45話 みんなは好きにやってよ
マゼル商人、フリーズする。理解が追いつかないのかな。
………………
…………
……
「なぁ!?」
たっぷり5秒くらい沈黙してたな。それだけ予想外だったか。
「やはりそうでしたか。あなたのような立派な方がこんな黒寄りのグレーな契約書を許すわけがない」
「と、当然だとも」
「な!?な!?へぇあ!?」
よし、チョレー子爵はわかってるみたいだな。
マゼル商人の慌てっぷりがマジでウケる。
「ではチョレー子爵様、こちらの契約書の破棄をお願いします。こんなものがあっては皆が安心出来ませんので」
「な!?ちょ!?それがないと!」
子爵は慌てるマゼル商人から契約書を取り上げるとビリビリと破り捨てた。
「これで契約は破棄された。イアック殿、これでいいかな?」
「はい、契約書についてはこれで大丈夫です」
契約書については……だけどな。
「それではこの商人は私が連れて行こ――」
「チョレー子爵、マゼル商人の証文偽装についてはいかがなされますか?」
逃すわけねぇだろ。
「子爵様の覚えのない証文、と言うことはマゼル商人の偽装ということ。これは大罪なのでは?」
「う、うむ、それについては後で厳罰に処す故――」
「我々はこのマゼル商人の偽装契約書により支配人のエルナを失うところだったのです。ライフォニア存亡の危機とも言っていい。ここで納得の行く処罰をしていただきたい」
お前らグルだろ?
こっちは有耶無耶で許す気なんてないよ?
「お、お前!平民の分際で子爵様に口答えするな!」
「罪人は黙っててください。罪を増やしますよ?調べはついてますからね?」
「なぁ!?」
「そ、それはじっくり取り調べなどをしてだな……」
「………………」
俺が動けないであろうタイミングを狙ってここまでのことをしでかしてエルナさん泣かせて何を言ってんだこいつは。
「あ?」
軽く殺気を込めてチョレー子爵とマゼル商人を睨む。
こちとらはらわた煮え繰り返ってんだよ。半端なこと言い出したらただじゃおかない。
「マ、マゼル!貴様が証文偽装という重罪を犯したのは明らか!よって犯罪奴隷として国に引き渡す事とする!」
「な!?な!?子爵様!?だってワシはあなたの協力者で共犯――」
マゼル商人が必死にチョレー子爵に縋り付く。
チョレー子爵もそりゃ共犯だよね。都合よくここにいるのがいい証拠だ。だからそっちも許す気はない。
「へぇ?」
チョレー子爵を睨みつける。多分これだけで十分だ。
「マゼル貴様!?何を言うか!?イアック殿、これは此奴の妄言だ!そなたなら私を信じてくれるな?」
「………………」
さらにじっと睨む。
「わ、わかった!マゼルは私の領地の商人、つまり私の責もあったことを認めよう!正式に謝罪し、エルナ殿宛に謝罪金も贈らせてもらう!それでどうか!?」
まぁそれでいいか。正式な謝罪が大事だし、とりあえずはいいとしとこう。
「チョレー子爵様にはご負担をおかけして申し訳ありません。この件はしっかりと陛下にもお伝えしておきます」
「う、うむ。善きにはからってくれよ?」
「もちろんですとも」
笑顔で締めくくる。これで一件落着かな。
「ま、待つんじゃあ!!」
落着しないんかい。
「そこの昏睡状態の男はエルナの父親じゃあ!その男を治せるのはワシだけ!ワシだけじゃ!」
奥の椅子に座らされてる男。エルナさんの父親だったか。
「いいのか!ワシにしか治せんぞ!ワシを助けねばその男は死ぬぞぉ!」
俺は一応エルナさんに事実確認をする。
「エルナさん、あの人は……?」
「……私の父さんなんです。死んだと知らされていたけど、生きていて、奴隷落ちしてて……」
なるほど。まぁそうだよな。この場に関係ない男が昏睡状態で椅子に座ってたらミステリーすぎるよ。
俺はエルナさんの父親に近づいて様子を見る。
「ふむ、なるほどね」
衰弱している原因はすぐわかった。
そして治し方も。俺はこの男性のお腹に手を当てる。
「よし、治った」
って言うかライフ術で1発だった。目を覚ましたら本人に何が起こったのか説明してあげよう。
「う、嘘つけぇ!」
「嘘じゃないよ。この場面で嘘なんてついたらエルナさんに嫌われちゃうよ」
それはマジで凹む。そんなことしない。
「それは不治の難病のはずじゃ!」
「不治ならあんた治せないんじゃねえか……」
ワシなら治せる発言は何だったのか。
「イアック代表……」
「大丈夫。絶対に死なせない。……俺を信じてくれる?」
エルナさんがどうしても心配だって言うならマゼル商人をとりあえず助けとくけどさ。
「信じます。あなたは私が世界で1番信じている人です」
おおおお?なんか思ったより信頼が厚い感じか?
嬉しいけどなんか照れる。
「そんな馬鹿な……何故……こんなことに……」
事前に子爵と示し合わせて満を辞して乗り込んだのにこの結果。
そりゃあ納得いかないだろうね。
「残念。ここでは貴族の理不尽通用しないんだよ」
ライフォニアはそう言う場所だから。
そういう状態を作ったんだよ。俺の仲間達が安心できる場所にしたかったからね。
「イアック代表……」
後はマゼル商人を連行するだけだと思っていたらエルナさんが隣まで来て俺の肩に顔を埋めながら震えて泣いている。
……怖い思いをさせてしまったな。これは俺のミスだ。こういう時の対策はしっかり考えていたのに完全じゃないからと思って説明していなかった。
ちゃんと伝えておくべきだったな。
「エルナさん、大丈夫です。もうこんな事が起きないようにしますからね」
エルナさんはもちろん、ジーナさんとカシムさんにもちゃんと言っておこう。
「安心してください。凶悪な魔物とか、権力の理不尽とか、そういう面倒なことは俺が何とかするからさ。無茶な話は突っぱねていい。みんなは好きにやっていいから」
俺はエルナさんを宥めながらジーナさんとカシムさんに笑顔を向けた。
権力の理不尽を跳ね返す仕組みについては後でちゃんと説明してあげなきゃな。
でも今はとりあえず
「それではマゼル商人、お引き取り願いましょうか」
「く、くそ……こうなったら……」
ん?まだ何か用意してそうな感じあるな。
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