第4話 なにこれ?
自転車に乗って鬼龍院さんが交通事故を起こした道へ向かう。
向かい風を全身に浴びながら軽快に進む。自転車のカゴには神様がお尻からすっぽりと入っていた。最初乗せた時は嫌がっていたのに今では自分から好んでカゴに入る。何だかペットみたいですねと伝えるとめちゃくちゃ拗ねられた過去があった。
すると前を向く神様は僕を赤い瞳で仰ぎ見る。
「もっとスピードは出せないのか? 思春期男子の脚力は非力だな」
「文句を言うのなら自分で走って下さい」
「児童虐待か? 児童相談所に通報されると大学とやらに進めないぞ?」
「都合の良い時だけ子供ぶらないで下さい」
神様は神様だけれど飛んだり出来ない。身体能力は幼女と変わらないほどだ。偉そうにしているが走るのは苦手で遅いし体力もほとんどないは知っている。
信号で待っている時も遠慮なく神様は話し掛けてくる。
僕は耳にしっかりと有線イヤホンをはめながら受け答えする。周りの人は僕が電話をしていると思って欲しいから神様と出掛ける時は必ず装着している。顔の傷のせいで不審な視線を向けられるのに独り言を永遠と喋っていたら他の人を怖がらせるだけだ。
数十分かけて交通事故の現場に辿り着いた。
潮の香りが鼻をくすぐる。鬼龍院さんが交通事故で亡くなったのは海沿いの道だった。
自転車を脇道に止めた僕は辺りを見渡す。
海に向かう道なので交通量が少ない。というかほとんど車も人も通っていなかった。夏はもう少し先なので道路から見える海岸も誰一人いなかった。
「こんな場所で交通事故なんてありえるのか? 自分から車に向かって飛び出したのか?」
神様の意見はもっともだ。見晴らしも悪くない。交通量も少ない。事故を起こす方が難しいような気もする。違和感が重なるばかりだ。
すると道路の脇に花束が添えられているのに気が付いた。電柱に置かれた花束は黒かった。赤いバラではなく黒いバラだ。珍しいというか初めて見た。鬼龍院さんの家族、もしくは友達が持ってきたのだろうか。
「異常は特になし。よし流星。さっさと帰ろう」
完全に飽きている神様は僕の服を揺らしてくる。空を見上げると東の空が黒く染まって来た。暗くなる前に帰りたいのは僕も一緒だった。
僕は神様に「もう少しだけ」と伝えると黒いバラの花束の前でしゃがみ込む。
「どうか安らかに眠って下さい」
瞳を閉じて祈りを捧げる。鬼龍院さんとは面識が無かったけれど亡くなった後は天国で楽しく暮らして欲しいと純粋に想った。
「流星逃げるぞ! はめられた!?」
神様がまた僕を驚かせようとしているのが分かったので吐息をついてしまった。神様が僕を無駄に驚かせるのは日常茶飯事だ。止めて下さいとお願いしても止めてくれない。そういう所は幼い子供のようだとは思う。
とにかく死者を弔っている間ぐらいは静かにして欲しいものだ。
「何ですか神様……僕はお祈りしているので静かにして下さいよ」
目を開けて後ろを振り替えると銃を持った男性が女性を腕で拘束していた。
「動くなよ! 動くとこの女をぶち抜くぞ!」
唾を吐き散らす男性は鋭い視線を向けてくる。
僕は状況に付いていけずに頭が真っ白になった。そして自然と「なにこれ?」と疑問を口にしてしまった。




