6話 イアックの力
あっぶ!あっぶね!今沈みかけてたよね!?もうちょいでお嬢様死んでたんじゃね!?ま、間に合ったぁ……。
森の中に人が通った痕跡残りまくりだったからあっさり追跡できて何とか間に合ったな。
「何だてめえは」
あのモヒカン野郎がお嬢様を酷い目に合わせてたな。よし、基本話しかけられても無視してやろう。そうしよう。
「いきなり飛び蹴りなんてしてきやがって、タダじゃおかねぇ。おい手下ども!誰も近づけるなって言ったよな!……何?気絶してやがるのか?いつの間に……」
ああ、周りにいたイカつい服の人たちは全員気絶させたよ。不意打ちで。
「イアック……ありがとう助かったわ。でもあなた1人で来たの?」
「はい、かなり急を要すると思って先に行動しました。シドは後から来るとは思いますが結構後ですね。多分今報告を受けたところくらいじゃないかと」
「何だお前も1人で来たのかよ。揃いも揃ってバカばっかりだなぁ」
うるさいなあいつ。
それにしても何であいつらは服のテイストを統一してるんだ?
盗賊団が服を統一しちゃダメだろ。悪党が人様の覚えを良くしてどうするんだよ。
「まぁお前も可哀想かもなぁ。その女が先走るからこんなところまで来ざるを得なかったんだろ?」
って言うかほんとにその服のセンスは何だ?あれがカッコいいのか?イカついだけにしか見えないんだが。
「その女は本物のバカだよ。現実ってもんが見えてねえ。自分が領地を守るとかほざいて結局何も出来やしねぇ」
あれ?あいつって何かに似てね?えーとえーと後ちょっとで出てくるんだけどなぁ。何だっけなぁ。
「挙げ句の果てにその様だ。本当に救えないバカだよそいつは」
ああ!オークジェネラルだ。デカいデブでモヒカン。
ぶはっ!マジでそっくりだ。え?何なのそれコスプレなの?完成度高すぎでしょ。
「その女は俺をクズなんて言ってやがったけどよぉ。俺たちがクズなのは認めるがそいつも別種のクズなんだよ。出来もしないことに大勢巻き込んだあげく失敗する能無し。言ってみればそいつは<他者を破滅に巻き込むクズ>ってとこだ」
うーん、あいつマジでうるさいな。構って欲しいんだろうか。
「イアック……。サラちゃんを連れて逃げて。それならきっと逃げ切れるわ。……あいつの言う通りよ。さっきなんて何も悪くないあんたにまで当たり散らして……本当に私はどうしようもない……」
お嬢様はか細い声で話しながらポロポロと涙をこぼしてしまう。
ヤ、ヤバいぞ!?これなんか言ってあげないとダメなやつじゃないの!?さっき怒らせた時と同じじゃないの!?
俺には荷が重いんだけど!?いい事言うの無理なんだけど!?
くっそおおお!今こそ真価を発揮しろ俺の語彙力発想力ううううう!!!!
………………
…………
……
いや無理!何も出てこない!今すぐプリーズ役立つ人生経験!
……もういいや。怒られればいいか。やりたいようにやって後から怒られよう。
「本当に私は…ダみにゅつにゅ!」
「はいストップ」
俺はお嬢様のほっぺを潰して変顔にすることで言葉を遮る。
危ない危ない。もう少しで最後まで言われてしまうところだった。
「な……なにすん……」
「その続きを言ってはいけません。そう言うのは極力声に出さない方がいいんですよ」
俺はお嬢様の手を握ってライフ術でお嬢様のライフを活性化させる。
「手、冷たいです。このままでは風邪をひいてしまいますね」
「何これ……あったかい。手から身体中に熱が伝わって温かくなっていく。それに殴られた痛みが引いていく気がする」
不思議そうな顔で俺を見るお嬢様。
俺がやったことが何か理解できていないんだろう。
「やっぱりこっちでは一般的ではないんですね。初めてやって見せた時はシドもすごく驚いてたんですよ」
「これは何なの……?」
「《ライフ術》って言います。お嬢様はマナを操って魔法を使うでしょ?これはその《ライフ》版って感じです」
「ライフって何……?これは魔法って事?」
「うーん。魔法とは違いますね。ライフは生物が持つマナじゃないエネルギーって感じです。シドが《ライフ術》って名付けくれたんですよ」
「ライフ術……」
初めてシドに見せた時は眼球が飛び出るんじゃないかってくらい驚いてたなぁ。
「お嬢様、白状します。俺、お嬢様に伝えたいことはたくさんあるけどどう言えば伝わるかわからないんです。ということで上手な言い回しは無理そうだから本心を飾らないで言います」
伝えたい事はたくさんあるけど、一つ選ぶなら
「もう一回やればいいんですよ。お嬢様」
「え……?」
「領地運営とかその他もろもろを失敗したと思うならもう一回チャレンジすればいいんじゃないかと」
俺を育ててくれた人たちが漏れなく全員言ってた。
失敗しても何度でもやってみろって。
「もう一回やったら間違いなく今回よりは成果が上がる。だってもう一回やるってのはさ、要は強くてニューゲームってことだからね」
一回ミスってその経験でレベルアップ。そして最初からやり直し。これぞ強くてニューゲーム。ちょっと違うか?まぁいいか。
「にゅ、にゅーげーむ?」
「あ、ごめんなさいそろそろあいつが襲ってきそうなので続きは後にします」
上手く伝わってないな。やっぱり会話って難しい。後でもっとお嬢様と話をする時間が作れればいいなぁ。
「何をごちゃごちゃと出来もしないこと言ってんだおい。もう一回なんてあるわけねぇだろ。お前ら2人はもう家に帰ることすら出来ねえんだよ」
ずっと無視してやったからかだいぶイライラしてるな。殺意が抑えられてないぞ。
「もう一回が無い?もしそうだとしてもさ」
お嬢様にもちゃんと聞こえるようにハッキリと、力強く、明言する。
「それなら俺がもう一回を作るよ」
「なんだ無視はやめたのか?死ぬ覚悟ができたみたいだなぁ」
「うん。もういいや、お前うるさいし話が的外れすぎて聞くに耐えないし」
オークジェネラル完コピ野郎がでっかい斧を担ぎ上げる。いよいよ向かってくるかな。
「俺は剛斧のアンドレ!この巨大な斧でお前なんぞ真っ二つにしてやる」
「剛斧?オークジェネラル完コピのアンドレじゃなくて?」
「ああ!?」
「女の子を拐って酷いことするイカつい服を着た汚いデブ……行動までオークジェネラルに似せてきてるんだし、名乗りも寄せればいいのに」
「オークジェネラルじゃねぇわ!」
「えええ・・・?でもすごい似てるんだけどなぁ。絶対リスペクトしちゃってるでしょ」
その完成度で全然意識してないって言われても説得力がないよなぁ。
「てめぇぶっ殺す」
強い殺意を向けられる。さて、油断せずに行こう。
「オオオオオラァァ!」
アンドレが斧を振り上げてまっすぐ向かってくる。
なんだ?まっすぐ来るぞ。マナコートは発動してるみたいだけどそんな振り上げた体勢からじゃ振り下ろししか選択肢なくない?正直すぎない?
いや、油断しない。
その次が考えられてるのかもしれないし、しっかり避けてとりあえず様子見の一撃を入れるか。回避や防御の意識強めで。
「はっ!」
振り下ろされた斧を避けてから腹に掌底を一発。ただし、しっかりライフを込めた一撃を入れる。
すぐその場から離脱して油断なく相手を見つめる。するとあいつは
「おぽぇぇえ」
盛大に嘔吐した。
「あれ・・・?」
そのまま気絶して自分のゲロの上に倒れるアンドレ。うわ!汚ったね。
「えええ………………終わっちゃったの?弱ぁ……」
ライフを込めた一撃を全くの無防備で受けてたなあいつ。
そんなの力を抜いた状態で腹パンされるようなもんだし、ああもなるよ。
「うそ……瞬殺?あいつって賞金首なんだから相当強いはず……。それなのにあっさり倒すなんてイアックってこんなに強かったの?」
信じられないと言った様子で固まるお嬢様。
「あー、その……お嬢様、なんか終わっちゃったみたいです」
お読みいただきありがとうございます。
毎朝6時更新頑張ります。
ついに主人公が活躍できました。
と言っても一瞬で終わっちゃいましたが。
またお越しいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。




