7話 帰り道。イアックからリナへ贈る言葉
拐ってきた子供、サラを入れた檻と彼らの所持品の見張りとして下っ端が配置されていた。
「いいかぁクソガキ。お前はどこぞの変態貴族に売り渡されることになる。親元にはもう戻れねぇ。お前の人生はもう終了だ」
「ぐす……リナお姉ちゃんが助けてくれるもん……」
「んなわけねぇだろぉ?今頃アンドレの旦那にボコされて命乞いでもしてる頃だろうよ。この後のお楽しみタイムに使うから命は取らねぇ。俺もおこぼれに預かるのが楽しみだ。この前の女はぶっ壊れて死んじまったしなぁ」
アンドレの強さをよく知るこの下っ端はリナを屈服させて連れてくることを疑っていなかった。
「リナお姉ちゃん、パパ、ママ……怖いよ……助けて……。ぐすっ……うううわあああん!」
「ははははは!泣け泣けぇ!俺はガキの人生が絶望でめちゃくちゃになるのを見るのがたまらなく好きなんだよぉ!」
他人の不幸は蜜の味。それが未来がある子供であれば尚良し。この下っ端はとてもゲスい性格だった。
「ギャハハハハ!」
高笑いする下っ端ゲス男は気づかない。
音もなく木の上を移動し、彼の後頭部めがけて膝から落下死てくる男がいることに。
ゴスッ
「ギャハハぁばべす!」
そして何も気づくことがないまま、彼の頭は地面にめり込むことになった。
「ちょっと話聞こえたけどマジで引くわぁ……。こいつもゲッスぃなぁ」
下っ端ゲス男の出番、終了である。
「わぁ!?……あ!昨日のお鍋のお兄さん!?」
「ビックリさせてごめんね。俺はイアック。サラちゃんだよね?アルトくんから話を聞いて助けに来たよ。あっちでリナお嬢様が待ってるから一緒に行こう」
「!!アルトお兄ちゃんとリナお姉ちゃんのお友達なのね!わかった!連れてって!」
「ガッテンだ!でもちょっとその前に」
イアックは賊の所持品を物色し始める。何かを探している。
イアックをマジマジと観察したサラちゃんはある疑問を抱く。
「イアックお兄ちゃんは変態さんなの?」
「……チガウヨ」
救助に来たはずなのに、年端もいかぬ幼女にヒーローではなく変態扱いされてしまうイアック。
何故そんなことになったのかというと
「なんでパンツ一丁なの?」
服を着ていないからだ……。
パンツ一丁のヒーローなんて存在しないからね。仕方ないね。
◇
お嬢様と合流するとサラちゃんは安心したのかまた泣き始めてしまった。
そして今は泣き疲れて寝てしまったサラちゃんを背負って町に戻る途中だ。
「ねぇイアック、あなたの服を私に着せちゃってよかったの?」
「いいんです。お嬢様の服はびしょ濡れですから。寒いのにあのまま着ていたら病気になってしまいます」
賊のアンドレをワンパンした後、俺の服をお嬢様に着せて俺はその辺のやつから剥ぎ取ったイカつい服を着た。
サラちゃんを助けた後に賊の所持品を漁ったけど替えの服なんてなかったんだ……。
あ〜……臭い。ダサい。もう最悪。
でも仕方ない。これをお嬢様に着せるわけにはいかないだろう。
俺だって着たくないけど半裸で森を歩く訳にはいかないし、我慢して着るしかないよね……。
ちなみに気絶してる賊共は数が多くて連れ帰れなかったので縛って木に吊るしといた。
こんな森の中で気絶した人を何人も連れ帰るなんて無理無理。
一旦戻ってシドに報告して明日回収に来るしかないな。
今はお嬢様とサラちゃんを安全なところに連れてくのが優先だ。
「イアック。ありがとうね。本当に助かったわ」
「いえ、お嬢様もサラちゃんも大事なくて何よりです」
「……私また失敗しちゃったわ。イアックがいなかったら死んじゃってたか奴隷として売られていたか……」
あ、またネガティブオーラ出そうとしてるな。
よし、無言でジト目プレッシャーかけよう。ジトジトジーーーーーーー(ジト目中)
「う……わ、わかったわよ!もう言わない!」
「お嬢様は失敗なんて一つもしてませんよ」
「……だって1人で無茶して結局やられちゃったし」
「でもお嬢様が先行したからサラちゃんは助かったんですよ?」
子供拐った後なんて本来なら即移動するんじゃないかな。誘拐なんてしたらすぐバレて追っ手が来るに決まってるんだから。
「お嬢様がついてきちゃったから相手した。そして俺が間に合った。お嬢様がいなかったらサラちゃんは追跡できない場所まで連れて行かれて奴隷にされてた可能性が濃厚です」
そしたらどうにもならなかった。
お嬢様の行動が褒められたもんかはさておき、結果的にはそのおかげでサラちゃんは助かったのだ。
「……そっか。痛い思いしたのも、ボロボロに言われたのも無駄じゃなかったのね。言い返せなくてすごく落ち込んだけど」
めちゃくちゃ好き放題言われてたからなぁ。俺は何言ってんだこいつ?くらいにしか思わなかったけど。
無視作戦決行中だったから「それってあなたの意見ですよね?」って言うのをめっちゃ我慢したよ。
俯いて歩くお嬢様。あんなやつの言うことを間に受けてしまっているのかもしれない。
その表情からは後悔や自己嫌悪などのネガティブな感情が見て取れる。
それは神の園でシドの娘自慢を聞かされていたお嬢様のイメージとはかけ離れている。
シドが話してくれたリナお嬢様のイメージは「笑顔の多い明るい女の子」だった。
今はむしろ真逆。そうなっているのは強い責任感に押し潰されているからだ。
貴族としてだけじゃなく、大切な領地と領民みんなの未来を背負っていたから。
(勿体無いなぁ)
笑った顔を見てみたい。笑顔にしてあげたいな。何とかならないだろうか。
……まぁいくら考えても、人生経験が足りない俺には俺なりの言葉しか出てこないよな。
「お嬢様」
声をかける。これから言うことがお嬢様の心に届かないなら後はもうシドに丸投げしようと決めた。
「俺の父さんの教えなんですが、「後悔しても納得できる生き方をしなさい」というのがあるんです」
これは俺の生き方・考え方の指標となっている父さんの教えだ。
「後悔しても納得?」
「そうです。一生失敗しないって無理でしょう?そんで失敗したら後悔が必ずセットでしょう?ってことは後悔からは逃げられないってことです」
「……そうね。でもそれが納得と何の関係があるの?」
「後悔の質っていうのかな。失敗をした当時を振り返って、その後悔は『その時の情報と能力で出来る最善を尽くした』と納得できるどうかが重要だっていう考え方です」
後知恵がついた今の視点ではなく当時の視点に立ち返って考えてみたときのこと。
「お嬢様はどうですか?この半年間、手抜きしましたか?何とかしようと足掻かなかった時はありましたか?その当時の自分の情報と能力で出来る精一杯をやったのではないですか?」
ぶっちゃけ15歳学生の身でシドが行方不明になった後の領地運営なんて難易度狂ってるでしょ。
そんなの失敗して当然だ。
悩んだはずだ。それこそ明るい性格が陰ってしまうくらい。
急速に悪化していく領地の状況、近寄ってくる悪意ある人間、悪化する治安、離れていく若者達に食糧問題。
しかも何もかも初めての事なのに状況は待ってくれない。やばいでしょ無理ゲーすぎる。
「それなら失敗した自分を許してあげてもいいんじゃないかと俺は思います」
「それが……あなたのお父様の教えなのね」
「はい。だからこそ、俺はそんなにボロボロになるまで今できる精一杯を尽くしたお嬢様を、心からすごいと思っているんです」
誰にでもできる事じゃない。何もかも放り出して逃げ出していてもおかしくないと思う。
「……そっか。その考え方でいくと私は私の出来ることを全力でやった。それで納得して、結果を受け入れて前を向くべきって事になるのね」
「はい」
おお!伝わった……!どう受け取ってくれたかはわからないけど、俺の言いたいことは伝えられたぞ!
「それに失敗ばかりではないと思います。領民の皆さんは笑顔でしたから。それはお嬢様がやってきたことの結果だと思います」
それがめっちゃすごいと思うこと。お嬢様の成果だ。お嬢様は自分を卑下するが、そんなことは断じてない。
「……それでいいのかな?みんなの優しさに甘えてるだけなんじゃないのかな?それでも自分のことをよくやったんだって思ってもいいのかな?」
俺は自信を持って答える。
「もちろんですよ」
「…………ありがとう。私もう一度やってみたい。今度は胸を張れるだけの結果を出してみせるわ」
「その意気です。シドが今頃なにかいいアイデアを出しているかも知れませんよ。これから挽回しましょう。私も精一杯お手伝いします。もう一度チャレンジですよ」
「うん!」
まだ思うところはたくさんあるんだろう。それでもお嬢様は笑顔を見せてくれた。
「リナァァアァア!!!どこだぁぁあ!!!」
うるっさ!すごいデカい声だなシド……。お嬢様を探しにきたか。
「パパが来たみたいね。安心したら何だかお腹空いてきちゃった」
「そうですね。帰ったらとりあえずご飯にしましょう。お嬢様は何か好物ありますか?出来るだけご期待に添えますけど」
「リナよ」
「自分食うんですか!?」
「違うから!呼び方!お嬢様なんて呼ばれるの何だかムズムズするのよ。だから名前で呼びなさい。ちなみに鳥肉がいいわ」
「わかりました。では今後はリナ様と呼びます。今晩は何か鳥肉料理にしますね」
「うん!よろしくね!」
だいぶ前向きな気持ちになれたのかな。「よろしく」と言ったリナ様の表情はシドから聞いていた通りの輝くような笑顔だった。
お読みいただきありがとうございます。
毎朝6時更新頑張ります。
リナのメンタルが少し復調してきました。
元は元気な子なのでこれからもう少し可愛くなってきます。多分。
またお越しいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。




