44話 これはマジなやつなのかと問いかけてみた
「どうよシド、俺もなかなか様になってるでしょ?」
「おお!中々いい感じじゃない!馬子にも衣装って感じで様になってるわよ!」
一張羅をシドに褒められた。今日は超弩級のスペシャルゲストをお招きするので俺もいつもより更に気合が入っているんだ。
自分でいうのもなんだけど黒のロングコート風な衣装は派手すぎず、しかし品格が感じられてなかなかにかっこいい。
「でしょ?結構高かったけど奮発しただけあって気に入ってるんだよ。今日みたいな日こそこの服の出番だよね」
今日は貴族派の超大物貴族であるエルドル・フォン・ランドウ侯爵を歓待させていただく日だ。
現状、貴族派に属する貴族の方はあまりライフォニアをご利用いただけていない。
このライフシード領は王国派に属しているからね。
そりゃそうだよなとも思うが、俺としては派閥争いなんて興味ないので沢山の方にバンバン利用してほしい。
だからご利用いただいた方々に雑談の中で派閥問わず来訪をお待ちしている旨を話しまくったのだ。
その草の根活動のような行動の甲斐あってか、ついに貴族派の超大物貴族であるランドウ侯爵が正式に来訪していただける運びになった。
「緊張するわ。大丈夫なのかしら?ランドウ侯爵と言えばやり手で有名よ」
「心配せずとも別に何もないから大丈夫だよ。今日はお客様としてライフォニアのサービスを堪能したいって先触れの手紙に書いてあったじゃん」
「そんなの建前で他にもいろいろ目的があるのが貴族なのよ」
確かに来訪するからには色々見たいんじゃないかと思うけどさ。見られて困るもんなんかないんだよなぁ。
「あ、馬車が見えた。あれ多分ランドウ侯爵が乗ってるやつだ」
「あんたちゃんとフォローしてよ!あたしはしがない男爵なんだから上位貴族と腹の黒い会話なんて出来ないのよ!」
「力強く言い切るなよ……貴族としてそれはどうなのよ……俺なんて平民だぞ。話しちゃいけないのはスッキリバイオレットのレシピだけだよ。それ以外は話していい。隠してないし」
窓の外を見たら遠くに馬車が見える。こちらに向かって来ているようだし、まず間違いなくランドウ侯爵が乗ってるやつだろう。
「んん?何あれ?」
超スピードでこちらに迫る青い何かが見える。流星?そんなわけないか。
「ピィィ!!」
「アオコ!?」
「ピィィィ!!」
「あ、ちょ、アオコ待って!?袖を引っ張っちゃダメ、俺の一張羅が伸びちゃうよ!?」
俺をどこかに引っ張って行こうとしているのか?いつもならこの時間はエルナさんの護衛をしてくれているはずなんだけど。
「あれ?今日はエルナさんのところにいたんじゃ?」
「ピィピィ!」
様子がおかしい。まさか……。
「トラブル?」
「ピィ!」
「え!?マジで!?」
トラブルなの!?侯爵の乗る馬車がすぐそこに迫ってるタイミングで!?
でも間違いなく厄介なトラブルのはずだ。アオコがここに来たってことは武力の問題じゃないやつ。
それでも大概のことはエルナさんが対応できるはずだ。つまりそのエルナさんでもどうにもならない事態が起きてるってことか。
「え!?どうするのよイアック!?侯爵が目の前まで来てるわよ!?」
「トラブル解決に動く」
0.3秒で結論を出す。
「即答!?侯爵は!?」
「正直に話す。その後はシドが侯爵と歓談してて。すぐ戻るからさ」
「わ、わかったわ……(緊張で吐血しそう!?)」
超大物貴族を相手に来訪後に即待っててもらうお願いか。
さて言葉をミスると関係悪化は避けられないぞ。
そしたら貴族家としてのライフシード家に迷惑をかけてしまう。
だからと言ってアオコの様子からライフォニアもただ事ではないっぽいしな。
「何とかうまく切り抜けるしかない」
◇
「ようこそいらっしゃいました、ランドウ侯爵」
「久しいなライフシード男爵!今日は世話になるよ!」
優雅な所作に鍛えられた体、何より目に力がある。40歳を超えているはずなのに20代後半と言われても信じてしまいそうな程若々しい。
これが貴族派の超大物 エルドル・フォン・ランドウ侯爵か。
「侯爵、こちらがライフォニアの創業者、イアックです」
「お初にお目にかかります、侯爵様」
「君が今飛ぶ鳥を落とす勢いで注目されているあのイアックか!此度の来訪では君に会うのを楽しみにしていたんだ!よろしく頼むよ!」
さぁ正直に謝るぞ。下手に取り繕うとすぐ見抜かれる気がするからね。
ここで退席を許してもらえなかった場合、ライフシード家かライフォニアのどちらかが詰んでしまう可能性がある。
「……申し訳ありません。ご挨拶の最中ですが、お願いがございます」
「……突然だね、言ってみたまえ」
「はい。今この瞬間、私共のライフォニアに"危機であると同時に飛躍の機会となりえる事態”が発生しております」
「ほう。それで?」
「本来であれば、この場を優先すべきです。ですが――」
ただ正直に言うだけでは単なる我儘だ。侯爵には関係のない話になってしまう。
「今私が行かなければ万全のライフォニアをお見せすることができません」
「ふむ。ライフォニアにとってそれだけ大きなトラブルが発生していると言う事だね」
「はい。侯爵様にお見せしたいのは、評判だけのサービスではなく――」
だから言葉を選ぶ。見方を変えた真実を話す。
「“完成された価値”です」
俺はランドウ侯爵のことをできる範囲でリサーチしていた。
社交場での振る舞いやランドウ領に関すること、お客様との雑談とから得られる内容だけだったが、人となりを多少なりともイメージできた。
この方は<本物>であることを重んじる。感情に流されず、価値を見極めようとする。
「短時間だけお時間をいただけるなら、本来お見せするはずの状態に加え――」
だからこそただ正直に言って謝罪するだけでは通じない。今、こちらのお願いを通す方法は一つだけ。
「"危機を乗り越え、飛躍を遂げたライフォニア"を……国王陛下ですら未体験の、今までとは別物の価値をご覧に入れます」
利を示すこと。これができなきゃダメだ。
「ククククク……ハハハハハ!面白いことを言うね!」
一応アイデアはある。完全に人任せなアイデアだけどね!何とかして見せる!トラブル解決したらみんなに拝み倒してお願いする所存だ!
それにじいちゃんが……シゲ爺が言ってたんだ。
"ピンチはチャンス" だってね。
「行くといい。そして今の発言を結果で示してみせたまえ!」
「ありがとうございます。必ずや、ご期待以上のものをお見せいたします」
つまりこれはチャンス!むしろご褒美だぜ!
◇
「こ、このクソ鳥がぁ!…………あ?」
ランドウ侯爵に時間をもらった後、俺は爆速でライフォニアに向かった。
ライフで身体能力を限界まで強化し、オーラも上手く使いながら民家の屋根の上を走ると言う大迷惑行為までしてショートカット。
目撃者多数なので後でめっちゃ噂になるな。謝り行脚しないといけないのは確定だ。
でもそのおかげで何とか間に合ったようだ。
「クソ鳥はひどいですね。アオコはライフシード領復興の象徴なんですけど?」
突然現れた俺にみんな驚いて固まってる。
「良かった。ライフォニアで何かあったって聞いてすぐ飛んできたんですよ」
とにかく怪我とかの大事はなさそうだ。無事でよかった。
「……イアック……代表……どうしてここに……?」
「アオコが呼びにきてくれて、すっ飛んできました。エルナさん、今ってどう言う状況……ってえええ!?え!?ちょ!?」
エルナさん泣いてるんですけど!?
周りを見るとジーナさんも泣いてるし!?
無事じゃなかった!?何この状況!?
エルナさんとジーナさんが泣いてて護衛でついていたと思われるカシムさんがオロオロしてる。
おまけに変なオッサン――昨日いたな。取引お断りにした商人だ。そいつがニヤけながらこっちを見ててしかもなんかすんげえ顔色の悪い男が奥に座らされてるんだけど。
カオスすぎるだろ。
「アオコさんは魔物討伐に行ったのかと思っていたのですが」
「アオコはエルナさんがピンチだと思って俺を呼びにきてくれたんです。アオコの耳飾りを通じてエルナさんの辛い気持ちをキャッチしたんだと思いますよ」
アオコの羽はアオコ本体とパスで繋がっている。
だからこの場の話し合いの詳細なことはわかっていないだろうけど、エルナさんがピンチだってことはアオコに伝わっていたということだ。
そして何かあったら俺を呼ぶように言ってあったからちゃんと呼びにきてくれたってこと。
「そうだったんですね……」
「ええ、アオコのファインプレイです。それにしても一体何が……」
「これはこれはイアック代表、おはようございます。ワシは商人のマゼルと申します。朝からお邪魔してしまい申し訳ない。すぐにお暇します。おい、行くぞエルナ」
……あ?今うちの大事な支配人を呼び捨てにしやがったぞこのクソジジイ。首を360度回転させて捻じ切ってやろうか。
………………ダメだぞイアック。感情的になるな。シゲ爺が言ってたじゃないか、かっこいい男はクールなんだ。BE COOLだ。
「行くぞ、ではありません。エルナはライフォニアの支配人です。連れて行かれては困ります」
何ナチュラルにエルナさんを連れ去ろうとしてんだこのジジイ。
「おっと、これは失礼。ですがこちらを見ていただければわかっていただけるはずですじゃ」
マゼル商人は契約書を俺に見やすい位置に持ち上げてくれる。
「奴隷契約書……エルナさんの……サイン付き」
俺はエルナさんを見る。エルナさんは視線を下げて目を合わせてくれない。
え?マジのやつ?何でそんなことに?
「イアック代表!エルナは脅されて仕方なく!」
ジーナさんが声を上げた。
「脅し?」
「これはこれは人聞きの悪い。正当な権利の主張の末にエルナ自ら決断してくれたことですよ」
マゼル商人は今度は別の契約書を俺の見やすい位置に持ってくる。
「えええ……何ですかこれ……」
これはひどい。こんなの通るのか?内容がグレーすぎるだろ。
「契約書の日付が5年前。チョレー子爵様の証文付きですか」
「この意味、イアック代表ならお分かりになるのでは?」
泣いてるエルナさん、勝ち誇り顔のマゼル商人、何も言えなくなっているジーナさんとカシムさん。そしてこの2つの契約書。
ああ、もう察したわ。これ以上の説明はいらないってくらいには状況が飲み込めた。
……エルナさんは自分を犠牲にする道を選んだのか。
自分の全てを投げ捨てられる程に俺たちを大事に思ってくれてるんだな。
「奴隷契約書の方は証文がないようですが?」
「ええ、ですがチョレー子爵様にはすぐそこでお待ちいただいておりましてね。もう話は通してあるのですよ」
「そうなのですか」
あ、さっきマゼルの手下っぽい人が外に行ったな。ってことは
「失礼、ここに呼ばれて来たのだが、何か揉め事かな?」
すぐ来ちゃうよねぇ。
全員の視線が部屋に入って来たチョレー子爵へ向けられる。
俺と目が合った。ははは、わかりやすくギョッとしてるなぁ。この反応なら多分理解してそうだ。
「チョレー子爵様、マゼルでございます。ご足労いただきありがとうございます。早速ですが先日お話した通り、また証文をいただきたく」
マゼル商人が契約書をチョレー子爵の元に持っていく。
ジーナさんとカシムさん、そしてエルナさんが俺を見ている。声に出さずとも不安と恐怖が伝わってくる。
――なすすべなく奪われる側の震える気持ち。
俺はジーナさんとカシムさんを見て安心させるように頷く。
そしてエルナさんの肩に手を置いた。
エルナさんと目が合ったので微笑みかけた。
少しでも安心させてあげられるように。
「大丈夫ですよ」
一声かけてからチョレー子爵とマゼル商人へ歩み寄る。
あまり怖い思いをさせ続けるのは可哀想だ。さっさと終わりにしよう。
「チョレー子爵様、お初にお目にかかります。美と健康の楽園 ライフォニアの代表を務めております、イアックと申します」
「う、うむ。貴殿の噂は私も聞き及んでいる。会えてうれしく思うぞ」
さて、挨拶はこれだけにして早速本題に移ろう。
「私も今来たばかりなのですが、この場は今ご覧になっている契約書についての話し合いの場のようです」
俺は5年前に結ばれたと言う契約書を指して――
「チョレー子爵様は本当にこのような契約書の証文を?」
――これはマジのやつなのかと問いかけた。
「何を言うかと思えば。本当も何も目の前に証文があるだろう?ですよね子爵様?」
そう言ったマゼル商人の勝ち誇り顔に微塵の曇りもない。
チョレー子爵は俺とマゼル商人を交互に見てから返事をくれる。
「いや、知らんな。こんな証文は押した覚えなどない」
「……え?」
マゼル商人の勝ち誇り面が真顔に変わった。
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