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5話 事件発生とリナの追跡

 石はいい。どこにでもある最高の飛び道具だ。俺は手頃な大きさの石を拾い、獲物を見つめる。


「ゲラゲラゲラゲラ」


 俺の獲物、ゲラゲラ鳥だ。ゲラゲラうるさい。

 非常にムカつく顔をしており、鳴き声がまるでコチラを嘲笑っているかのようだ。

 捕獲失敗した時はもうめっちゃいやらしい顔してゲラゲラしやがるから超ムカつく。

 だがしかし!やつは……美味い!絶対食う!


「舐めてやがるな?晩御飯の分際で偉そうに。お前にはお嬢様との仲直りディナーになってもらうぞ」


 俺は石を握りしめておおきく振りかぶり……


「食らいやがれぇ!」


 豪速球を投げた!


「ゲラぎゅん!?」


 よっしゃ当たったぁ!


「ぐへぁ!」


「えええ!?」

 

 え!?ちょ!?ゲラゲラ鳥に当たって跳ね返った石が別の何かに当たってしまった!?


「あわわわわ。やってしまった!こんな森の中に人なんていないと思って油断した!」


 急いで近寄ってみると何だか服も顔もイカつい感じの人が気絶していた。

 

「気絶してるだけみたいだ。とにかく応急手当てしてすぐに町に戻ろう」


 俺は仕留めたゲラゲラ鳥を無視して町に戻ることにした。

 ゲラゲラ鳥もったいねぇ……。でも怪我人優先だ!


 森を出るとすぐ見覚えのある子供と目が合った。あれは昨日の晩御飯の時にいた子供かな。なんかめっちゃ泣いてるんだけど?


「君は昨日ご飯食べに来てくれた子だよね?こんなところでどうしたの?って言うか森のそばに1人で来たら危ないよ?」

「兄ちゃん助けて!」

「え?どうゆう事?」

「《サラ》が拐われたんだ!」


 サラ ガ サラワレタ……ダジャレか?


「すごくイカつい格好をした人が突然現れて僕の妹のサラを連れて行ったんだよ!僕がトイレに行ってる時に悲鳴がして、急いで戻ったらもうサラを連れて森に入っていくところだったんだ」

「えええ!?マジか…もしかしてイカつい格好の人ってこの人?」


 俺は担いでいた人を子供に見せてみる。まぁこの人はサラちゃん?を連れてなかったから違うかもしれないけど。


「うわぁ!死んでる!?」

「死んでない死んでない」

「そ、そっか……。でもこの人じゃないよ。イカついけど違う。連れてった人はハゲだったから。でも多分この人の仲間だと思う。だってイカついし」


 他にもいるのか。イカつい服をお揃いで着た人達。


「兄ちゃん、リナ姉ちゃんもサラが拐われていくのを偶然見たんだ。そしたらサラを追って1人で追いかけて行っちゃったんだ」

「え!?そうなの!?」


 それって大丈夫なのか!?お嬢様って森で活動できる人なのかな?

 それに追いつけたとしても絶対荒事になるでしょ。リナお嬢様って荒事に強そうな感じ全くしないんだけど?


「マジで大変な状況だな……」

「兄ちゃんどうしよう?どうしたらいいの……?」

「話は分かったよ。えっと君の名前は?」

「《アルト》だよ」

「じゃあアルト君は領主館に行ってシドに今の話をしてあげてくれるかい?」

「分かった。兄ちゃんは?」

「俺はリナお嬢様を追いかけるよ。一刻を争うかも知れないから」

「分かった!気をつけてね」


 俺はちょうど近くに落ちてたロープで気絶してるイカつい服男を柱に硬く縛りつけて目立たない場所に放置した。仲間が救出に来てもすぐには見つけられないだろう。

 もしこの人が今の事件に全く関係ない人だったら……全力で謝るしかないな。

 

「さて、急ごう。お嬢様、無茶しないでくださいよ」

 

 そして俺は再度森に入って行った。


 

⭐︎リナ視点

 

 この半年、治安は悪化する一方だった。

 元々魔物や盗賊はパパの武勇で抑えていたようなものだから、パパがいなくなれば治安が悪化するのは必然だ。

 

 解決策としては領民を徴兵したりお金で傭兵を雇ったりすればいい。

 でも若手はどんどん町から出て行ってしまったし、傭兵は雇い続けられるだけのお金が無かった。

 結局私はろくな対策を立てられずに、今に至る。そしてついに子供が拐われると言う決定的な事件が起きてしまった。

 

「その子を放しなさい!」


 森の奥まで拐われたサラちゃんを追ってきた。森の中を走るのは大変でついて行くだけで身体中が細かい傷だらけになる。

 

 体力的にも辛くて息が切れる。

 見失わないようにするのが精一杯。

 そして森の奥まで追って行ったら……盗賊の仲間が数人待ち構えていた。


「アニキ!高く売れそうなガキを拐って来やした!」

「ノロマが!余計なのまで連れてきてんじゃねえよ!ちゃんと撒いてこい!」

「す、すいやせん」

「だが追って来たのがまさかのリナ嬢とはな。貴族令嬢が1人で来るなんて思わなかったぜ。お前バカだろう。1人でどうする気だったんだよ」


 アニキって呼ばれてたあいつが盗賊のリーダーかな……。

 2メートルはありそうな大男。何よりあいつが持ってる身の丈ほどある大きな斧が異質すぎる。

 あんなの振り回されたら私の胴体なんて簡単に真っ二つになっちゃう。

 

「あんた何者よ!」

「俺は《アンドレ》。剛斧のアンドレだ。これでも賞金までついてる有名人なんだぜ」


 嘘でしょ……。賞金首ってことは少なくとも騎士団が手を焼く相手ってことじゃない。

 何でよりによってそんなやつが出てくるのよ!

 

「助けてお姉ちゃん、怖いよぉ」

「おい、そのうるさいガキを檻に入れとけ」

「へい」


 くっ!サラちゃんが連れてかれちゃう!

 

「その子を離せって言ってるのよ!」

「嫌だね。そのガキは奴隷として売り払う。ついでにお前も奴隷として売り払ってやる。たっぷり楽しませてもらった後にな。殺さないでやるんだからありがたいと思えや」


 借金や犯罪で奴隷に堕ちる人はいるけど誘拐して強制的に奴隷にするのは重罪だ。

 それでもそういう犯罪は絶えないし、こいつらみたいな最低な奴等もいる。


「そんな事させないわ!サラちゃんは絶対取り返す!」

「へぇ。お前なんぞがどうやって?」

「無理矢理にでも返してもらうんだから!」


 私を格下と思って油断してるわ。今なら一発殴って怯んだ隙にサラちゃんを助けに向えるはず。

 私だって武官領主の娘よ。戦えるんだってことを見せてあげるわ。



 ◇

 魔法――生物の体内を流れるエネルギーである《マナ》を使ってさまざまな超常現象を起こす技術のことだ。

 

 世界に蔓延る危険生物《魔物》に対抗するための技術として生まれ、今では文化や生活にまで溶け込んでいる。

 

 世界は魔法を中心として成り立っていると言っても過言じゃない。


 私は体内を流れるエネルギー《マナ》を体表面に纏う魔法マナコートを使う。

 

「なんだ。基礎の魔法くらいは使えるのか」

「このぉ!」


 ドカ!


 私は賊のお腹を殴りつけた。

 やっぱり油断してる。まともに入ったわ。これなら結構なダメージがあるはず。

 

「何だそりゃ。痛くも痒くもねぇ。お前雑魚だな。……おらよ」

「ぎゃん!」


 右肩を雑に殴られただけなのに激痛が走る。とんでもない膂力だ。


 まさか全く効いていないの……?

 でも私が使える魔法はマナコートだけ。これだけしか……できない。

 

「ほらほらどうした?助けに来たんだろう?大事な領民だろうが守ってみせろや」


 更に右足、左足、左肩と殴られた。私も負けじと殴ったり蹴ったりするけど全然ダメージが入ったように見えない。

 

「負けない!サラちゃんは私が絶対助けてあげるんだから!」

 

「ああ?弱いくせに何言ってんだか。力のない奴は何も出来ずに這いつくばるだけなんだよ」

「うるさいわよゲス野郎!」

「威勢だけはいいなぁお前。だったらそれがどこまで続くか試してやるよ」

「え?きゃあああ!」

 

 殴ろうとした腕を掴まれて放り投げられた。近くにあった池に落とされてしまう。

 

「がは!うぐ!」


 すぐに水から上がろうとするけど頭を足で抑えられて水から出られない。

 

「おいおい何上がってこようとしてるんだ。そんなこと許すわけねえだろう?」

 

 水が冷たい。服が濡れて重い。


「冷たいだろう?そこに入っていたらどんどん体温と体力を奪われて沈んじまうぞ?」


 こいつの言う通りこのままじゃすぐに体が動かなくなりそう。それなのに両手足が痛くて力が入らない。


「助かりたいか?だったら助けてくださいって言わなきゃなぁ?自分の無能さを認めて敗北宣言しろや。そしたら飽きるまで楽しんで売り払うまで生かしといてやるよ!ぎゃはははは!」


 しかも頭を抑えられるから暴れた拍子に一瞬顔を水から出すので精一杯。その時にちょっと呼吸する程度しかできないし、その度に水が口に入ってきて溺れそうになる。

 

「本当バカだなお前。そのままだと死んじまうだろ?だから嘘でもつけばいいんだよ。ガキを売っていいから自分を助けてくれってよぉ。生意気にも歯向かってごめんなさいって言うんだよ」


 私を足蹴にする男が屈辱的なことを言う。悔しいのにこの状態じゃ言い返すことも満足に出来ない。


 このままじゃ本当に死んでしまう。池の反対側に泳いでそこから上がれば……ダメ、普通に歩いて追ってこられるだけだ。

 それにもう体が動かないよ……。

 

「水から上がったら撤回すればいいじゃねえか。心では領民を裏切ってないんだからいいだろう?それが頭のいい選択ってやつだ」


 自分の頭を指でトントンしながらニヤケ面を向けてくる。


「おっと悪い悪い。俺が足で押さえつけてちゃうまく喋れねえわな。ほら足退けてやったぞ。なんか言えよおい」


 やっと喋れる。ひとこと言ってやらないと気が済まないわ。

 

「死ねクズ野郎」

「はっ!いいぜぇお前。お前みたいなのが泣きながら命乞いするのをみるのが楽しいんだ。いつ心が折れるのか楽しみだぜ」


 また頭を足で押さえつけられる。もう手足の感覚が無くなってきた。限界が近い。でも反撃どころか池から出る方法すら無い。……でも

 

「ガフ!ゴボボ!わた、しは、負けな、い…ゲホ!みんなが、大好き、だからゲホゲホ。だから、最後まで、足掻いてやる」


 酸欠で朦朧とする最中で走馬灯のように思い出すのはここ半年のこと。

 何も出来なかった。無力な自分のこと。


 何も変えられず、騙され、搾取され、裏切られ、守るべき人たちを苦しくさせるだけだった。

 そんな無力感に苛まれ続けた記憶。


 私…死ぬのかな?何もできないままで…。怖い……悔しい…。まだ死ねないの……誰か……助けて……。


 痛い、苦しい、もう体が……動かない。


 池に……沈んでしまう。


 意識を保てない……力が抜ける。沈む……。

 

 ………………

 ドカッ

 …………

 ……ぉ様

 

 直後、誰かの声が聞こえた。私は手を掴まれて水から引き上げられた。


「ゲホ!ゲホ!」

「大丈夫ですかお嬢様!?って大丈夫じゃないですよね」


 優しい声。私を引き上げてくれたのは私を池に蹴り落とした賞金首の男じゃなかった。

 何が起きたのかわからないけど、そのクソ野郎は少し離れたところで倒れていた。

 

「……イ、アック?」

「はい。イアックです」


 私はさっきこの人に酷いことを言った。何も悪く無いこの人に……。

 

 昨日も今日も、私は酷いことしか言ってない。父を救ってくれた大恩人なのに、私はこっちの都合で追い出そうとしてただけ。


「助けに来ましたよ」

 

 そう言えば……イアックは私をバカにしなかったっけ。イアックだけは私の頑張りをすごいって言ってくれた。

 

 私は卑屈になっちゃって素直にその言葉を受け取れなかったけど。


「間に合ってよかった。間一髪でした」


 こいつは《神の園》から来たなんて誰でもすぐわかる嘘をつくようなやつだ。

 でも、顔を見れば私を真剣に心配してくれていたのがわかる。


「1人で森の奥へ向かったって聞いた時は焦りましたよ」

 

 どうやってここまできたのか、何できてくれたのか、色々聞きたいことがが頭に浮かんで来たけど


「もう大丈夫です」


 優しく微笑む彼を見て、私は何も言えなくなってしまった。

お読みいただきありがとうございます。

毎朝6時更新頑張ります。


今回で1話目の冒頭につながりました。


またお越しいただけたら幸いです。

よろしくお願いします。

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