46話 トラブルがひと段落しました
「く、くそ……こうなったら……」
ん?まだ何か用意してそうな感じあるな。
俺の留守を狙って、父親を人質にして誘き出して、契約書で脅して、貴族の力で縛って、危うくなったら父親の命を盾に使って、じゃあ次は何だろうな。
何となく次を予想しつつ敷地の外にマゼル商人を連れて行く。
すると外に待っていたのは敵意剥き出しの集団だった。
「手下に聞きましたよ。マゼルさん、あっさり破滅してるじゃないですか」
隠す気もない殺気。ゾロゾロと出てくるニヤけ面の男たち。
最後の手段は武力制圧ね……。マジで手を尽くして準備してきたなぁ。このジジイはそう言う抜け目のない能力を正しい方向に使えないんだろうか。
「その女をこっちに渡してもらいましょうか。今晩私の相手をしてもらうんですよ。それを約束にこんな何もない場所まで来たんでね」
えええ……?マジでこんなゲスいの連れてきたの?
「《ガガラ》!こうなったらチョレー子爵諸共全員やっちまうんじゃ!報酬は女でも金でもいくらでも用意してやるぞい!」
「何だとマゼル貴様ぁ!しかもガガラだと!?"1000人殺し"の異名を持つ凶悪な賞金首じゃないか!?」
武装した男が全部で10人かな。こっちは非戦闘員を守りながらこいつらの相手をしなきゃならないか。
しかもランドウ侯爵がこれからここに来るのにゲロとか血とか飛び散ってたらダメだよなぁ。
どうしたもんかと考えていたら背後からゾクっとするほどの殺気を感じた。
「うえぇ!?あ、やば、ちょ、待って待って」
今気づいた!この状況やばすぎだ!
「そんなにビビり散らして情けない男ですねぇ」
「ひゃははは!流石に手に負えんか?今謝ってエルナを渡してひれ伏せば許してやるぞい!」
俺は全力で走る。
相手のガガラとか言うバカに向かって。
「アオコおおおお!!!ストップううううう!!!せめて手加減してくれえええええ!!!」
マジな殺気を放つアオコを止めるために。
「「「「ギャアアアアアア!!!」」」」
9人の男を一瞬で戦闘不能にするアオコ。
何とか手加減してくれたようで全員痛みでうめいているが死んでない。
見極めろ!アオコの軌道を!
俺は全神経を対アオコに集中した。
バシィ!ギギギギギ……
「アオコ……君がその速度で心臓に突っ込んだらそいつ死んじゃうから……」
俺は何とかアオコを両手でキャッチすることに成功。あまりの勢いに俺の足が地面を抉りながら引き摺られた。
「ピィ!」
「な、何だコイツは!」
アオコはガガラとか言うリーダー格の男だけはマジで殺そうとしたみたいだ。
「お前ホントいい加減にしろよ……アオコがいる時点で武力制圧は不可能なんだよ。自重しろよ」
アオコは神鳥レガ。超硬度の嘴を持ち、神速で空を飛ぶ。
攻撃時に描く軌道は青い残像を残し、それはまるで変幻自在の止められない小鳥サイズの蒼い弾丸だ。
本気を出せばこんなやつらはアオコを知覚することすらできず体に大穴が開く。
「大丈夫だアオコ。ちゃんと俺がやるから」
「ピィ!ピィ!」
アオコはエルナさんと仲がいい。
そのエルナさんを泣かすわ、怯えさせるわ、下卑た悪意を向けるわ……相当怒ってるな。
もう問答無用だ。このバカをボコす。そうじゃないとアオコが納得しない。
「よくもやってくれたな優男があ!」
「俺がやったんじゃありませんけど!?」
部下がやられて焦ったのかさっきまでの余裕は消えてなくなっていた。
さっきコイツは1000人殺しとか言われてたな。
本当に1000人も戦士を殺したのならとんでもない猛者ということになるのだが……立ち姿からはそこまでの強さは感じない。
「ガガラララララァ!」
そんなかけ声ある!?
かなりふざけた奇声をあげて襲いかかってくる。
基本のマナコートは使ってるな。得物はナイフで武器にまでマナを纏わせているし、練度も高そうで戦い慣れていると感じる。
ナイフは毒々しくて掠っただけでヤバいですよってのを見た目から伝えてくるし、多分服の下にも何か仕込みがあるな。
動きも速いし武術を収めている人の動きだ。
上手な魔法、武器の毒、服の下の仕込み、何かの武術。残忍で容赦のない性格と強さの理由がわかる気がする。
でも
「ゲバラァ!?」
シドの半分くらいの速さかな。
余裕で動きを捉えられたので俺はガガラの顔面をグーパンで殴りつけた。顔面には仕込みとかしてないからね。そして気絶したな。
「1発!?瞬殺!?」
「ライフ術の防御不能攻撃は使ってないのに!?」
「そんな馬鹿な!?1000人殺しだぞ!?」
偉そうにしてた割には弱いなぁ。
本当に1000人も殺したんだろうか?
もしくは殺したのが非戦闘員だったんじゃないの?そんなの強さの証明にはならないよ。
「よし、流石にこれでマゼル商人の悪あがきも終わりでしょう」
「…………」
ついに観念したか……。
周囲から殺気も敵意も感じないし、残党みたいなのもいないと思う。
俺は周囲にいた自警団メンバーに指示を出してマゼル一味を連行するように指示を出した。
………………ようやくトラブルはひと段落したな。
「イアック代表、本当にありがとうございます。私は貴方に救われました」
あれ?なんかエルナさんの頬がほんのりピンクだし、目が何と言うか……艶っぽい?まさかの体調不良か?
「イアックさん……俺はイアックさんのためなら何だって出来そうです」
「私もです。何でも言ってくださいね」
え?どしたのカシムさん?
ジーナさんも女性が軽々しく何でもとか言っちゃダメだよ。危険だよ。
でもちょうどよかった。
さっきランドウ侯爵に大口叩いてきちゃったから……。何とかするためにどうしてもみんなの力を借りたい。
「それじゃあさ、この後ランドウ侯爵が来るから接客の時に<みんなの心の温かい部分>を見せつけてやってよ。そしたら絶対喜んでもらえるし、俺も嬉しいからさ」
メンタル的に相当疲れてしまったと思うけど実はまだ朝なんだよ。しかも今日は超大変な日なんだよ。
頑張ってもらわないといけない。
「もちろんです。イアック代表の顔に泥を塗るような事は決してありません」
「お任せください!」
「過去最高のライフォニアをお見せすることをお約束します」
あれ?雰囲気がいつもと違う?なんか一皮剥けた感があるぞ?
それに俺に向けられる視線が今までより……違くない?
「ありがとう。すごく頼もしいよ。じゃあ俺はすぐに戻らなきゃいけないから行くね。また後で」
俺は踵を返して全速力でシドの屋敷へ戻った。
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