33話 VS近衛隊長クランツ
鍛錬場に着くと早速手合わせの準備に入った。
いや、ちょっと待て。クランツ近衛騎士隊長ってば鉄製の剣持ってない?え?刃は潰してあるから安心?骨とか内臓潰れるくらい?バカヤロウ潰すのは刃だけにしろよ安全も潰れてんだよ。
「師匠頑張ってください!」
「イー兄ファイトー!」
「イアックさんライフアーツ魂見せてやってください!」
「今までイマイチ謎だったイアックさんの本気が見れるかも!」
レーヴ君達めっちゃ楽しそうね……。観戦許可されて良かったね。観戦することで得るものもあるからね。
カシムさんライフアーツ魂って何ですか?もしかして俺にもわからないもの開発しちゃってます?
「イアックさん何やってるんですか!?この後もやることあるでしょう!?」
「イアック代表怪我だけはしないでください!この後イアック代表なしとか無理ですからね!」
エルナさんとジーナさんだ。そうだよね、この後のおもてなしのためにスタンバってくれてたんだよね。
ごめんね。でもどうしてこうなったのか俺にもわからないんだよ。
「シドの見立てではどっちが勝つ?」
「引き分けですね。クランツもイアックもお互いに遠慮した勝負になりますよ。2人とも大人の対応ができるはずですから」
「なんだ。それじゃつまらんぞ」
この状況がすでに大人気無いですが!?
田舎のガキに近衛のトップと戦えって何考えとんじゃい!
「イアック殿、すまないな。ライフアーツは初めてみた時から絶対詳しく知らなければいけないと思っていたのだ。そうでなければいつか大変な目に遭うと私の勘が警鐘を鳴らすのだよ」
「あ……いえ、ちょっと困りましたけど、陛下を守る立場で知らない技法があるというのが危険というのは理解できますので」
強引な気はするけどね!
視察は明日までだし、明日怪我するわけにはいかないから今日なんだろうけどね!
「この勝負の仕切りはあたしがやるわ」
とりあえず腹括って頑張るしかないな。俺は接近戦しかできないし、開始したら距離を詰めよう。
「それでは2人とも構えて、始め!!!」
シドの始めの声と同時にダッシュ。
「あれ?」
――俺じゃなくてクランツ様が。
何となく俺に先手をくれる気がしてたのに全くそんな気は無かったみたいだ。
「シッ!」
クランツ様が剣を振り下ろす。
体を捻ってそれを避けるが次々に猛攻を仕掛けてくる。
軽くという話はどこに行ったのか。多分もう忘れてそうだな。
高速で振り下ろされる剣撃の嵐。当然のようにマナコートを使っているが、いつ魔法のチャージをしたのか。
「クランツ様!いつ魔法のチャージしたんです!?」
「ははははは!どうやってるか当ててみるといい!」
謎謎かな。一瞬小さく光ってるけどあれがチャージか?あんな一瞬でこんな長時間持続するマナコートなんて使えるのか?
あれ?でも速いのは剣速だけのような……あ、そういうことか
「一瞬のチャージで体の一部を一瞬だけ強化。これを攻撃のたびに繰り返してるのか」
「もうわかったのか……」
「すごい器用ですね。それにチャージの隙がない」
「《瞬間チャージ》と言う技術だ。一応高等技術だぞ」
ゼリー飲料のキャッチコピーのような名前の技術だ。燃費が悪そうだけどチャージの隙無く魔法が使えるのは大きな利点だろうな。
「君は無手のようだし、近距離戦が得意なのだろう。それなら遠距離はどうだ?」
すぐに遠距離魔法に切り替えられる。
当たり前のように遠近両方の戦法を出してくるな。流石は近衛のトップなだけある。
「《ファイアボール》だ。どう対処する?」
クランツ様は一度離れて魔法をチャージし始める。チャージ中に距離を詰めようとしたがすぐにチャージが完了してしまう。
《ファイアボール》。初級魔法に分類される火の玉だ。
「避けます」
俺は火球を避けながらクランツ様との距離を積める。
初級魔法ではチャージ時間は0.5秒くらいか。ドンドンと撃ち出される火球だが正直たいしたことない。
近づくとクランツ様もマナコートを展開してからの剣撃勝負に切り替えてくる。
それを避けながら攻撃するタイミングを見計らうが、なかなかに難しい。
あ、また一度離れるみたいだ。
またやり直しか。これじゃ決着つかないなぁ。
お互いに様子見と分かりきった戦いになっており、少しグダってきたなとすら感じる。
「くおらぁ!!イアック!!さっさと本気出しなさいよぉ!!!」
突然シドの怒号が響き渡る。
「陛下の前だからって遠慮なんていらないわ!ボッコボコにしたらいいじゃない!陛下の前で無様晒してやりなさい!」
なんて事言うんだあの領主……。不敬罪でクビでも飛ぶんじゃないだろうか。
「ぶはははははは!」
陛下大爆笑。不敬罪はなさそうだ。
しかし……確かに遠慮してたな。
「イアック殿、遠慮は不要だ。全力で来てくれた方が嬉しい。そして全力で来られても私は軽く相手してはみせよう」
相手は近衛騎士隊長。シドと同格って言ってたもんな。
「クランツ様、大変失礼致しました。そもそもこれはライフアーツを知りたいと言って始めた勝負でしたね」
俺は深く息を吸い、そして長く息を吐き出す。シゲ爺から聞いた、異世界の武道にある、息吹という行為。
「クランツ様……行きます」
俺は自身のライフを操作し、《ライフブースト》し、《オーラ》を纏う。そして一直線にクランツさん目掛けて走り出した。
「速い!しかし火球はどうする!また避けるか!」
ライフアーツを知りたいのだろう?だったら見せてやらなきゃいけない。ついでにレーヴ君たちにも見せておきたいしね。
「殴ります」
俺は火球を殴り、かき消した。
「はぁ!?」
「え?熱くないのあれ?」
クランツ様は心底嬉しそうな顔をして次の火球を飛ばしてくる。
「次は当たります」
俺は火球にまっすぐ突っ込む。この程度ならあったかいなぁってくらいにしか感じない。
「無傷!?」
「当たったのに!?」
さぁもう近距離まで来たぞ。遠慮なくぶん殴るとしようか。
しかしクランツ様も剣で応戦してくる。
「見えてますよ」
俺が使っている《ライフブースト》とはライフによる身体強化だ。
体の色々な箇所に強化をかけることができる。つまり動体視力だって強化できる。
俺には剣の振りがコマ送りのように見える。一撃目を避けて追撃がくる前に剣の間合いのさらに内側に入り込む。
「触れたら俺の勝ちです」
「!!」
クランツ様は瞬間チャージで脚力を強化。俺の手が触れる前に離脱した。
「そんなことができるんですね」
「そんなことができたのか」
また仕切り直しになってしまったが、お互いに同じような感想を持ったようだ。
「今のは集中強化って感じでしょうか。想定よりずっと速く動かれました。それがなければ決まりだったんですけど。マナの扱いもいろいろあって奥が深いですね」
仕留めたと思ったのに逃げられたのは飛び退くことだけに瞬間チャージのマナを使ったからだ。
着地がぎこちなかったし、かなり無理して飛び退いたっぽいな。
「もう見抜いたのか……君は聡明だな」
クランツ様が魔法をチャージし始める。
チャージが長い。別の強力な魔法か。
「その身体能力の向上は何だ?」
戦いの最中だがクランツ様から質問が来た。もちろん快く答える。
「これはライフの体内循環を速め、且つ全身に行き渡らせることで一時的に身体能力を向上させるライフアーツ――《ライフブースト》です。マナコートとは違って体のあらゆる機能に強化をかけられます」
ライフアーツ レベル1を習得すれば使える技だ。もちろん習熟度によって効果が変わってくる。
魔法の基本がマナコートであるように、ライフアーツの基本はこのライフブーストだ。
そんな話してるうちに魔法のチャージが終わったようだ。でかいのが来る。
「イアック殿!無理だと思うなら逃げたまえ!!インフェルノ!!」
クランツ様から放たれたのは炎の……波?塊?とにかくデカい炎だった。
「クランツ!!」
「やり過ぎよ!!」
陛下とシドからクランツ様を咎める声が上がる。インフェルノは火の上級魔法だ。
要はデカくてあっつい炎である。タフネスが異常なシドでもまともに受けたら死ねるって言ってた。
さて、ライフアーツを見せるって目的をここでも果たそうかな。
「オーラ全力展開」
俺はオーラを全力で展開する。そして顔の前で腕を交差し、ジャンプして体を丸め、そのまま突っ込んだ。
「きゃああああ!!」
エルナさんから悲鳴が上がる。
自殺したように見えたかもしれない。しかし俺のオーラが尽きる前にインフェルノを突破した。
「あっちい」
「んな!?」
クランツ様は目の前にいた。自分で放ったインフェルノが邪魔で俺の姿が見えていなかったんだろう。炎を突っ切って最短距離で近寄った俺への反応が遅れてる。
もう逃さない。
俺は瞬間チャージに注意しつつクランツ様の腹部に掌底を叩き込む――振りをして鉄の剣を殴りつけてへし折った。
「俺の勝ちですね」
「はぁ……熱いで済む魔法じゃないんだけどね」
勝負は俺の勝ちで終わった。
あれ?終わったんじゃないの?シド早くそれまでって言ってよ。
「うわああああ!」
「すげぇ!師匠超すげぇ!」
「イアック代表ってあんなに強いの!?」
「イー兄かっこいいーー!」
終わりの声がかからず困惑していると自警団メンバーの大歓声が上がる。み
「クランツ様が負けた……だと」
「あの男は何者だ……」
「クランツ様とて本気ではなかった。しかしそれにしたってこれは……」
近衛騎士団は信じられないものを見たと言う顔をしてこちらを見ている。
「本当に勝っちゃうなんて引くわ〜」
「シドがやっちゃえって言ったんだろ!あれ……?もしかして俺この後陛下に処されたりするの?」
「冗談よ。よくやってくれたわイアック。陛下もクランツも大満足でしょうよ」
え?そうなの?じゃあ処されたりしないよね?
「イアック殿、手合わせ感謝する」
「イアック!あの赤い光は何だ!このままでは気になって眠れんぞ!」
赤い光――オーラのことだな。
「あれは《オーラ》というライフアーツです。ライフの対外制御技術ですね」
「オーラがあれば魔法が防げるのか?」
「防いでいるわけではありません。オーラがダメージを肩代わりしているんです。だから魔法を受ければ怪我より先にオーラが減ります」
オーラはライフアーツ レベル3の技だ。火球に触れれば火傷する。しかしオーラがあればオーラが減るだけで火傷は負わないのだ。
「相手に触れただけで戦闘不能になるのは何故だい?」
「それは相手のライフを乱しているからですね。自分のライフを相手に打ち込んでるんです。だから相手がどれだけ耐久力に秀でていても関係ないんですよ」
「耐久無視だとぉ……」
ライフアーツ レベル2の技だ。耐久無視とは言ったけど、相手もライフアーツを使えるなら抵抗されるけどね。
「今は基本的にその3種類で戦っております。マナを扱える方はマナによる魔法とライフアーツの併用ができると最高ですよ。ちなみにシド様がそれをやっています」
「シド!お前マナとライフ両方使えるのか!」
「ええ、イアックの一番弟子はあたしですから。だからあたしは以前より遥かにパワーアップしてますよ」
「シドが……遥かに……だと……」
「あ、シドだけですよ。そこまでできるのは。他の自警団メンバーはレベル2が2名、あとは全員レベル1です」
あ、クランツ様がショックを受けてる。今シドと戦ったらあっさり負けそうなのに気づいたな。
「もっと詳しく話を聞かなければならん」
まだまだ質問は終わらないみたいだ。何でも答える気でいるけど、鍛錬場で立ちながらって言うのもな。
「陛下、ここでは落ち着けませんし、場所を変えませんか?実はおもてなしも特別なものをご用意しておりますので是非お試しいただきたいのです」
「特別とな?何だまだ驚かそうと言うのか?」
「いえ、今日の疲れを癒していただけるサービスをご提供させていただきますので」
さて、物騒な模擬戦?までさせられたんだ。もう遠慮する気は毛頭ないぞ。
「個人的なことを申し上げれば、ここからが本番です」
恭しく頭を下げながら、俺は悪い笑顔でそう言った。
お読みいただきありがとうございます。
毎朝6時更新頑張ります。
イアックの勝利で終わりましたが、両者とも結局全然本気ではありません。
またお越しいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。




