忠実な執事
ルシェリオ=ラジェ。姓は私がつけた。
2歳になってすぐの礼拝日。毎月行われる孤児院への慰問についていく、と、珍しく我儘を言った私に根負けし、両親と共に馬車に乗った。
その夜、孤児院が火事に見舞われるとも知らず。
のちの調査で魔法を使った痕跡が見つかったこと、孤児院への寄附物資が無くなっていたことから、盗み目的の放火であると結論づけられた。
幸いにも死者は出なかったが、何人かの子供が火傷を負い、入院が必要とされた。
その中、パニックを起こし建物の中で迷子になっていた私を助けたのが、いち早く火事に気づいて貧民街から駆けつけたルシェリオだ。
娘が炎の中に取り残されたと半狂乱で叫ぶ両親の前に、号泣する私を抱え、真っ青な顔で現れたらしい。
固辞するルシェリオをよそに、命の恩人に何としても報いたい両親と、彼から離れようとしない幼い私。
金銭を持たせるには幼すぎ、帰る家もない。そうしてルシェリオは、ゼレンディア家の下働きとして迎えられた。
元の素質もあったのだろう。そこからは早かった。
護衛としての訓練を受ける中で目覚ましい成長を見せ、邸にきてからたった8年で私------侯爵令嬢・テネルシア=ゼレンディアの護衛の座を勝ち取ったのだ。
------なんて。全部知っていたけれど。
本来の物語では。
あの日、私とルシェは出会わなかった。
私は孤児院に行かず、火事は起こらず、ただ、パンが一つ消えただけ。
汚らしい、みすぼらしい、年齢よりも相当小さく見える一人の孤児が、孤児院に寄付された物資の中から、その日を生きるための食糧を盗み。
その命を繋いで、私が16になる誕生日に、私を、殺しただけ。
だから私は。
彼と出会うために駄々をこね、
彼を家に招くために孤児院に火をつけ、
逃げようとする彼にしがみついて泣き喚いた。
------やっぱり、極めるなら身体の大きさに依存しない魔術ね。学べば学ぶほど、出来ることが増える。便利だわ。
最初は首を切られた。
次はロープで吊られた。
その次は、……なんだったかしら。
遠い昔の話すぎて思い出せないけれど、何千回繰り返して掴んだ、これが"勝ちパターン"。
今のところ唯一と言っていい、私が彼に殺されないルート。
子供達に多少の犠牲は出たが仕方ない。
誰も死んでいないのだから。
きっと、許してくれるでしょう。




