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34話 威厳ぶっ飛びマッサージ

⭐︎国王視点


「陛下、本日はスッキリバイオレットの生産現場視察、お疲れのことと存じます。この後は私が代表を務める施設にて、精一杯のおもてなしをさせていただきますのでごゆるりとお過ごしください」


 イアックとクランツの模擬戦のあと、本日の宿泊先へ案内された。

 

 少し年季が入っている館だがよく手入れがされており、小領のライフシードではかなり綺麗で大きな建物だ。おそらく元は大店の商会が入っており、そこを改装して今日のもてなしに利用できる様にしたのだろう。

 

 てっきり領主館に宿泊かと思っていたが、イアックが代表を務める施設に宿泊だと?何だこの後も楽しみではないか。

 

 扉を開けた先、エントランスには施設のスタッフが並び、丁寧にお辞儀をしての出迎えである。

 

「陛下、誠に恐れながら、この後のご案内は当施設 支配人を務めるエルナにお任せいただけますと幸いに存じます。私はお食事の支度とこの後お試しいただきたいサービスに注力したいと思いまして。ご案内から外れるのも恐縮ではございますが、より良いおもてなしのためとご理解いただけましたら幸いです」

 

「おお、そうか。イアックよ、ここまでご苦労であった。また後ほどな」

 

「ここまで私の拙いご案内にお付き合いいただき感謝いたします。一旦裏方に下がりますが後ほどあらためて陛下にお目にかかることと存じます。何卒、よろしくお願い申し上げます」


 どうやらイアックの案内はここまでのようだ。

 それにしても食事の支度までイアックが絡むとは、本当に多才なやつだ。


「それではエルナ、後を頼む」と言い、イアックはその場を辞した。

 入れ替わる様にスタッフの中で1人だけ服装の違う、責任者と思しき若く美しい娘が前に出る。

 

「ようこそお越しくださいました。当施設の支配人をしております、エルナと申します」

「うむ。よろしく頼む。それでここはどの様な場所なのだ?」

 

「ここは"美と健康の楽園 ライフォニア"。日々の疲れを癒し、より美しく、より健康に、活力の溢れる体に戻して差し上げる場所となっております」


 美と健康の楽園……。何だここでは何が起こるというのだ。

 普通は料理や風呂などを自慢するのが宿泊施設の常道だが活力を売りにしてくる場所など聞いたこともないぞ。

 

「おいシド!これも聞いておらんぞ!」

「謁見の時には影も形もアイデアすらもなかったのよ。あれからこの短期間でイアックとエルナが作り上げたの」

「あれからそんなに経っていないというのに……すごいな」


 否応無しに期待が高まるな。しかし何が待ち構えていても国王として威厳ある態度で臨む所存だ。


「陛下、本日はご公務、誠にご多忙であられましたことと拝察いたします。どうぞ、お疲れを癒されますよう、お風呂のご用意を整えてございます。ごゆるりとおくつろぎくださいませ」


 

 ◇ 数時間後


 ふふははは!風呂も食事も威厳たっぷりで過ごしてやったわ。


 柑橘のいい匂いがする風呂や檜を使った風呂も何やら薬草が入った緑の風呂などと言う怪しげなものまで堪能し尽くしてやったぞ。


「陛下、めちゃくちゃ楽しそうにしてましたね」


 うるさいクランツ。普段王宮の風呂にしか入らんのだからあんな面白いものテンションが上がるに決まってるだろうが。


「食事も食べ過ぎですよ」


 シドだって食いまくっていただろうが。お前には言われたくないわ。

 

 イアックのやつ、料理まで面白いとか反則だ。

 宮廷料理の様な洗練された技はないが、発想がすごい。思わずレシピを聞き出して宮廷料理人に研究させたくなる様な品々だった。

 

 シドが虜になるのもわかる。次は何が出てくるのかとワクワクしてしまうぞ。


「現時点でも十分楽しんでますがライフォニアの真価はこの後のサービスにこそありますよ陛下」

 

「何だ何だシドよ。お前は毎日こんないい思いをしているのか?」

 

「風呂はいい匂いだし、飯は見たことないメニューばかりだし、挙句にまだ何かあるとは……帰還早々いいご身分だなシド男爵?」

 

「2人とも怖いわよ……そんな訳ないでしょう。ほら、エルナが来たわよ。案内してもらいましょう」


 支配人が来たか。食事後少し腹が落ち着いたから呼んでおいたのだ。

 

「ライフォニア 支配人エルナ。陛下の御召に応じ、謹んで参上いたしました」

「ご苦労。風呂も料理も素晴らしいものであったぞ。シド男爵に聞いてみればイアックの突拍子もないアイデアを其方がまとめ、実現に向けて舵を取っていたというではないか。その若さで大したものだ」

「きょ、恐縮です」

 

 代表を務めるイアックに目がいってしまうが周りのスタッフも素晴らしい。

 支配人としてイアックを支えるこのエルナは本当に重要なポジションなのだろう。


「それでは施術室にご案内致します」


 エルナに案内されライフォニアの施術室に来た。

 室内ではイアックが専用のユニフォームと思われる服に着替えて待っていたようだ。


「皆様、お待ちしておりました」


 恭しく一礼するイアック。それを見てエルナが案内の続きを始める。

 

「陛下、最初は日頃の疲れを癒すライフヒーリングというマッサージです。どなたか施術を受けていただける方はいませんか?」

「もちろん我が行く」


 一番槍は王の務め。そうに決まっておる。

 

「陛下、危険はないかと思いますが、まずは近衛の誰かに行かせた方が良いのではないかと」


 そうだった。俺、先陣切っちゃいけない人だったわ。

 

「むぅ……イアック、疑うわけではないがまずは近衛に施術を受けさせることにする」

「承知いたしました」

「陛下、懸命な判断です」


 近衛の副隊長を務めるフリーゲンが施術を受けることになった。

 真面目を絵に描いたようなやつだ。どんな変わり種マッサージが来てもしっかりとした感想をくれることであろう。

 

「ではよろしく頼む」

 

「おお、これは、なるほど、確かに、言うだけあって、うまいな、はふぅん、ぬふん、ほほほほほん」

 

「なんちゅう声出しとるんだお前は」


 ふむ、丁寧でうまいマッサージだと言うことはわかったが、これと言って特別なことはなさそうだが……。

 変な声を出していたフリーゲンも特に感想など話さなくなってしまったしな。

 

「フリーゲンよ、どうなのだ?黙っていてはわからんぞ」


 声をかけてみるが返答がない。流石に変だと思い、クランツが顔を覗きに行く。

 

「寝てる……」

「えええ?」

「開始5分も経ってないぞ……」

「王の護衛が眠りこけるなど……」


 イビキをかいておるではないか……あの真面目なフリーゲンが職務の最中であるにも関わらずあっさり睡魔に屈するなど信じられん。

 

「責めないであげてください。この方はだいぶ疲労が溜まっていたようです。責任ある立場で、誇りもある代わりに重圧も大きいのだと思います。施術完了したら起こしてあげましょう」


 イアックは寝てしまったフリーゲンに構わず施術を続ける。結局最後まで起きることはなかった。

 

「終了です。フリーゲン様、施術は終了しましたよ。起きた方がいいのでは?」

 

「う……ううん。………………っは!私は何を!?……寝てしまったのか……職務の最中だと言うのに情けない……」

 

「お疲れだったのですから仕方ありません、ご気分はいかがですか?」

 

「……おお、体が軽い。私は何時間寝ていたのだ?まるで若い頃に戻ったように体が動くぞ」

 

「20分ほどですよ」

 

「………………え?その程度の時間しか経ってないのか?」


 フリーゲンは不思議そうな顔をしておる。だが、我から見ても明らかに血色のいい顔をしている。

 

「おいシド、これはなんだ」

「疲労回復らしいですよ。ライフ術の1つだそうです。ちなみにライフアーツもライフ術の1つです。ライフ術はかなり奥が深いんですよ」


 エルナも補足として説明してくれる。

 

「ライフヒーリングと言うマッサージサービスです。日頃から蓄積された疲れをライフを使って癒します。また、体を流れるライフの流れを正常化するため、疲労回復以上の効果も期待できます」


「何度か受けているあたしですら施術を受けると寝てしまいそうになるの。初体験でしかも油断してる人なんてイチコロですよ」


 これは俄然興味が出てきたが、ある意味かなり危険な代物のようだな。威厳的な意味で。だがここまでクールでナイスな王を見せつけてきた俺だ。見事この難局を乗り切ってやろうではないか。

 

「今度こそ我が行こう。なに、今のを見ていたのだ。眠らずに施術の感想を言ってやろう」

「陛下……大丈夫ですか?何だか自分で盛大にフラグを立てている気がしますけど」


 クランツは心配性だな。まぁ良い見ておれ。


「では陛下、ベッドでうつ伏せで横になってください」


 いざ尋常に勝負!


「ふん、なるほど、ふぬふふぬん、手強い、はぁぁん、くぁ、ではないか」


 やばいやばいやばいフリーゲンすまぬこれ耐えるの無理だわ。お前の気持ちめっちゃわかる。わかりみ深いわ。

 あかん、眠すぎる、落ちる……。ぐぅ。

 

「即落ちじゃないですか」

「なんならフリーゲンより早かったわね」

「王としての仕事をしてて疲れてないわけないんですよ」

「もう陛下の威厳はライフシード領にいる間は戻ってこないな」


 夢を見た。俺は飛べる。鳥の様に大空を飛び世界を旅するのだ。

 「陛下。終了ですよ」なにやらイアックの声がする。何だ?俺は空の旅中だぞ。

 ……………………は!


「………………我としたことが寝てしまった様だな。やるなお主」


 何言ってんだ俺。


「陛下、くふっ、血色のいい顔をなされてますよ、くふっ」


 クランツのやつ、笑いを堪えてやがるな……。ちょっと漏れてんだよ隠せてねぇよ。

 

「クランツぅ?お前も受けさせるからな。もちろん近衛全員だ。このマッサージの疲労回復効果は絶大だ。体験した我の保証つきだぞ?」

 

「う……」

 

「疲れていない者などおるまい?快楽の沼に堕ちるが良い。ふふふはははははは!」


 お前らも道連れに決まっているだろう。

 

「全員分と言うと施術スタッフが足りませんね。他にもライフヒーリングが使える者がおりますので呼んでまいります。少々お待ちください」


 何人もいるんかい。

 イアックが特別だと思っていたがそうではないようだ。それなら十分に宿泊客全員に施術できるだろう。


「それにしてもこれは凄まじいな」


 フリーゲンの言う通りだ。体が軽い。若返ったかのように体力が溢れてくるようだ。

 

 これはまた来たい。疲れたらリセットしてもらうために絶対にまた何かしらの言い訳を作ってここに来ようと思った。

お読みいただきありがとうございます。

毎朝6時更新頑張ります。


飯と風呂の後にマッサージなんて受けたらそりゃ寝ますよね。


またお越しいただけたら幸いです。

よろしくお願いします。

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