50話 ミラに異変が?
ライフシード領を支える3つの柱がある。
<魔除けポーション スッキリバイオレット>
原料がこの地に咲くウルバイ草ということもあり、ライフシード領でしか大量生産はできない。それなのに必要としない人も存在しない。作ってるだけで領地が栄えるといえるほどの代物である。
<ライフシード領自警団 改め《ライフガード》>
魔闘祭で優勝したレーヴと3位のカシム。世間ではマナ不全者として魔法の使えない弱者扱いの2人が見せた大活躍と、過去の英雄シドが見せたレッドオーガのワンパン討伐。
スッキリバイオレットによるライフシード領の好景気も重なり、人がたくさん集まっているライフシード領を守る彼らは何者なのか。
ライフアーツという謎の武術を使い、騎士団ですら討伐に難儀する魔物を狩る彼らのことを知りたがる人は多い。
最近では少しずつ有名になり、自警団では格好がつかないとの意見により《ライフガード》と呼称を変えた。
<美と健康の楽園 ライフォニア>
ここに来れば健康になれる。
ここに来れば美しくなれる。
多数の目に見える実績を出し続けるこの施設が話題にならないはずがなく、遠い先まで予約で一杯だ。好景気の中心は間違いなくこのライフォニアである。
一度は閑古鳥が鳴いていたライフシード領のメインストリートには多くの店が並び、行商人の来訪に頼らずとも生活に必要なものを買い求められる環境になった。
これ全てに最重要人物として関わっている人物がいる。
その人物には立派な肩書がたくさんついている。
◯魔除けポーション スッキリバイオレット 顧問監督。
◯ライフガード部隊 総隊長
◯ライフォニア 代表取締役
ついでに
◯ライフシード領主家使用人
少し前まで衰退していたライフシードの地をあっという間に隆盛期にまで持ち直してみせた人物。
それが謎の青年 イアックである。
⭐︎シド視点
「なぁシド、お前んとこのイアックやべえんだけど。マジで色々やべえんだけど?」
「陛下……ここで遊んでて大丈夫なんですか?」
「問題ない」
今日はディアス陛下が近衛のクランツを連れてライフォニアのサービスを受けに来ている。
ライフ術に骨の髄までハマってしまい、無理矢理仕事を片付けて来たようだ。
「ツキ虫……だったか?不治の呪いと言われていた病をイアックが一瞬で治したとか聞いたぞ」
「ここに来てすぐそんなことを報告された身にもなってみろ」
「面白くなっちゃったとか?」
「よくわかってるじゃねえか」
世の中にツキ虫で苦しむ人はそれなりにいる。今後はそいつらも治療してやることができる。
「まずは調査だな。ツキ虫に苦しむやつがどれだけいるか確かめてみないと」
「調査したら連絡するからイアックに治療をお願いさせてくれ」
「ええ、本人も協力すると言ってたわ」
「あいつはマジで出来た野郎だなぁ」
基本優しいからね。そういう人たちを見捨てるなんて考えられない。
「それにしてもライフヒーリングを受けてから体は軽いし頭は動くしで仕事の進みが全く違うんだよ」
「だからと言って外遊しすぎですよ。もう少し落ち着いていただかないと。城外での警護の方が気を使うんですからね?」
陛下はクランツの苦労など知らんとばかりに自由に振る舞っているようだ。
「シド知ってるか?貴族派の基本理念の<魔法が至高>って考え方がもうすぐ崩れ去るらしいぞ」
「もうそんな話になってるんですか!?」
「ははははは!俺の中でそうなってるだけだ」
「<僕の考えた理想の展開>って感じ!?」
陛下は上機嫌に笑いながらふざけ始める。
ライフォニアの影響……いや、イアックの存在ははアルマ王国の政治派閥の争点となっている理念をを根底からぶち壊している。
「俺は王国派の筆頭だが、国がまとまってくれるのが1番いいんだよ。そんで貴族派の言うことがわからないわけでもないんだ」
「貴族派が言う<魔法が至高>と言う考え方は魔法が使える奴らの方が実績が根拠だろ?」
人々の生活を安全、快適にする装置を魔道具という。
それらはマナをエネルギーとしているために稼働させられる人材も限られてくる。
小さな魔道具なら大概の人間でも扱えるが、浄水の魔道具などはそうもいかないのだ。
魔道具が無ければ今の生活が成り立たない以上、それらを扱える人材に富が集まるのは当然だし、格差が生まれるのは当然だ。
「魔道具が無ければ途端に原始的な生活になるものね」
「だから貴族派の言う<人間の価値はマナで決まる>と言うのを完全否定はできなかった」
<魔法の才能こそ人間価値の根幹>とする貴族派と<人間価値を魔法だけで決めるべきではない>とする王国派の分かり合えない絶対的な違いだ。
「もうその価値観は終わりを迎えるわ」
「ライフ術が広まれば今までの価値観が一変しますからね」
もう既に多くの貴族がライフ術を知り、その存在を無視できなくなっている。
人間の価値が魔法やマナだけでは計れない時代が来るのは明白だ。
「それだよ。俺の理想としてた<民全てが主役になれる国作り>をイアックがどんどん推進してるんだよ。あいつホント面白すぎ」
「シドの言う通り陛下の治世において最重要人物の1人になったわけだ」
「先日はランドウ侯爵も来たんだろ?あいつならイアックをめちゃくちゃ気に入ったんじゃないか?」
「あの方は貴族派ですがいい意味で毒されていませんからね。ドライと言うか……理念や信念より合理性が前に来る方ですから」
「気に入ってたと思うわ。終始ずっと楽しそうにイアックと話してたもの」
貴族派の大物までライフ術を認めていると見ていいんじゃないかしら。
そう考えるとイアックったら国中に太い横のつながりを作りまくってるわね。
「あいつ国政を手伝ってくんねぇかなぁ」
「即答で断られそうですね」
「平民を重要な役に就かせるのは無理ですしね」
そんなことすれば流石に他の貴族の反感を買うわね。
「まぁ何にせよあれの手綱握れるのはお前だけだな」
「イアックから掛け値無しに慕われているシドだけでしょうね」
そうかしら?そう言われると悪い気はしないわね。
あの子が来てから仕事しかしてない気がするし、貴族対応が増えまくって気を揉んだりするけど……。
「ところでそんなお前に忠告だ。ミラ嬢のことなんだがな、少し心配になるような状況だぞ」
「聞きました。ランドウ侯爵に……」
『ミラ嬢に対して何か手を打つべきだね!かなり追い詰められているようだぞ!』
ランドウ侯爵はイアックの話を聞かせてくれた御礼としてミラちゃんの現状について教えてくれていた。
「何だ既に聞いていたのか」
「どうするんだシド?」
「……何とかするわ。私の大事な娘のピンチだもの」
あたしはミラちゃんに頼りすぎていたわ。心のどこかであの子なら大丈夫って思っていた。
領地のことで頭がいっぱいになっていて娘のことまで気を回してやれなかった。猛省してるわ。
「宛があるのか?」
「………………ある」
「なんだ歯切れが悪いじゃないか」
「……言うと自分が情けなくなっちゃって」
「あ、もうわかったぞ。っていうかそれしか無いだろうな。まぁ王都では俺も気にかけてやれるから少しは安心しろ」
「…………ありがとうございます」
はぁ……。みんなに怒られるわ。そしてそれしか出来ることがない自分が情けない。
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