27話 魔闘祭って何!?え!?出れないの!?
シドが王都への旅から帰ってきた翌日。まだリナが学園へ旅立つ少し前に遡る。
俺は領主館の執務室でシドに報告とこれからについての話をしていた。
「イアック、苦労をかけたわね。領主としても、リナの親としても礼を言うわ」
「いやぁ、めっちゃ楽しかったよ。神の園にいた頃より刺激的な毎日だね」
神の園でも鍛錬や魔物観察などやることはあったが、今のように人と関わることの方がずっと刺激的で楽しい。だから苦労だなんて思ってもいなかった。
「それはよかったわ」
しかし、いくら楽しい日々を送っていたとしても、この後の話を前にすると笑顔になることは不可能だ。
「……ねぇシド、ヤムさんとクロガさんは」
「……処刑したわ」
「そっ……か」
俺たちや領民どころか仲間のはずのマナ不全者をも裏切ったヤムさん。許されないんだろうなと思ってはいたが、改めて聞くとやるせない。
「ヤムのしたことは許されないことよ。これを許せばあたしは領主を名乗る資格はない」
ヤムさんの裏切りは領地の人々全てに大きな害を成す非常に大きな裏切りと言える。
もし、あのまま密会を重ねていれば、子供が攫われ、老人は脅され、魔避けポーションの生産もおぼつかないことになっていたかもしれない。
未遂だったがそれは結果論だ。大きな罪であることに変わりはない。
「シドが手を下したの?」
「ええ、これはあなたにも、ましてやリナちゃんにもさせられないわ。あたしの領主としての責任として、あたしが執行したわ」
冷たいとは思わない。むしろ、俺はシドが領主として厳格であって欲しいと思う。
優しさや親切だけでは守れないものがあるんだ。俺の甘さで父さんを失った時のように。
クロガさんも処刑しかないだろう。クロガは厄介な暗殺者。逃したらもう捕まえられないかもしれない。そしていつかまた仕掛けてくるかもしれない。その時はこちらが後手に回るの確定だろうから。
コンコン。執務室の扉がノックされる。
「入りなさい」
「失礼致します」
入ってきたのはカシムさんだった。
「イアック、悪いんだけど席を外してもらえるかしら。カシムと2人で話をするわ」
察する。2人でないと話せない内容なんて決まってるな。
「分かった」
俺が執務室を出るとレーヴくんがいた。カシムさんに付いてここまできたのだろうか。
「師匠」
「レーヴ君は中に入らなくていいの?」
「……カシムさんに止められたッス。ここからは俺の仕事だと言って」
「……そっか。俺もシドに外に出ていて欲しいって言われたよ」
配慮なんだろうな。ヤムさんのことは大人達で話すってことなんだろう。すごく重い話だから。
「レーヴ君、鍛錬場に行こう。ライフアーツの習熟度を見せてよ」
「…………はい」
俺たちは鍛錬場に移動した。今は誰も使っていないようだ。
「師匠!行くッス!」
「うん」
レーヴ君はシドの次にライフアーツの習熟度が高い。魔物や魔獣などを単独で簡単に倒せるし、今もメキメキと腕を上げている。
だけどライフアーツが上手なだけで武術がすごいわけではない。
今もレーヴ君の拳も蹴りもすべて簡単に受け流せる。それでは未熟だ。
でもそれはそれとして
「レーヴ君、腕を上げたね」
「ありがとうございます。でもこんなもんじゃ満足できません。今も師匠に完全に受け流されてますし」
「君はまだまだこれから強くなる。だから俺は君が満足するまで鍛えるよ」
「ありがとうございます!」
レーヴ君の蹴りを避けて返しに足払い。「グヘッ」っと言って転倒する。
「……ヤムさんは自分だけでもまともに生きたかったって言ってたんだ」
誰かを犠牲にしてでも。そう言ってた。
「贅沢な人生じゃなくてまともな人生を望んでた。それってマナ不全者ってだけで不遇な人生が決まっちゃってるからだよね」
普通の人生を手に入れるため。それは多くの人が当たり前に享受しているもののはずだ。
それを手にするために仲間を全BETしなきゃいけないほど、マナ不全者は地位が低い。
「だからさ、レーヴ君と俺とでマナ不全者の地位を向上させない?」
「地位の向上……」
「そう。マナ不全者として生まれても、悲観することがない世の中。それが実現できれば、まともな人生が当たり前に享受できるようになるよ」
「そうすれば、ヤムさんみたいに思い詰める人も出なくなるッスか?」
「そういうこと。これはレーヴ君の夢、ライフアーツの可能性を伝えたいっていうのとも繋がってる」
ライフアーツの可能性。それが広まればマナ不全者も侮れない存在になる。そうすれば迫害されなくなり、地位が向上するはずだ。
「やるッス!絶対にやるッス!」
「ありがとう。手始めにさ、《マナ不全》って言葉を使わないようにしない?何だか後ろ向きじゃん。例えば……《ライフ適性者》って言い換えていこうよ」
「《ライフ適性者》……最高ッス!師匠はやっぱりすごいッス!ありがとうございます!俺、もっと頑張るッス!」
「俺もやれることをやるよ。レーヴ君と話してていいアイデアも思いついたしね」
その後、シドとカシムさんの話は終わった。
ヤムさんの処刑は領民には知らされず、マナ不全者の大人達に対してだけ、カシムさんから伝えてもらう。カシムさんはまとめ役として、責任を持って対処してくれるそうだ。
俺も今回のことはやっぱり後味が悪い。もうこれっきりにして欲しい。そう思うなら、自分から動いていかないとダメだよな。
◇
「イアック!あたしいいこと思いついたのよ!」
「シド!俺いいこと思いついたんだよ!」
思いっきりかぶったな。
「シドからどうぞ」
「《魔闘祭》にカシム達に出てもらうわ」
「魔闘祭ってなに?」
「端的に言うと戦いの最強決定戦の地方予選よ」
国1番の強者を選出するために行われる大会、それが《魔闘祭》。
地方予選として《魔闘祭》。
その上に《魔闘祭》の上位3名のみが出れる《魔闘大祭》。
《魔闘大祭》の優勝者のみが出れる《天位魔闘祭》。
特に天位魔闘祭は4年に1度しか行われず、国王陛下の前でアルマ王国最強の称号である《天位》を決める大きな大会だ。
何それ超胸熱なイベントじゃん。
「おお、それで?」
「優勝したり上位入線してくれれば知名度アップ!その師匠があたしなことも知れ渡って武名が回復って寸法よ!」
「なるほど。そうなれば弟子が増える……と。減った人口の回復策として考えているのね」
「そうよ!強い人がたくさんいて安心安全な領地ってことをアピールすれば人が戻って活気も戻ってくるはず」
シド曰く、もっと人を集めて町としての機能を復活させるべきだと言う。
確かにライフの町はもう人が少なすぎて町ってより村だもんなぁ。
「それにライフシードはアルマ王国における対魔物の最前線なのよ。それなのに戦える人が少ないっていうのは問題だわ」
それは大問題だよね。
「本当はあたしの武名を見込んで任された領地なのよ……。ここを守ることでアルマ王国に魔物が傾れ込むのを防ぐ役割があるの。また弟子を募らないと陛下に顔向できないわ」
そうだったのか。シドの強さを見込んで任された領地だったのね。
「いいアイデアだと思う。でもカシムさん達出たがるかなぁ?ライフシード領に来るまでに結構酷い目にあったらしいしさ」
トラウマが蘇る可能性もあるのでは?
「それは心配してないわ!絶対出るっていうわよ。なんせ魔闘祭の上位入賞者って言ったらモテモテだからね!」
…………………………
……………………
………………
「何だって?」
「あ……」
おいおいちょっとシドさんよぉ。そういう大事なことは最初に言ってくんなきゃダメだろぉ?
「俺も出たい」
俺は最高のお嫁さんを探してるのだ。つまりモテたいのだ。魔闘祭で優勝すればモテるって話なのだから出ない理由がない。
「あ〜……そのね……」
何故か歯切れが悪いシド。
「あんたは出ない方向でよろしく」
「何で!?」
出ないとモテないのに!
「あんたが出たら優勝に決まってるじゃない。それにあんたはもう一つ上の魔闘大祭からの登録よ」
「いつの間にそんなことに!?」
「武官領主にはそういう権利――っていうか義務があるのよ。圧倒的に強い存在が若い芽を潰してしまうと判断したら出場を規制する。あんたはあたしの判断で出場できるのが魔闘大祭からってこと」
何それ!?俺ってそんな評価なの!?
「あんた……賞金首一発KOしたり魔物でも魔獣でも涼しい顔して倒して挙句にクロガに圧勝って達人級よ。ちょっと自覚しなさい」
「そんなぁ!?そこを何とかお願いできませんかね恋愛賢者様!?」
華麗に活躍してモテて嫁さんゲット計画だったのに……。
「グフッ……(何であたしはそんな恥ずかしい異名を名乗ったのかしら……)だ、大丈夫よ……あんたなら普通にモテるわよ」
……そう?信じるからね。恋愛賢者さんに俺の恋の行く末がかかってるんだからね?
「でも協力するって言ったあたしが邪魔した感じになっちゃうし、お詫びに何かいうこと聞いてはあげるわよ」
……おおお?何でもいいの?
「じゃあ商売してみたい」
「何よいきなり」
「神の園で俺を可愛がってくれた人に商人がいてさ、《タバン》さんっていうんだけど、商人は超楽しいって言ってたんだ」
神の園で俺を可愛がってくれた人の1人。商人のタバンさん。商人としての失敗と成功の話の数々は聞いててワクワクハラハラしたもんだ。
「それに嫁さんもらうにしてもお金稼げない男は頼りにならないってシドが言ってたじゃん?」
「まぁそうね…………耳が痛いわ」
シド、頑張れ。カシムさん達が活躍すればかつての名誉が戻ってくるさ。そしたらお弟子さんを募って大暴れしてくれ。
「それで具体的には何するの?」
「ライフシード領に癒しと活力に特化した場所を作る。領民のお年寄りを見てて閃いたんだ」
タバンさんが言ってた。人を幸せにする商売は楽しさを超えた何かがあるって。俺はライフシード領を訪れた人が幸せを感じられるような場所を作るぞ。
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