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38話 序列式で序列より大きなサプライズ

 1年を通して打ち立てた功績により決められる武官貴族の序列式。

 

 強さこそ誉れである。強きものこそが災いより人々を守るのだ。

 

 序列上位に入ることは大変な名誉であり、今年の栄誉は誰の手に渡るのか、それを自身の目で確かめようと多くの貴族が一堂に介す場でもある。

 

 人が集まれば話も弾む。ここは序列式であるからには上位争いと目される貴族家の話が中心となっていくのが自然である。

 

 今年も貴族令嬢、令息達の会話で会場はざわついていた。

 

「今年もアルバン家、ルナリア家、マナレア家で決まりだろ」

「あら、今年はヴァルツ家が相当活躍したそうよ?」

「ヴァルツ家と言えば万年4位の家よね?あそこには確か……その、すごい人がいたわよね?」

「トリス様でしょう?あの醜い容姿の」

「あなたハッキリ言うのね」

「それだけじゃない。あいつ武官貴族のくせに戦いができないと来てる。あれで嫡子だって言うんだからヴァルツ家はお先真っ暗だな」

「ひっどーい」

「「「あははははは!」」」

「「「オホホホホホ」」」


 序列上位3家であるアルバン家、ルナリア家、マナレア家は当然有名であり、羨望を集める。しかしそれを上回るほど有名なのがヴァルツ家。こちらは悪い意味でだが。


「私、序列上位3家には手厚く褒美が与えられるのが少し不安なのよね」

「もしヴァルツ家が上位に入ったら、婚約者を所望するかもしれないってか?」

「自力で見つけるのは無理だからか。だからって褒美で女ってことはないだろ。そんなの末代までの面汚しだぞ」

「わからないわ。それだけ切羽詰まっているかもしれない」

「あり得る」

「「「…………絶対嫌。あんなハゲ豚に嫁ぐなら死んだほうがマシよ」」」


 酷い言われようである。

 

 しかし皆気づかない。この会話は聞かれているのだ。各家の従者に、メイドに、今は関係なくても未来で繋がりを持つ誰かに。

 

 陰口とはそう言うものだ。表面的には何事もないように見えても、底意地の悪さは巡り巡って自分の首を絞める。

 

 まぁ今回の場合当の本人が聞いていたとしても関係なかったのだろう。事実だ、本当のことを言って何が悪い、悔しければ剣を取って見せろ、などの自分を正当化する都合のいい言葉がたくさんあるのだから。

 

「それではこれより序列式を始める!」


 今回の主役、武官貴族が全員揃い、式典が開始される。雑談の時間は終わり、陛下の挨拶や今年の出来事、活躍した皆への謝辞などの話が続く。

 

 そしていよいよ序列の発表に移る。

 序列下位から順番に発表され、大方の予想通り且つ例年とそこまで変わらない順位に収まっていく。

 そして注目の序列4位の発表まで来た。

 

「序列4位………………ルナリア家!」


 ずっと変わらなかった序列が変わった瞬間。式典の最中は基本的に会話は禁止であるがそれでも周囲がザワザワと騒ぎ出してしまう。

 

「静かに!」


 咎める声が出る。序列上位の発表はこの後なのだから当然である。

 ルナリア家当主は今にも爆発してしまいそうなほどの怒りを必死に堪え、壇上にて陛下の言葉を賜った。

 

 ここまでくれば後は予定調和の序列発表を残すのみ。


 先ほどの序列入れ替えが本日最大の驚き――――




 ――――とはいかない。この場にいるすべての人々が度肝を抜かれるのはこの後だ。



 

「序列3位 ヴァルツ剣将家」


 ヴァルツ家が序列3位。まぁそうだろう。後は当主が壇上に上がって陛下のお言葉を賜って終わりだ。

 誰もがそう思っていたが、壇上に上がる男は当主ではなかった。

 優雅な所作で堂々と歩くその姿を見て誰もが思ったはずだ。「あれは誰だ?ヴァルツ家にあんな男はいたか?」と。この人物の登場こそ、この日1番のサプライズ。

 その正体は陛下の言葉をで判明する。

 

「今年は飛躍の年になったな。序列3位おめでとう。当主の功績もさることながら、貴殿の活躍も目を見張るものがあった。貴家に心からの賛辞を送ろう」


 引き締まった体に精悍な顔つき、整えられた髪と自信に満ちた目の美丈夫。

 1年前、嘲笑の的だった、今年も変わることなどないと思われていた存在。


「お褒めに預かり、ありがたき幸せ。全ては王国のため、陛下のために」


 トリス・フォン・ヴァルツその人だった。

 会場のほぼ全員が衝撃を受け、口を大きく開けたまま固まっていた。



 

 ⭐︎トリス視点

 

 「トリス様めっちゃイケメン。美しすぎますよ。もう完全に別人です」

 

 ライフシード領を立つ日、恩人であるイアックさんにそう言われて僕は自分の自信を完璧なものにした。

 

 この2ヶ月、僕はイアックさんによるダイエットと育毛、そしてライフシード男爵の鍛錬を毎日行った。

 自分の仕事もある中で行われるスケジュールはかなり過密だったように思う。


 しかし、辛いと思ったことなどなかった。毎日が新鮮な刺激に溢れ、心地よい疲れとどんどん健康になる体、何より明日への希望を胸に眠ることが出来る生活は僕の価値観を大きく変えた。

 

 その結果、僕は自分でも別人なんじゃないかと疑ってしまうほど容姿が変貌した。そしてあれだけ苦手だった戦闘もある程度こなせるようになったのだ。


 ヴァルツの実家に帰ると父上はとも嬉しそうに迎えてくれた。まぁ最初は気づいてもらえず不法侵入者と間違われて剣を向けられてしまったのは誤算だったけど……。

 

「序列2位 マナレア魔将家」

「そして序列1位 アルバン魔将家!」


 大きな拍手と共に序列発表が終わった。

 2位と1位の発表はこう言ってはなんだが、そんなに盛り上がらなかった。分かりきったことだったし、その前がサプライズ過ぎたからだろう。

 

 この後は立食パーティーか。


「トリスよ。私はこの後は陛下やアーバン家、マナレア家と会合となる。お前はしばし立食パーティーに参加し、人脈作りをするといい」

「わかりました父上」

「……ふっ。わかりました……か。本当にお前はトリスか?ちょっと前まで他者を怖がり、戦いから逃げていたくせにな」

「え?あ、いや父上、それについては申し訳ないと思っております……。これから挽回しますので」


 今になって思う。父上にも迷惑をかけていたし、心配もさせてしまっただろう。

 でもこれからは違う。過去の欠点はこれから取り返すのだ。

 

「意地悪な言い方だったな。だが勘違いするなよ?私は心の底から喜んでいる。お前の変貌と言っていい程の成長を。嫡子として頼りにしているのだ」

「はい。ありがとうございます」

「うむ。では行ってくる」


 父上と別れ、立食パーティーの会場へ。

 既にパーティーは始まっており、各々雑談しながら食事している。いつもならこの場には参加せず、逃げるように領地に帰っていたからなんだが新鮮だ。


 人脈作りをしようとは思うがまずどうしようか……。

 

「よし、まずは同年代の男性にでも話しかけてみるか」


 僕は伯爵家なのだから子爵家、男爵家にはこちらから話しかけていかなくては。

 取るべき行動を決めて動き出そうとした時、同じ年頃の女性達から次々と声をかけられた。

 

「トリス様。ごきげんよう。序列3位おめでとうございます」

「トリス様、あの、お久しぶりにお姿を拝見いたしましたがその……変わりすぎではありませんか?」

「とてもお痩せになって、しかも体つきがとても逞しくなられました。私たぎってしまいますわ」


 矢継ぎ早に話されて困惑してしまう。最初こそ伯爵家の方からのだったが、すぐに他の女性も話始めていた。

 まるで僕に話しかけたかったのを我慢していたとでも言うような勢いなんだけど……。


 今まで女性からは特に厳しい目を向けられていたからわからないけど……僕の気のせいでないのならこれは。


「その、トリス様は婚約などされておりますでしょうか?」

「ちょっと!あなた急に何を聞いているの!」

「トリス様、今度私の屋敷にご招待させてくださいまし。美味しい紅茶がありますのよ?」


 モテている?

 好意を向けてくる女性の中には先ほど従者より聞いた、僕を嘲笑っていた女性もたくさん含まれている。

 それが今では「前々からトリス様のことを気になっておりましたの」である。

 僕も婚約者を探さなければいけない立場だが、この人たちは除外だ。正直気持ち悪いと感じるくらいだし……。


 しばらく女性に囲まれてしまったが、今日は人脈を広げる目的もあるのだ。いきなり女性に捕まってしまったが、なんとか抜け出して男性陣にも挨拶をしに行く。


「トリス殿!一体何をしたのですか!?私にもぜひ教えてくだされ」


 王国派に所属している貴族家当主の方々は父上と面識がある。当然僕のことも知っているのでまずはご挨拶をと近寄ってみたら興奮した様子で肩を掴まれた。

 

「おい!ずるいぞ!それは俺だって知りたいんだ!」

「その髪の毛はどうしたんだ!フサフサではないか!どうやって、いや、どうすれば髪を復活出来るのだ!」

「頼む!変身する方法を教えてくれええええ!」


 必死さがエグい。変身て……。いやまぁそのくらい変わった自覚はあるけど。

 皆の視線が僕に集まっているのがわかる。貴族派に属する人も、中立派の人も気になっているんだ。

 でもちょうどいいか。

 

 イアックさんやライフシード男爵に頼まれていたことを思い出す。


 ズバリ宣伝だ。


「美と健康の楽園 ライフォニア。そこで僕は自身の健康を取り戻したのですよ」


 ライフォニアのことは全部隠さず話して大丈夫で、むしろ嘘もオブラートに包む必要もないと言われている。


「僕はここ数ヶ月、ライフシード領のライフシード男爵のところにいたのですが、そこでライフォニアのサービスを受けたのです」


 隠してない。むしろ広めたい。真似されたい。それこそが狙い。イアックさんは私利私欲というものが無いのか、独占など考えてもいないようだ。


「そこは斬新な発想、新しい刺激に溢れた場所です。全く新しい手法で私を今の状態に導いてくれました」


『王国派はもちろんのこと、貴族派、中立派でも全く関係なくお客様としてお迎えします』と言っていた。


「もし自身の健康に不安がある、また、女性であれば美に陰りが出てしまう時が来るのではないかと思う、それなら行ってみてはいかがでしょう」


 ここからは少し小声で、でも聞きたい人たちに聞こえるように。

 

「政治的な立場に関係なくサービスを受けられるそうです。陛下やライフシード男爵のお墨付きです」


 イアックさんはある意味恐ろしい人だ。これは政治的にもかなり有効だ。貴族派と中立派の多くを王国派に引き込む一手となる。


 イアックさんは言っていた。

 

『ただお客様に喜んでもらえるサービスを提供するだけ。そして去るもの追わず、来るのも拒まずです』


 健康と美に興味がない人なんていない。何かに困っている男性、美を追求する女性、一度訪れたらもう離れられない。


 貴族派はライフォニアを危険視するだろう。

 陛下の庇護があるライフォニアに訪れたら王国派を認めているようにしか見えないのだから。

 貴族派にもそれがわかる人もいるだろう。それでも抗えない。


『周りがどんどん健康で美しくなっていくのを自分だけ指を咥えてみてるというのは辛いでしょう?』


 そうだ。それは辛すぎる。薄毛の方が僕の髪の毛をずっと見ているように。見栄を張る貴族だからこそ絶対に耐えられない。


 イアックさんは言っていた。

 

『嫌がらせを受ける可能性?それがあるからなおさら広めます。要はライフォニアがみんなに必要とされればいいんです。自分に必要なものを自分で壊す人はいないでしょう。自分の大事なものを壊そうと狙う人がいたら守ろうとするでしょう』


 味方を増やせば敵が減る。味方が大軍勢になれば残った敵も手出しが容易ではなくなる。


「どなたにも私と同じように変身する可能性があるみたいですよ」


 私の言葉を聞いて、目を輝かせた人はたくさんいた。この人たちは王国派の……いや、イアックさんの味方入り決定だ。

 

 僕はこれからもずっとイアックさんと仲良くしていようと心に誓った。

お読みいただきありがとうございます。

毎朝6時更新頑張ります。


イアック: 健康と筋肉に良いメニューです。

イアック: 今日の予定表です。分刻みで設定されています。

エルナ: 美容とファッションについてです。よく覚えてください。

シド: 今日もビシバシ行くぞゴラァ!


トリス: はいいいぃ!!


こうして2ヶ月でトリスさんは変貌を遂げた。


またお越しいただけたら幸いです。

よろしくお願いします。

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