37話 薄毛メタボ武官貴族トリス
《武官貴族》。魔物や盗賊、凶悪犯罪者などの討伐、戦時では王国の剣として活躍を期待される貴族家の総称である。
特に序列のトップ3はアルマ王国の最高戦力とされ、有事の際は指揮官として国や民を守る役目を負う名誉ある立場となる。
「憂鬱だ……」
武官貴族家 長男、トリスは悩んでいた。
トリスは年に一度、今年は3ヶ月後に開かれる序列式に参列する。
トリスの実家であるヴァルツ家はこの一年で多くの功績を立てた。現在序列4位だが、この序列式でトップ3入りもできるのではないかと言うほどに。
「此度の序列式は功績は立派なんだけど……」
しかし毎年参加するこの序列式で、トリスは他貴族の嘲笑の的となっていたのだ。
この功績は重装騎馬兵団を指揮する父親が打ち立てたものだ。トリスはと言うと内政を重視し、領民を幸福にしていたが戦場に出たわけではなかった。
自身は武官貴族家ではあるという自覚はあるものの、生来の優しい性格と戦いを虚しいものと感じる感性、それにより戦いを苦手としていたからだった。
当然それは武家として歓迎されない。父親から内政で結果は評価されども、武を学んで欲しいとも言われていたし、周囲の他貴族からのウケも良くないのだ。
そして何より、武家らしからぬ容姿が問題だ。
薄毛、メタボリックな体型、多忙な日々による寝不足からクマが浮き、自信なさげに歩く姿はお世辞にも優雅とは言えない。
そんな自身を変えたいとは思っていたが、忙しさと日頃の嘲笑に心折れ、前を向くことができずにいた。
そんなトリスの元に運命の使者が訪れる。
「陛下からの使者ですか」
「ライフシード領で魔避けポーションが生産されているのは知っているだろう。しかし防諜の面で不安があるらしい」
「それがどうして僕をライフシード領に招集したいと言う内容になるんでしょうか」
「助言が欲しいそうだ。我らの領地では門外不出の騎馬の育成技術があるが、この防諜を担うお前の手腕を高く評価して下さっているらしいな」
陛下が僕のことをそんなふうに見て下さっていたなんて。
「魔避けポーションという国家事業ともいうべき重大案件の深い部分に関わることにもなるだろう。これは陛下きら我らへの信頼でもある。裏切ることはできない」
「わかりました父上。元より断る理由などありません。行ってまいります」
「うむ。ライフシード男爵は個の強さでは武官のトップにいた方だ。そういう意味ではお前にも何か得るものがあるやもしれん」
「……わかりました。学べるだけ学んできます」
陛下からの評価に嬉しくなっていた僕は武についても前向きな気持ちになっていた。
よし、頑張るぞ。
◇
「これはシド人将、フリーゲン様、お久しぶりでございます」
「トリス殿、此度は防諜への御協力、感謝いたします」
「お久しぶりです」
ライフシード領に着くとライフシード男爵とフリーゲン近衛副隊長から歓迎された。僕が招集されたと言うのは間違いないようだ。
その後、早速魔避けポーションの防諜について確認させてもらい、いくつか気になるところを指摘させてもらった。
作業従事者の意識がとても高く、人から情報の漏洩のリスクは少なく感じたが、今後規模が大きくなったときのためにしっかりしたシステムを構築すべきだと思う。
「しばらくライフシード領に滞在させていただきます。防諜システムの構築を精一杯やらせていただきます」
「トリス殿、ありがとうございます。報酬についてはお父上と陛下とでお話しすることになっているのでそこはご心配なさらずとも大丈夫でしょう」
「わかりました」
今日の仕事は終わりだ。この後歓迎のおもてなしをしてもらえるそうだ。請われて来たとはいえ、歓迎されていることを嬉しく思ってしまう。
美味しい料理、気持ちのいい風呂、僕は感激しっぱなしだった。
でもこの後、そんなこと全て吹き飛んでしまう出会いが僕を待っていた。
「お悩みなのですね」
イアックと名乗るこの人の言葉に、僕はドキッとさせられた。
今日はライフシード男爵の勧めてくれた宿で一泊することになり、疲れを癒すサービスがあると言われ、ライフヒーリングなるものを受けて今に至る。
今の気分は控えめに言って最高である。疲れが大きく癒やされ、短時間とはいえ熟睡。ここ数年感じたことがないほど身体を軽く感じている。
しかし、僕の悩みは消えていない。3ヶ月後……いや、今はもう2月半後か。序列式――僕が笑い者にされるまでの期日が。
「お恥ずかしい。愚痴を聞かせてしまいましたね」
何故か僕は悩みを打ち明けてしまっていた。このイアックという人が魔避けポーションの開発者だからか、はたまたライフヒーリングが素晴らしかったからか。気が緩んでいただけかもしれない。
「忘れてください」
「トリス様は悔しいのですか?」
「………………」
「卓越した内政手腕に防諜技術、これほど素晴らしい能力をお持ちなのに笑い者にされてしまうことに憤りはありませんか?」
「……だったらどうだと言うんですか。貴方に関係ないし、今更どうにもならないでしょう」
少し嫌な言い方になってしまった。自分で分かっている。これからもこの日々が続いていくのだと。後ろ指刺される毎日が待っているのだと。
「私には出来ますよ」
「……何ができると?」
「貴方様を美男子に出来ます」
気圧されてしまう。
ハッキリ言い放つこの人は本気の目をしていた。
「何を馬鹿なことを。整った顔立ちの貴方にそんなことを言われても嫌味にしか聞こえませんよ」
「トリス様、私に貴方をプロデュースさせていただけませんか?」
この人は何を言っているのか。僕を美男子に?ハゲでデブで武官貴族のくせに戦えず笑われて来た僕を?
「やれるものなら」
やる気にさせてみろ。
「手始めにトリス様の髪の毛を生やしてご覧にいれます」
!!!何だと……。そんなことできるはずない。ハッタリだ。
「もし、それが出来なければご不快にさせたことを改めて謝罪させていただきます。しかし、もし出来たのなら、もう一度私と話をしていただけますか?」
髪の毛は1番どうにもならないと思っていたことだ。自信を持って話す彼を見て僕の中に淡い期待が生まれてしまった。
「いいでしょう。どうせしばらくはここにいますから。その自信、本物かどうか見せてもらいましょう」
◇ 3日後
「う、嘘!?」
イアックから毎日ライフアライブなる施術を受け、3日経過した。するとどうだろう。薄っすらとだが髪の毛が生えて来ているではないか。
「イアックの言う通りだった……。嘘なんてついていなかったんだ」
話をしなければならない。非礼を詫びて礼を言わねばならない。
「このようなすごいことができるなんて、イアックは何者だろうか」
いや、そんなことはどうでもいい。とにかくイアックと話がしたい。僕をプロデュースすると言っていたあの人の考えが知りたい。
僕が勢いよく施術室のドアを開けると中でイアックが待っていた。
「トリス様、本日もよろしくお願いします。そしておめでとうございます。その髪の毛はこのライフシード領にいる間にしっかりと定着し、力強く伸びるものになります」
「イアック……さん。一体何をしたんですか?ライフアライブとは一体……」
「ライフアライブは人が本来持っていた力を取り戻させるライフ術です。つまり、トリス様の身体はまだまだポテンシャルを秘めていると言うことですよ」
僕が本来持っているもの……。一度失ったと思ったものを取り戻させてくれるのがライフ術……。最高すぎる。
「イアックさん、貴方の言うことは本当だった。だから僕は貴方を信じてみたい。僕を美男子にプロデュースしていただけますか?」
「お任せください。誰もが羨む美男子にして差し上げます。トリス様が望むなら強さも兼ね備えた美丈夫にだってなれますよ」
美丈夫にもなれるだって!?僕が逞しく、美しくなれる!?僕の長年の悩みが消えてなくなるってことじゃないか!だったら、僕はどんな努力だってしてみせる!
「髪の毛と違って体型や肌についてはトリス様の努力が必要です。でも必ずや結果を出して見せますよ。それも序列式に間に合うように」
この言葉で僕のやる気は天元を突破した。
そして2ヶ月後、僕は自分でもびっくりのイメチェンを――いや、変身をすることになる。
お読みいただきありがとうございます。
毎朝6時更新頑張ります。
イアック: 期待通りの人材きたー!!
エルナ:すごいこと約束してましたけど大丈夫なんですか?
イアック: YES of course
エルナ: 迸る自信ですね。
イアック: エルナさん、覚悟しておいてくださいね?
エルナ:覚悟ですか?
イアック: 超忙しくなりますから。
エルナ: ………ワカリマシタ
またお越しいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。




