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24話 スッキリバイオレット

 ⭐︎イアック視点


 シドが王都から帰還した日の宴の席のこと。

 

「そう言えばシド、陛下に決めてもらってきた?」

「決めてもらったわよ」

「おおお、それで何にするの?」

「《スッキリバイオレット》」

 

 ………………なんて?


「あんたに聞いた事をそのまま伝えたらこうなったのよ」

「強制賢者モードをスッキリと言い換えたのか……まぁ無駄に印象に残るからいいか」


 王都で陛下に魔避けポーションを売り込んでもらったわけだが、《魔避けポーション》のままだと後々の運用戦略に影響があると思っていたので品名をつけてもらうことにしていた。


「あんたって色々よく考えつくわよね」

「そう?っていうか陛下はどんな反応だった?」

「あんたのことベタ褒め。よく考えているって言ってもうノリノリだったわよ」


 おお、よかった。陛下は話がわかる人のようだ。

 

「それでとりあえず今あるだけほしいって言ってるわ」

「了解。在庫してる分を今度エルナさんに運んでもらおう」

「エルナを魔避けポーションに絡ませてあげられてよかったわ」

「そうだね。シド不在時に色々よくしてもらった分、しっかり利益を出させてあげないとね」


 こうして魔避けポーション《スッキリバイオレット》は陛下の差配により王国の各所に配布された。


 

 ⭐︎とある辺境の村

 

「魔物だ!魔物が攻めてきたぞーーー!!!」

「ゴブリンの群れ……だと」

「こんな接近されるまで誰も気づけなかったなんて!」


 とある辺境の村。特に特徴のないこの村には魔物に抗える戦力はない。

 

 この村は魔物の生息域からはそれなりに離れており、たまに少数の魔物のがくる程度だった。

 農作物を荒らされる被害はあっても、村の男衆で十分討伐できていた。

 

 そのため、領主の兵達もたまに巡回する程度しか魔物対策をしていなかった。


「くそぉ!領主様の兵達は何をやっているんだよ!」

「……いつかこんな日が来るんじゃないかと思ってたよ。領主様にとって私達は重要と思われてないから……危険が迫っていても気付いてすらもらえない」


 領主にとってこの村は税収としてわずかばかりの農作物が取れるだけの小さな村。

 つまりは……あってもなくても変わらない村だった。

 

「どうするんですか村長!」

「全てを捨てて逃げるしかない」


 魔物に捕まればこの世の地獄が待っている。

 

 しかし全員で逃げ切るのはまず無理だろう。

 むしろ老人、女子供はほとんど捕まることが目に見えている。

 

「男連中は覚悟を決めろ!少しでも時間を稼ぐんだ!」


 妻や子供達のために悲壮な覚悟を決める者達、しかし、そんな彼らを嘲笑うように新手の魔物が現れる。

 

「な……何でだよ……」

「な!?ゴブリンライダーだと!?」

「終わりだ……誰も逃げられない」

「全員食われて死ぬんだ」


 魔物の歩みは死へのカウントダウン。

 一歩、また一歩と近づいてくる。

 

「もう柵のとこまで来てるぞ」

「あんなの飛び越えられて終わりだ……」


 簡素な柵。あってもなくても関係ないであろう柵だった。

 

 ――しかしゴブリン達はその柵を越えては来なかった。

 

「ゴブ?」

「え?なんで……」

「お、おい……何が起こってるんだ?」

「柵の側まできたゴブリンたちが皆一様にスッキリした顔してるぞ」

「帰って行く……帰って行くぞ!」

「スッキリした顔もするがウゲっていう顔もしてる」

「一体何が……」


 皆が想定外のことに戸惑っていたが、その中の1人が真相に辿り着く。

 

「あああ!村長!国からの支給品ですよ!」

「…………ああ!あれか!食糧難って言ってるのに食べられないものを寄越しやがってなんて言ってたあれ!」

「「スッキリバイオレット!!」」


 そう。魔避けポーション《スッキリバイオレット》である。

 

「絶大な効果だ…すごい」

「助かったのね!国王陛下のおかげだわ!」

「陛下!ありがとうございます!」


 そして村人の1人がスッキリバイオレットの他の用法に気づく。

 

「あ、これもしかしたら農作物が荒らされなくなるのでは?」

「なるほど、そういう使い方も……」


「よし、皆の者!とにかく目の前の危機は去った。これからのことについて話し合いを行うぞ!」


 一度は死を覚悟するほど追い込まれた村人達は、全員陛下の温情に感謝するのであった。


 

 ⭐︎とある貴族令嬢

 

「追っ手が来ます!」

「くっ!こんなところで魔物の群れに襲われるなんて!」


 私は王都からの馬車での帰り道、狼型の魔物の群れに襲われていた。

 

「お嬢様、お逃げください。我らが魔物を食い止めましょう」

「ダメよ!そんなことしたらあなたたちが!」

「あなたの盾になれることが我らの幸せ。どうか我らの願いを聞き届けてください」

「そんな……そんな……ううう」


 主君を守って死ぬは騎士の本懐。彼らの目はそう語っているのがはっきり見てとれます。覚悟が決まっているのでしょう。

 

 そこまで想われて、嬉しく思うと共にこの騎士達を失いたくないと強く思います。

 

「……待ってください隊長、そう言えば陛下からいただいたポーションがありませんでしたか?」

 

「あるにはあるが、それが何だと……いや、待てよ。そう言えば貴族の間で騒ぎになっているポーションが魔避けの効果だったな。濃い紫色の見たこともないポーションだったはずだ」


 私もお父様から聞きました。

 ライフシード領 シド男爵が王家に献上したもので魔物被害を減らす効果が見込めるとか。

 

「隊長!ありました!これではないでしょうか」

「……よし、命を張るより先にまずは試してみよう」


 使い方の説明としては柵などの周囲に撒いておくものらしいのですが、今回は追っ手が通るであろうところに撒くことになります。

 

「何!魔物が帰って行くだと!?」

「何という効き目!何という即効性!」


 すごい!効果覿面です!

 

「ああ!良かった!みんなで生きて帰れるのね」


 危機が去ったことを喜ぶと共にこのポーションを下賜していただいた陛下へ感謝いたしました。

 

「これはとんでもないことになるぞ。急ぎ帰って我々の分のスッキリバイオレットを確保するのだ」



 

 ⭐︎とある砦

 

 カンカンカンカン

 

 大音量の警報が鳴る。見張からの緊急事態の合図だ。

 

「魔物だ!魔物の群れが来たぞ!」

「ジャイアントバットだと!?」

「なぜ突然こんな大群で!」


 ジャイアントバット。その名の通りコウモリをそのまま巨大にしたような魔物で人の血を吸い肉を喰らう。

 

 しかし本来は森の中で狩りをし、木の実なども食べるため近寄らなければ害は無いはずなのだが……。

 

「何か奴らを誘き寄せてしまうものがこの近くにあるのか……」

「あ……あああ!まさか……」

「何だ!言ってみろ!」

「先日、シモンの実が大量に廃棄されたのが原因ではないかと」

「シモンの実?あの腹は膨れるがクソまずい実が何だというのか……まさかその腐敗臭か」


 腐った食い物の匂いはそれを好む魔物を引き寄せる。


 ジャイアントバットがシモンの実の腐敗臭に釣られて森の出口付近までやってきた可能性は十分に考えられた。

 

「それが原因だろう!なぜ捨てたんだ!この砦はむしろ食料備蓄が少ない方だろうが!食料なのだから不味くても食えばいいだろう!」

 

「無理だったんだよ!かなりの量が配給されてきたんだ!あんな不味いものをあんなに大量に食えるか!」

 

「保存だって効かない!生の木のみだぞ!すぐ腐敗する!」

 

「配給だと……領主様は何でそんな嫌がらせのような事を……」


 この砦はあまり重要視されていない。対魔物用の砦だが、突破されても大きな町まではかなりの距離があるし、近いのは小さな村々ばかり。

 

 もちろん魔物を止める重要な役目がある砦なのだが、大した予算が組まれていなかった。

 

 食料の配給は少なく、さらに安価なものを適当に渡すだけという酷い扱いだったのだ。

 

「今はそんな事を議論している場合ではない!急ぎ援軍を要請するべきです!」

 

「しかし今は夜中だ。援軍を呼んでも来てくれるのは夜が明けてからだろう。どう考えてもそれまで持ち堪えられん」


 しかも援軍は大きい街まで行かないと呼べない。それまで持ち堪えるなど不可能だ。

 

「撤退しかないのではないでしょうか」

 

「ならん!我らが逃げればこの魔物たちは近隣の村々を襲う。そうさせぬために我らがいるのだ!」

 

「しかし我らとてこのままでは死ぬだけです!」

 

「援軍を要請する。援軍が来るまで持ち堪えられればそれで良い。持ち堪えられずとも近隣の住民の被害は格段に減らせよう」

 

「こんな……こんなことって」


 逃げ出せば少数の兵士達は生き残れるかもしれない。しかし近隣の村々は全滅まであり得る。

 

 この砦にいる兵達は閑職に回された者達だ。

 出世の見込めない低予算な職場。皆一様にやるせない想いを抱えていた。

 

 しかし、民を守るという彼らの矜持が敵前逃亡を許さなかった。

 例え全滅して魔物に食われるのだとしても。

 

 しかし

 

「あの……陛下の緊急時用物資を使いませんか?」

 

「陛下の物資だと?そんなものは……あったな。濃い紫のポーションだったか」

 

「緊急時のみ、砦周辺に撒く事を許すと言われたものですが、まさしく今が買い時かと」

 

「スッキリバイオレットとか言うやつか。確か魔避けの効果だったな。眉唾物のように感じて頭から抜けていた。よし、何だかわからないが撒くだけだ。やるだけやってみろ」

 

「承知致しました」


 陛下はスッキリバイオレットを安全な場所にいる地位のある者達より、魔物の脅威がある者達へ優先的に回していた。それがここでも功を奏す。

 

「魔物が苦しみ出したぞ!毒なのか!?」

 

「いや、あれは苦しむと言うよりとんでもなく臭いものや苦いものを食った時のような反応だろう」

 

「めっちゃ顰めっ面」

 

「ジャイアントバットが逃げ帰って行くぞ!」

 

「何と言う効き目……これは重要軍事物質と言っていい代物だ」

 

「このような重要物資をいただけるなんて思わなかった」

 

「陛下は我らのような閑職の者達にまで気を配っておられるのか。陛下、感謝いたします」


 

 ⭐︎王都の商会員


 ここは王都にある老舗《アルマンド商会》。

 食料や日用品を広く扱う王家御用達の商会であると同時に、庶民に愛されるお店である。


 受付に立つのは従業員の若い女性2人。お客様がいない時は雑談に花を咲かせることもある。

 

「ねぇ、《モニカ》はスッキリバイオレットって知ってる?」


「そりゃ知ってるよ。うちで新しく取り扱うようになった。ライフシード領で作られた魔避け効果があるっていうポーションでしょ?」

 

「そうそう。あれって配られてからもうすでに大活躍で各地から購入依頼が殺到してるらしいよ」

 

「あ、それ聞いた。村や砦や貴族の御令嬢を救った話もあるみたいだし、眉唾物だって言われて不審がられてたけど本物だったみたいだね」


 陛下から直接のご依頼でアルマンド商会で取り扱うことになった魔避けポーション《スッキリバイオレット》。

 

 最近下がり気味だった陛下の威光を強め、ゆくゆくは近隣諸国との交易に使われるのではないかと目されるまでになっている。


 アルマンド商会で取り扱うことになったことで商会の上層部は忙しさで目がまわるような状態だった。

 

「でもどうしてスッキリバイオレットなんてちょっとふざけた名前なんだろ?」

 

「ブランド化戦略って言うらしいよ。いつか誰かに似たような品を作られたとしてもスッキリバイオレットが元祖ってなるでしょ。品質と信頼を担保できるのよ」


 このブランド化戦略も陛下のアイデアではないらしい。ライフシード領には色々と頭の回る人が来たのかもしれない。

 

「なるほどよく考えられてるわ。でもすっごい詳しいじゃん。モニカはライフシード領出身として、頑張ってフォローしてたもんね。一時期は大変だったみたいだけどこれでV字復活かも。良かったね」


 《フォニア商会》のエルナさん。この人がずっとライフシード領に行商できたのは格安で信頼できる傭兵が雇えたからなのだが、この傭兵を斡旋したのがモニカだ。

 

 自身のコネをフルに使い、根気よく説得して格安でエルナさんを護衛してくれるよう頼み込んだ。

 

 エルナ本人にも便宜を図り、安く仕入れができるよう根回しをしたのもモニカである。

 

「本当に嬉しい。父――じゃなくてシド男爵も帰ってきたし、私の心配もだいぶなくなったよ」

「よかったねモニカ!」


 

 こうして魔避けポーション《スッキリバイオレット》はアルマ王国内で広く使われるようになり、魔物被害から民を守ることで陛下の名声を高めることに一役買っていた。

お読みいただきありがとうございます。

毎朝6時更新頑張ります。


モニカ: ライフシード領はもう大丈夫なのね。…本当に良かった。


またお越しいただけたら幸いです。

よろしくお願いします。

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