51話 王都に行ってほしいの
⭐︎エルナ視点
「髪型良し、お化粧よし、ですね」
早朝から余念なく出かける準備。
行き先はライフォニア……ではなく鍛錬場です。
『エルナさん、師匠と一緒にいる時間を作りたいなら一緒に通勤したらいいッス!いつも鍛錬後に師匠は1人で通勤してるッスよ!』
ある日のライフォニア警備当番だったレーヴ君に言われてハッとしました。
日中は忙しくてなかなか一緒にいられないイアック代表と確定で2人きりになれる時間。使わない手はありません。
最初は早朝に押しかけるのは迷惑なのではと思ったのですが
『大丈夫ッス!師匠はエルナさんに会えるの楽しみにしてますから。喜ぶだけッスよ!』
と言っていました。
彼はイアック代表をすごく慕っていていろいろ話を聞いているようで、色々教えてくれます。
『エルナさん、師匠の好みのタイプを聞いてきたッス!因みにエルナさんは師匠の好みにドストライクです!』
『ほ、ほんと?』
『はい!既にエルナさんに惚れてる可能性もあるし、そうでなくても時間の問題ですよ!』
これが昨日の会話。
レーヴ君が気を利かせてイアック代表のことをいろいろ聞いてきてくれます。
男同士だからこそ聞けることもたくさんあるみたいです。
もし……もしですよ?本当にイアック代表が私のことを良く想ってくれているとしたら……。
ダメダメ、こんなニヤニヤしてたら不審です。
「ピィ」
「あ、アオコさんおはようございます」
アオコさんも来てくれたし、そろそろ行きましょう。
◇
鍛錬場に着いたらライフガードの方々にご挨拶して案内してもらいます。
邪魔にならないように隅で見学です。
イアック代表はライフガードのみなさんに指導しながら自身も汗を流しています。
鍛錬中はとても真剣な眼をしていて、普段の優しくて楽しいイアック代表とのギャップでクラクラします。
その姿に目を離せない。これは多分魔闘祭の上位選手に黄色い声援を送る女性と同じ気持ちですね。今まで理解できませんでしたが、今の私には理解できました。
強い男性に人並みの憧れはあったけど、今までとは比べ物にならないほど惹かれます。これがあの女の子たちの気持ちかぁ。
鍛錬の終わりにイアック代表がシャツをたくしあげて額の汗を拭う仕草。割れた腹筋を見て顔が赤くなってしまいます。
……シド男爵の筋肉談義は理解不能でしたが、こちらも少し理解できるようになってしまいました。何と言うか……セクシーなんですよ。
「エルナさんお待たせしました」
「いえ、鍛錬風景を眺めるのは楽しいので全然平気です」
イアック代表が汗を洗い流してから着替えてきました。
今日も貴族の方を相手するので正装です。鍛え上げられた体をしているからか何を着ても様になります。
……いつも思うのですが、イアック代表はすごくイケメンです。今までの私はこのイアック代表をみてよく平気でいられたものです。
「今日はイブサル子爵様の2回目の来訪ですね。ちゃんとこの前渡したメニュー通り節制してくれていたらいいのですが」
「そうですね。でももしダメだったとしても根気よく行きましょう。奥様も一緒に来ると思うのでエルナさんはきっと今日も捕まってしまいますね」
「あはは、多分そうなりますね」
狙い通り通勤時間はイアック代表との2人きり。
話す内容も有意義だし、短いけど幸せな時間。あんまり甘酸っぱくはないですが。
ライフォニアに着いたらお互いの役務に集中します。
「支配人、今イアック代表がお昼中ですよ。ご一緒されてはいかがですか?」
ジーナさんが気を利かせて休憩時間を合わせてくれた。
「いいんですか?」
「いいのよ。早く行ってきて。私はエルナを応援してるんだからね」
「ありがとう!」
ジーナさんと仲良くなれて本当に良かった。最高の友人だよ。
急ぎイアック代表を探す。
今日も忙しいので休憩時間はあまり取れないと思います。
そんな僅かな時間でも一緒にいたいと思ってしまう。
いた!食堂でご飯食べてます……あれ?シド男爵様と一緒ですね。
2人きりじゃないのは若干残念ですが、シド男爵様ともお話ししたいと思っていたところです。
是非私もご一緒させてもらいましょう。
そう思って声をかけるべく部屋に入っていきます。
「イアック代表、ご一緒してもいいでしょ――」
20歳になって初めてした恋。こんな制御の効かない気持ちも初めてです。今、私の恋は大きく走り出しています。
「お願いイアック、王都に行って欲しいの」
……そして急停止の予感です。
⭐︎イアック視点
スッキリバイオレットの生産は大きな問題などなく順調。ライフォニアもみんなの接客レベルが上がっていい感じになったな。
従事する人たちがノウハウを理解し、自分で仕事のクオリティを高めるべく考えて動いてくれている。
「どっちも完全に軌道に乗ったな」
ライフシード領の復興は順調だ。財政的にはもうシドが行方不明になる前より良くなっているし、治安も劇的に改善された。それに伴い雇用も増加。その影響もあって人口も増加している。
シドも忙しくしており、嬉しい悲鳴をあげている。たまに忙しさでマジもんの悲鳴もあげるからうるさくてかなわない。
「おはようございます、イアック代表」
「エルナさんお待たせしました」
おうふ……。美しい……。
いや待てよ俺。朝一挨拶されただけで見惚れてたら仕事にならんぞ。
朝の鍛錬を見学していたエルナさん。
意外と鍛錬風景を眺めるのが好きらしくてここ最近毎日見学している。
その後俺を待っててくれて、一緒に出勤するのが最近の日課になっている。
頼れる支配人のエルナさん。最近は美しさに磨きがかかりまくりで思わずドキッとしてしまうことが増えた。
こんな綺麗な人をお嫁さんにもらう人は何て幸せなんだろうか。そんなの幸運を来世の分まで前借りするくらいの覚悟が必要じゃないだろうか。
でも今は恋人はいらないと言っていたし、あんまりそういう目で見ちゃだめだよな。
今は美人と並んで歩ける至福の時間を楽しむだけにしとこう。
あーあ、俺も早く恋人が欲しいな。恋愛賢者様の助言通りお金を稼げるようにはなったし、次のステップについて相談してみるかな。
そんな普通の日の昼飯時、シドから衝撃のお願いをされることになる。
「お願いイアック、王都に行って欲しいの」
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