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47話 ランドウ侯爵と一緒

⭐︎シド視点


「ランドウ侯爵、部下の非礼をお詫びいたします。」


 イアックはライフォニアのトラブル処理に向かってしまった。その結果、貴族派の大物貴族をただ待たせるなんてことになっている。

 とんでもなく失礼な話よ。


「どのような理由であれ侯爵様を待たせるなど失礼にも程がある。どういうおつもりか」

 

 ランドウ侯爵の護衛の方から非難の声が上がる。当然の反応ね。主人が待ちぼうけさせられてるんだもの。


「《ドルチェ》、その辺りでいいよ。ライフシード男爵もそんなに畏まらなくても大丈夫さ」


 ランドウ侯爵が護衛の方を制止してくれた。ドルチェというのね。侯爵ほどの高貴な方を1人で護衛するなんて相当な猛者のはず。

 

 でもどういうつもりかしら?私が知るランドウ侯爵ならこの場面でこちらを追い詰めて来そうな気がするのだけど。

 

「しかし侯爵様、これはあまりにも」

「私はここには休暇できたんだ。宮廷のようなギスギスとした空気はごめんだよ。それにライフォニアでは派閥の話は無粋だ。それがライフォニアの流儀だろう?」


 多くの人がライフォニアを訪れる理由はとにかく癒しを求めてのこと。ランドウ侯爵もそうなのだろう。

 

 それにしてもライフォニアの流儀か。確かにイアックがそういう空気感を作っているわね。侯爵は初来訪のはずだけど下調べもしっかりしているのがわかるわ。


「それにイアック代表はすぐ戻るさ。彼はライフォニアにいる限り無敵だからね」

「無敵……ですか?」


 確かにイアックに勝てる人はいないわね。あの子超強いから。みんなグーパンで1発よ!

 

「そうとも!彼はライフォニアにいる限り多数の権力から守られる立場にある。つまりよくある<権力のゴリ押し>が一切通用しないのさ」


 あれ?腕っぷしの話じゃなかったの?権力のゴリ押しって通用しないの?そうなの?


 あたしも全然わかっていなかったけど、実はイアックはかなり凄いことをしていたようだ。侯爵の説明を聞くには

 

 美と健康の楽園 ライフォニアは開業から1年も経たずして全ての貴族たちの間で絶対に必要なものとされている。


 健康と美を求めるのも誰でも一緒。

 一度味わうと抜け出せないのも誰でも一緒。

 

 それらは派閥によらず提供されるサービスであり、そう明言されている。


「誰からも必要とされるという事はライフォニアを利用した全ての貴族とその関係者から庇護されているとも言えるんだ」


 仮に無理やりこれを独占、支配しようとする者がいた場合どうなるか。

 派閥を越えて、王家を含む全ての勢力を敵に回すことになる。


 誰からも必要とされ、誰にでも十分に提供されるサービス。だからこそ独り占めや不当な横やりが許されない。


「……なるほど。ここはある意味不可侵領域になっていると」

「もちろんそれだけではないよ。結構複雑にいろんな要素が絡み合っているさ。話すと長くなるからそれはまた今度だ。それより今は――」


 ランドウ侯爵があたしの目を見ている。な、何かしら!?って言うか腹の黒い会話であたしが侯爵に敵うわけないのよ!?何か大事な情報を抜かれちゃうんじゃないかしら!?


「ふふふ、そう畏まらないでくれ。イアック君にも自然にしてていいと言われてないかね?」


 言ってた。隠すことなんてないからって言ってたわ。


「私はライフシード男爵を高く評価しているんだよ。貴殿の強さは王国にとって非常に重要だ。信託もあることだしね」


「恐縮です」

 

 信託――世界中で信仰されている女神レイラの信託の事だ。


『いつか世界を滅ぼす大災厄が訪れる

強き者を頂点として災厄に立ち向かえ』


 いつかくる災厄。それは今日?明日?それとも既に始まっているのかもしれない。

 この世界はそんな危機が訪れると決められているのだ。


 だから王国のみならず世界中で強者が優遇される。そして強者とは魔法使いとされる。だから魔法こそ至高という風潮が生まれる。


「さて、ただ待っているというのも退屈だ。イアック君が戻るまで是非とも彼のことを聞かせてほしい。どこで出会ったんだい?」


 イアックからは「俺のこともなんでも話していいよ」と言われてる。

 

 これなら話してはいけないのは魔除けポーションのレシピぐらいなものね。そしてそれは暗記してない。イアックが書いてくれたメモがないと話せない。それは持ってこなければいいだけ。

 

 なんだ。もうほんとに制限無しのただの雑談になりそうじゃない。


「ええ、わかりました。イアックとの出会いは――」

 

 ◇


 ⭐︎イアック視点


 大急ぎで戻ってきたらなんか盛り上がってた件。

 

「ははは!そうか!イアック君はそこまでの猛者なのか!」

「ええ!魔物退治なんて私よりずっと短時間で大きの成果を出しますよ!」

「はははははは!なるほど!ライフシード領がこんなに早く持ち直したのも納得だよ!」

 

 仲良くなってるじゃん。

 お互いに有意義な時間を過ごしたようだ。

 

「めっちゃ話が弾んでるし……」

 

 シドが失礼をしていないか心配だけど取り敢えず帰還の挨拶をしようか。

 

「ただいま戻りました。ランドウ侯爵、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした」


「おお!これは早いお帰りだ!まだ1時間と経っていないよ!」


「恐縮です」


「短い時間だがシド男爵からライフォニアのことを話してもらっていたんだ。もう待ちきれないよ。さぁ連れていってくれたまえ!」


「かしこまりました」


 シドのやつ何を言ったんだ……?ハードルを無駄に上げてたら晩飯は野菜のみにしてやるぞ。

 ジト目を向けるとシドはそっぽを向いて小さくなってしまった。

 絶対余計なこと言っただろ!


「君が言っていた国王陛下ですら未体験の価値というのも楽しみでならないね」


 うぐ……余計なこと言ってるのは俺も一緒だったか……。



 

 ◇


 ライフォニアに着いてすぐ、俺は驚愕した。


 (明らかに……今までと違う)


「いらっしゃいませランドウ侯爵様。本日は美と健康の楽園 ライフォニアを心ゆくまでお楽しみください」


 エルナさんの挨拶から始まったライフォニアのサービスフルコース。


 ライフマッサージ、ライフリペア、ライフアライブの3軸を中心に全てのサービスを堪能していただいた。


「素晴らしいよイアック君!下調べもしていたけど想像を超えている!こんなに体が軽いのは何年ぶりだろう!」

「確かにこれはリピートしたくなります」

 

 大満足いただけたようだ。

 侯爵なんて立場の人が疲れてないわけないからね。

 でもご案内していて思ったんだけど……一つだけ問題点が出てきてしまったんだよなぁ。

 

「ただ……何が今までと違うのかわかりませんね。今の所は下調べの通りです」


 ぐっ……やはりわからないか。伝わってないかもしれないと言う問題。実際には昨日までとは全く違うんだけどな。

 

 今日ライフォニアに到着してからのみんなの対応を見た時に内心でガッツポーズした。それ程変わっている。


 (でもそれは昨日を知ってる俺だから感じる事だよなぁ)


 今日初めて来たランドウ侯爵と護衛の方が分かるわけない。……そこまで考えてなかったあああ!俺のマヌケえええええ!


「私は感動しているよ!確かに変わっているのさ!何が変わったのか当てて見せよう!」


 え!?マジで!?


「ズバリ従業員の意識だ!」

「!!!?」

 

 多分……当たってる!え、侯爵マジすごいんだけど!?なんで分かるの!?


「侯爵様……それはあまりにも……」

「そうか?だがこれは凄いのだぞ。従業員の誰もが私を心からもてなしてくれているのだ」


 侯爵の言う通り、昨日までとは明らかに接客のレベルが違う。

 笑顔一つ見てもお客様の来訪を心から喜んでいることが伝わってくるのだ。

 

 接客のレベルアップの背景にはまず間違い無く意識の変化があるだろう。


 そう、<おもてなしの心>を高レベルで体現できているのだ。


 もちろん普段からおもてなしの心については説明していた。


 シゲ爺から聞いた日本のおもてなしの精神を再現したいと思って意識改革をしていたのだが、昨日まではあまりうまくいっていなかったのだ。


 ここの従業員は元々は各地で不遇な目にあって来た人たち。貴族の理不尽に晒されてきたことでどうしても萎縮してしまい、昨日まではぎこちなさが消えなかった。


 それが今日は感じられない。畏れが別のものに置き換わっているのだ。

 

「私は人の畏れがわかるのだよ!侯爵という立場上、相対する人は大なり小なり必ず畏れを抱いているからね。わかるようになったんだ」


 ランドウ侯爵はやり手で知られる大貴族だ。今朝シドがビビり散らしていたように誰だって萎縮する。

 

 とって食われるわけじゃない?そんな事ない。自信とか、情報とか、威厳とか、油断すれば色んなものを食われるんだ。


「侯爵という立場上仕方のない事だと割り切っているがね。それ故に私は人の100%の仕事になかなかありつけないのだよ」


 萎縮している人間が最高の仕事ができるか?できない。だから侯爵は一部の選ばれた人間からしか最高の仕事を享受することができない。

 

「だが彼女たちはどうだ。畏れを感じさせないではないか。それでいて決して舐めているのではない。これは敬っているのだ」


 相手を観察し、敬い、気遣う。快適に過ごしてほしいと願う。

 

 おもてなしの心は相手を大切な存在として接する心。相手がどう感じるかが全てであり、正解なんてない。


 (ランドウ侯爵にこう言ってもらえるのは紛れもなくみんなの接客がおもてなしの心を体現できていたからだ。すごいよみんな)


 それと同時に思う。

 

 (侯爵ってマジですごくない?)


 少ない情報でなんでも察してくる。洞察力とか考察力がめちゃくちゃハイレベルだ。

 

 貴族の格付けチェックなんて企画をして本物の仕事はどっち?ってやったら全部正解しそうだ。

 

「……侯爵の凄さをまざまざと見せつけられました」


 本物を見抜き、本質を理解する。しかも初見で、短時間で。

 この人の前では嘘や手抜きは一切通じないと思った方がいいな。

 これがやり手と言われるランドウ侯爵なんだ。

 

「ふふふ。さっきのライフヒーリングでは変な声を聞かれたからね。少しは威厳を回復させないと」


 ああ、確かにあの時は昇天してましたもんね。お疲れですもんね。

お読みいただきありがとうございます。

またお越しいただけたら幸いです。

よろしくお願いします。

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