48話 ランドウ侯爵から見たイアック
「ランドウ侯爵様、またのご利用をお待ちしております」
「もちろんだとも!」
ランドウ侯爵はライフォニアに2泊し、今日はもうお帰りになるそうだ。
そもそも今回は多忙な隙間を見つけての来訪だったらしく、2泊が精一杯とのこと。
本人としてはもう少し疲れを癒したい意向があるようだが、そうもいかないと残念がっていた。
「イアック君、今度はぜひ私のランドウ侯爵領にも来てくれ!歓迎しよう!」
「はい。その時はまたご挨拶にお伺いさせていただきます」
こう言ってくれはしたけど、俺は平民だからランドウ侯爵を訪ねるわけにはいかないだろうな。わかってて言ってるだろうしリップサービスだと思っておこう。
「私が利用したからには今後は貴族派も多数利用しにくるね。その時も昨日のように歓迎してやって欲しい」
「もちろんです。その時は精一杯のおもてなしをさせていただきます」
今までは貴族派の方は数人程度しか来訪いただけていない。
それはライフシード領が王国派だからだろう。
しかし、貴族派の重鎮であるランドウ侯爵が利用したことで敷居が低くなり、他の貴族派の方にも利用してもらえるようになると思われる。
「それではライフシード男爵、イアック君、また会おう!」
こうして来た時より足取り軽く、肌も髪もツヤツヤになったランドウ侯爵は帰っていった。
⭐︎ランドウ侯爵視点
「それでライフォニアはどうでしたか?」
ライフシード領から帰る馬車の中。護衛のドルチェが今回のライフォニア来訪についての話を聞いてきた。
「いやぁ楽しかったね!こんなに体が軽いのは何年ぶりか!それに料理、風呂、どこを見てもさまざまな工夫がされていて感心してしまったよ!」
まるで違う世界に迷い込んだのではないかと錯覚してしまうような不思議な体験だった。
「……私は侮っていました。一部の貴族が誇張しているだけだと思っておりました」
「それでドルチェはどうだったのかね?」
「……虜にされましたよ」
素直でよろしい。
ドルチェの顔を見れば一目瞭然だ。血色良く、若返ったかのように覇気がある。
「あれは有用すぎる。私もイアック君を領地に連れていけないかとずいぶん頭を捻ったよ」
疲れを取る、軽傷を治す、人間本来の機能を活性化させる。
日々を生きていく中で誰でも必ず鈍っていくその力を再び与えてくれるというのは反則的とも言える。
成果を上げることを義務付けられている私のような者ほど抗えない。一度味わったら抜け出せない。
なるほど、これは敵対などできない。そもそも敵ではない。癒しをくれる超強力な味方と言えるのだ。
「しかしイアック君のことはある程度見極められたよ」
突如として現れた不思議な青年 イアック。
魔除けポーションの開発者として一瞬でその名が国中の貴族に知れ渡る。
次に着手したウェルネス施設 ライフォニアによって国家単位で初となる派閥の垣根を一切なくした商売を始めてしまった男。
誰もが出自を調べるも、ライフシード男爵が連れてきたと言うことしかわからない。そして当のライフシード男爵は未開発地帯から連れてきたとの一点張りなのだから謎しかない人物だ。
「あれは特異点だね!貴族派にとってあれほど危険な存在はいないよ!」
貴族派の主張は魔法こそが至高であると言う今までの常識があってこそだ。
「魔法使いの優位性を根底から破壊する存在。すぐに世の中のあり方を変えてしまうだろう」
「……どうしますか?消しますか?」
「いや、それはやめておこう。リスクとコストにリターンがまるで釣り合っていない」
ライフォニアにいる時点で彼は対権力に対して無敵だ。
強引な手はもっと無理だ。神鳥レガに英雄シド、そして彼自身も無双の強者だ。
ドルチェは強いが流石に厳しい。
「それに私は貴族派が窮地になったとしても別に構わないのさ!」
「そうですね。ランドウ様はそういう方でした」
それならそれでやりようはある。私は貴族派に属するがその思想に染まってはいないからね。
むしろ合理的でない部分には全く賛同できないくらいだ。
ドライな思考を持って柔軟な考えをしないと思わぬところで足元を掬われてしまうからね。
「引き抜きも……現状では不可能ですね」
「イアック君とライフシード男爵に不和が少しでもあればそこを突いていけたんだけどねぇ」
「乗っ取られているとか、傀儡になっているとか、色々考えて来ましたけど完全に当てが外れましたね」
ライフシード領はもう実質イアック君が運営しているような状態だ。
それはハッキリ言って異常だし、ライフシード男爵も何故それを許すのか、イアック君は何を考えているのか。それを確認に来たんだけど。
「随分と良好な関係のようだ。言い表すなら父親と長男が1番近い気がするよ」
イアック君のことを話すライフシード男爵は優秀な息子を自慢するバカ親にしか見えなかった。
「イアック君も脳筋の父親を上手く転がす孝行息子って感じだったしね」
「彼の提唱する……ライフ術と言うとんでも技能も広く知られました。もう無かったことにはできません」
あれは確かにとんでもない代物だ。
それを誰にでも情報をほぼ全部開示してるから秘密もなければ弱みもない。
隠すから暴かれるし嘘をつくから弱みになるんだと言わんばかりのフルオープンスタイルだ。
すでに彼のノウハウが広く流出している。
仮に今から彼を止めてもこの流れは止まらない。
つまり時代が変わろうとしているのをもう止められない。
「彼がもっとガメツイ人間ならなんとでもなったのにね」
利益を独占しようとして技術を広めていないのならどうにかできたかもしれない。
しかしそれはもう手遅れだ。今更大きなリスクと多大なコストをかけてイアック君を害しても大した意味はない。情報を開示したことが逆に彼の身を安全にしている。
あらゆる意味で付け入る隙がない。
「ライフシード男爵もこれからは注視しないといけない。あれは無双の武器だからね」
「無双の武器ですか」
「そうだよ!武器単体では脅威でなくても使い手がいるならなんでも打ち破る。それがライフシード男爵だよ」
暗殺者に敗れたと言ってもそれは絡め手に嵌められたからだ。直情的で御し易いから絡め手で簡単にやられる。
でもイアック君という使い手に使われているなら……何者をも打ち負かすポテンシャル持つ。
イアック君自身もまだ発展途上のようだし、末恐ろしい限りだ。
「なんて言ってみたけど、実はイアック君をライフシードから引き離す方法はもう見つけてあるんだけどね」
彼、そういうところも隠してないんだ。自分から教えてくれたよ。
「流石でございます。それでどんな方法なのですか?」
「彼、イケメンだったね?」
「???まぁそれはその通りですね」
「ドルチェはタイプではないのかい?」
「……その質問にはどう言う意図が?」
彼は自分のことを純朴だと言っていたから「どうしてそう思うんだい?」と聞いてみたんだ。
そして返ってきた答えは
「彼ってば結婚願望があるみたいだからねぇ」
なんとも甘酸っぱい話だったよ。
最高の伴侶が欲しいだなんて言われて面食らってしまったほどだ。
「彼を味方につける方法はね。女性だよ」
「……エルナ殿がいるのでは?」
「今は恋仲ではないらしいし、もしそうなったとしても側室にしてしまえばいいよ」
「イアック殿は貴族ではないですが?……いや愚問でしたね」
貴族でなければ重婚は認められない。だからイアック君は側室なんて娶れない。しかしそんなの関係ないだろう。
「すぐに貴族になるさ。本人嫌がってるけどね」
あれだけ功績を立てまくっているのだから遅かれ早かれそう言う話になる。
「……なるほど。しかし私はそっち方面はあまり……」
「まぁドルチェ君が乗り気でなくとも誰か近寄らせてみるさ」
「絶世の美女とも言えるエルナ殿がいる場所では厳しい戦いになりそうですね」
エルナ君は手強いだろうね。本人は世界一の美女を作るのが夢と言っているけど「本人がそれになる気なのでは?」なんて言う噂が立つ程度には見目麗しいからね。
「ああ、心配しなくても彼はエルナ君と離れて自分が築いたライフォニアという箱庭から早々に出てくることになるよ」
私がそう仕向けたからね。
「次は何をしてくれるのか実に楽しみだ」
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