40話 魔闘祭開催。レーヴとカシムが出場
︎⭐︎シド視点
魔闘祭当日。あたし達は大会エントリーを済ませて選手控え室へ向かっていた。
「カシム、レーヴ、普段のあなた達の力を発揮できればおそらく優勝できるわ。しっかりやるのよ」
「は、ははははははい」
「俺が負けたらシド様とイアック様にご迷惑がががが」
2人とも緊張しすぎ!ガッチガチじゃない!魔物相手には戦闘民族なのかと疑うほど好戦的なくせに!
ガチガチに緊張する2人をなんとかしようと頑張っていると控え室に入っていく選手が見えた。
「あれは……ピント達じゃないかしら」
不意に目が合ってしまう。彼らもこちらに気づいたようだ。
彼らはあたしの元弟子のピント、マッチ、ラートンだ。もう本当に昔に思える。
「あ……お久しぶりです。シド様。ご帰還を心よりお祝い申し上げます」
丁寧な挨拶。何だかこの子達が離れていってしまったことを自覚させられて悲しい気持ちもあるわね。
「久しぶり。あなた達も元気そうでよかったわ。今日は魔闘祭に参加するの?」
「はい。やっと許可が出まして……。あの、シド様……俺たち、ライフシードが大変な時に……」
「おい雑用共!何遊んでるグズが!さっさと準備しろよ!」
あれは今年の序列一位だったアルバン家の弟子達ね。服についてるエンブレムでわかるわ。
「は、はい!すいません兄弟子!」
「お前ら雑魚がクソ底辺の大会とはいえ魔闘祭に出られるんだ。ありがたいと思え!」
兄弟子と呼ばれた男は言うだけ言ってサッサと立ち去ってしまった。
穏やかじゃないわね。それに仮にも兄弟子だというならグズだなんて言っていいものではないわ。
魔闘祭を底辺と罵るのもダメよ。あたしの弟子なら再教育確定ね。
それにしても3人ともアルバン家でお世話になっていたのね。
あ、さっきので萎縮してしまってる。これじゃ実力を発揮なんてできないんじゃないかしら。
それはいくらなんでも可哀想だわ。
「ピント、ラッチ、マートン」
あたしは元弟子達の名前を呼ぶ。
「頑張りなさい!あんた達のことちゃんと見てるからね!」
あたしはニカッと笑ってサムズアップする。
少しでも萎縮せずに実力が出せるようになるといいと思って。
「「「はい!見ていてください!」」」
笑顔でサムズアップを返してくれる元弟子達。ああ言うところ変わってないわね。気のいい子達だこと。
「さぁカシム!レーヴ!あんた達も頑張るのよ!」
「は、ははははははいぃぃ」
「俺なんかが分不相応で……ブツブツ」
あの子達よりこっちの方が心配ねぇ……。
月に一度の魔闘祭が開始された。一対一のトーナメント方式で行われる今大会。優勝者には上位大会である魔闘大祭への出場資格が与えられる。
まだ見ぬ強者の登場を願って行われる魔闘祭はアルマ王国の頂点を夢見た猛者達が集う。
「レーヴもカシムも大丈夫かしら……まぁ最悪一発貰えば目が覚めるでしょう。あの子達はすごく頑丈だから一発くらいもらってもいいんじゃないかしらね」
魔闘大祭の序盤で負けて魔闘祭からやり直しになっている人もいるみたいね。ベテランが多いわ。
でも全く心配にはならない。むしろ優勝して当たり前くらいの心持ちでいる。
「1回戦第1試合、双方前へ!」
そろそろ始まるようだ。一回戦はカシムみたいね。あ、ダメだあいつまだ心ここに在らずだわ。
「始め!」
「ぬおああああ!」
始めの合図と共に相手が突進してくる。
ドガッ!
カシム吹っ飛ぶ。よく飛んだわね〜。
「は!俺は何を!?」
正気に戻った気みたいね。よかったよかった。じゃあ終わらせなさい。
「ピンピンしてるだと!?頑丈な奴め!もういっちょ吹っ飛ぶがいい!」
また突進ね。マナコートで強化したうえしようでの体当たりかぁ。シンプルで分かりやすいけどそれじゃ毎日ビッグブルを相手にしてるカシムには通じないんじゃないかしら。
「とう!」
正気を取り戻したカシムは突進をひらりと交わしてライフが籠った掌底を相手の背中へ。
「ぐおお……なんだこれは」
まともに入ったわね。ライフアーツレベル2の応用だけどさすがに一発じゃ倒せない。イアックほどの熟練度があれば今ので終わってたはずだけどね、
「もう一発!」
予期せぬ攻撃に怯んだところに顎と腹にもう一発ずつ。これできまりね 。
「勝者、ライフシード領自警団のカシム!」
審判からカシムの勝利宣言が出て歓声が上がる。
「嬉しそうな顔しちゃって」
相手は明らかにマナコートを使っていた。つまりカシムは魔法使いに勝ったのだ。
マナ不全者と呼ばれて魔法を使える人たちに逆らえずにいた頃とは違う。それを自分で確認できて嬉しいのね。
あたしはあんまり心配してなかったけど、カシムも目が覚めたみたいだし、これならレーヴと当たるまでは苦戦すらしなそう。
さて、レーヴはどうかしら。
「勝者、ライフシード領自警団 レーヴ!」
圧勝。何だかへっぴり腰のまま一発で終わらせてしまったわ。
「あいつは天才のくせになんでビビり倒してるのよ……。まぁ大丈夫か。カッコ悪いけど」
うちの弟子2人は何とかなりそうね。
その後も試合は続いていく。元弟子達も頑張っていたわ。でも……正直あまり成長できていないわね。あたしの元を離れてからあの子達はどうしていたのかしら。新しい技術が何も出てこない。隠してるだけかしら。そうだといいけど。
カシムもレーヴもどんどん勝ち上がってる。2人が当たるのは準決勝ね。
参加者全員の試合を見たけど、レーヴとカシムのどちらかで優勝は決まりじゃないかと思う。とんでもない隠し球なんてのがあればわからないけど。
「それにしてもレーヴの緊張はいつ解けるのかしら……。仕方ない。いっちょ気合いでも入れてあげようかしらね」
レーヴのへっぴり腰を治すべく選手控え室に近づく。するとピントとその兄弟子の会話が聞こえてしまった。
「ピント、わかっているんだろうな?次の試合は俺とお前が当たる。そこでお前は俺に勝ちを譲るんだ」
……何ですって?
「その次はラッチ、その次はマートンだ。お前達を出場させてやったのはこのためだ。思い出作りに協力してやったんだから恩を返せ」
……八百長かよ。魔闘祭は神聖なものよ。その頂点にいる者は国防どころか世界を救う役目を担う可能性すらある。それを勝負もせずに勝ち上がろうだなんて許されることではないわ。
「兄弟子……俺、ちゃんと戦いたです!」
「……あぁん?」
「お世話になった人たちに俺たちのことを見て欲しいんです!」
「おい……何調子に乗ってるんだ?お前らみたいな負け犬の弟子如きが。行き場をなくしてたお前らを拾ってやった恩を忘れたのか?ん?」
「いえ……それは……」
負け犬の弟子……ね。あたしのことだわ。あたしは成り上がり者で敵が多いから弟子達にまで嫌がらせが行われた可能性がある。
そこをあいつが拾ったってことかもしれないわね。
「お前がやらないなら他の奴らも同罪だ。アルバン様のところから追い出してやるよ」
「そんなことになったら俺たちは……」
「ウチにいるのはお前らだけじゃないよなぁ?そいつら全員に夢を諦めて普通に働けと言うか?そう言えば全財産はおろか全てを投げ打ってまでアルバン様の頃に来たやつもいたなぁ」
ぶ……ぶん殴りたい……。なんて野郎なのよ。でもそんなことしても何も解決しないし、レーヴ達の立場まで悪くなるわ。
「…………分かり……ました」
「初めからそう言えばいいんだよ。雑魚のくせに粋がりやがってバカが!」
兄弟子はそう言って去っていく。その背中を見ながら、ピントが呟く。
「みんな、シド様、ごめんなさい」
ピントの弱々しい謝罪を聞いて、あたしはある決意をした。
「あの馬鹿兄弟子には絶対優勝させてなるものですか」
そうと決まればレーヴとカシムを奮起させなきゃね。
そこからの試合もレーヴとカシムは勝ち進み、そして直接対決をレーヴが勝利した。
「あんたやっとへっぴり腰が治ったわね……」
「はい。ご心配をおかけしました。カシムさんはいつも鍛錬に付き合ってもらってたので何とかいつもの調子に戻りました」
2人の勝負は今魔闘祭屈指の名勝負となった。実力的にはレーヴの方が上だが、緊張から初手をカシムに取られ、そこから押されながらも最後は大逆転という内容。
見ている分には楽しい試合だっただろう。
そしてピント、ラッチ、マートンは敗退した。
3人とも八百長だとわかっていても仲間の夢を守ったのね。とてもやるせない気持ちだわ。
これでついに決勝のカードが決定した。
兄弟子――バジクとレーヴの対戦である。
「レーヴ」
「はい!シド様、もしかして激励でしょうか。嬉しいです。頑張ります!」
ニコニコしながらあたしの言葉を待つレーヴ。あたしは最大限の信頼と親愛を込めて一言。
「負けたら埋めるぞ(ハート)」
「ひぃぃい!わ、分かりましたぁ!」
レーヴにあたしの激励がちゃんと伝わったみたいで嬉しいわ。絶対あの野郎を優勝させない。
「決勝戦、アルバン魔法師団 バジク対 ライフシード自警団 レーヴの試合を開始する!」
試合が始まるとバジクは即座に手に持っていた武器――マナウェポンにマナを込める。
「喰らえ雑魚がぁ!」
剣を振り下ろすたびに岩の塊が打ち出される。
「いいマナウェポンだわ。少ないマナで何度も何度も岩の塊を発射している。小回りも効いて使いやすい武器よ」
かなり高価な剣だろう。しかし使い方が悪い。距離が空いた状態で岩を打ち出しても簡単に避けられる。
「当たったら痛いんだろうけど、そんなの当たらないですよ」
レーヴはひょいひょいと避けて間合いを詰める。
「はああ!」
簡単に懐に入り込んだレーヴはライフを込めた掌底を腹に。
「レーヴ!」
あれは誘いだ。よく見れば鎧タイプのマナウェポンを着込んでいる。触れば何か反撃をくらうかもしれない。
「バレバレです」
あたしの心配をよそにレーヴは掌底の軌道をバジクのアゴに変更。虚を疲れたバジクはまともに食らった。
「目線とニヤつき顔で罠だとすぐ分かりましたよ」
さすがレーヴ。伊達に毎日性悪イアックにボコされてないわね。あの程度の仕掛けは余裕で気づくか。
バジクが吹っ飛んでダウンする。モロでいいのが入ったから起き上がれもしないわね。
これで決着かしら。
そう思って見ていたらバカ兄弟子が懐から何か取り出す。
「そんなバカな……この俺が……こうなったら……」
赤い……クリスタル?
「……あれは何かしら」
嫌な予感がビンビンするわ。
警戒を深めた瞬間、「全部ぶち壊してやる!」という叫びと共にクリスタルが割れ、魔物が出てくる。
「魔封石じゃないの!何であんなの持ってるのよ!何であんなの持ってくるのよ!何ですでにマナが込められてるのよ!どんだけ馬鹿なのあいつ!」
あたしは言いたい放題言って試合会場に乱入する。
しかも当の本人はそのまま気絶してやがるし!
あいつが1番にレッドオーガに潰されるわよ!少しは後先考えろ!
「レーヴ!あそこでノビてる馬鹿連れて逃げなさい!」
「了解!」
緊急時にも聞き分けいい子!イアックに口酸っぱく「危ない時ほど言うこと聞いてね」と言われてるだけあるわ。
「うわぁぁ!魔物だあ!」
「何でこんなところにレットオーガなんて出てきちゃうんだよ!」
「警備兵!何とかしろ!」
「無理です!騎士が20人くらい必要な魔物ですよ!?」
パニックね。無理もないわ。二次災害が起きる前にさっさと済ませましょうか。
「来いや」
「グオオオオ!」
あたしの殺気を感じ取ったレッドオーガが雄叫びを上げて殴りかかってくる。
「うるぁぁあ!!!」
あたしはマナコートとライフブーストを重ねて発動して正面から殴りつける。
拳と拳のぶつかり合い。体のサイズからすればあたしの方が不利に見えるが、それは見た目だけの話だ。
「ふんぬ!」
「ぐぎゃあああ!」
手加減なしの本気の一撃。レッドオーガの拳を粉砕した。
怯んだ隙に追撃で顔面を強打。すると「ドゴン!!」と言う音を立ててレッドオーガの頭は木っ端微塵に吹っ飛んだ。
「あ、やば。1発で爆散させちゃった。手加減するべきだったわね」
パニックだった会場はすっかり静まり返り、シドの間抜けな声だけがこだました。
お読みいただきありがとうございます。
毎朝6時更新頑張ります。
シドのパンチで爆散したレッドオーガの頭部は無数の肉片となり、どちゃどちゃとした音を立てて舞台を汚す。
胴体からは噴き出した血がシャワーとなっての降り注ぐ。
そしてこの惨劇を生み出した当の本人は血や脳みそ片に塗れながらニコッと笑って会場にいる皆に告げる。
シド: ライフシード領では領民募集中よぉ!!
カシム: いや、それ怖くて来れないでしょ
レーヴ: でもインパクトだけはもの凄いですね。忘れられませんよ。
カシム:それついでに眠れなくならない?
またお越しいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。




