない。


『お守り代わりにどうかなって』

 ……これが一番無難なのか? いや、そもそも手作りのお守りって時点で重

いことに変わりはないのだが……。


 生まれてこのかた、女子にプレゼントなどしたことがない。しかも、自分の

手作りの品を、など。

 昨日の夜、自室の机で百均のUVレジン液と指先がベタベタになるまで格闘

したことを思い出すと、今更ながら深夜のテンションに驚くばかりだ。


「あの……宮瀬くん?」

「おおうっ!?」


 不意に顔を覗き込まれ、航はベンチの上で変な声を出してしまった。

 恵理が不思議そうな、心配そうな目で、航を見つめている。


「大丈夫? なんだかそわそわしてるけど……。もしかして、外の影が気にな

ってる?」

「あ、いや、違う。影を恐れているのではなくて、……その、どう言ったらい

いのか」

「なんでもないは、違うよ? さっきから、ポケットをずっと気にしている

し。……何かあったのなら、話してね?」


 恵理のまっすぐな視線からは逃げられないと悟り、航は観念した。

 そして、深呼吸をひとつ。


「……新城。前ここに来た時、俺がタイルの欠片を拾ったのを、覚えてるか」

「うん。現実の世界に持ち帰れるか試すって言って、ポケットに入れてたよ

ね」

「そう。あれ、現実に戻っても、ちゃんと入っていたんだよ」


 航は気恥ずかしそうに視線を逸らしながら、制服のスラックスのポケットか

らそれを取り出し、そのひとつを恵理の目の前に差し出した。


「これ。……ひとつ、やるよ」

「えっ……」


 恵理が目を瞬かせる。

 航の手のひらに乗っていたのは、透明な雫の形をしたキーホルダーだった。

 樹脂の中に、あの時拾った「赤いタイルの欠片」が星屑のように閉じ込めら

れている。色彩の乏しいこの異界の中で、その小さな雫がキラキラと鮮やかな

光を放っていた。


「そのままだと落としてなくしそうだったから、ネットで調べて……キーホル

ダーのパーツを買って、レジンで固めた。気泡が入ってるし、手作り感丸出し

で不格好だけど」


 照れ隠しのように頭を掻く航の手には、青い欠片が入った対のキーホルダー

が揺れていた。


「この青と赤のタイルが影を遠ざける結界になっているのなら、この欠片にも

少しは力があるのかもしれない。だから、お守り代わりにこれを持っていれ

ば、このサークルの外の団地も、少しは安全に歩けるかと思って……」

「これ、宮瀬くんが、作ってくれた……の?」


 恵理は驚いたように息を呑み、航の手からそっと赤い欠片が入ったキーホル

ダーを受け取る。

 表面はつるつるとしていて、窓からの光を反射してキラキラと輝いている。

 不格好だと航は言うが、欠片の配置や金具の取り付け方には、彼が家でひと

り、小さなパーツと悪戦苦闘しながらも、丁寧に作業をしたであろうことが窺

えた。


 恵理は手のひらに乗せたそのキーホルダーを、両手でそっと包み込むように

握りしめた。

 冷たいはずの樹脂から、不思議と温かさが伝わってくるような気がした。

 それは異界のタイルによるものなのか、それとも航が自分のために不器用な

がらも一生懸命作ってくれたからなのか、恵理には分からなかった。

 ただ、胸の奥があたたかいなと、思った。


「……ありがとう。私、これ、絶対になくさない」


そのまっすぐな笑顔に、航はさらに居心地が悪そうに「大げさだろ」とそっぽ

を向く。

 その耳の端は、少しだけ赤くなっていた。


「……じゃあ、行くか」


 航は照れ臭さを誤魔化すようにベンチから立ち上がると、青いキーホルダー

をポケットに入れ、サークルの外、広大な団地へと視線を向けた。


「うん。一緒に行こう、宮瀬くん」


 恵理も頷いて立ち上がる。


 青と赤の小さな欠片。

 それはただのキーホルダーではなく、彼らがこの異界の奥深くへと足を踏み

出すための、小さな勇気の欠片でもあった。


次回からまた、本ストーリーに戻ります。

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