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23話 人生における6つ目の奇跡の出会い

 謁見が終わった後、魔避けポーションの詳しい話をするために別室へ移動した。近衛のクランツは一緒に来ているがその以外は解散となっている。

 

「よく戻ったなシドこの野郎!」 ゲシッ

「ピンピンしてんじゃねーかよ!心配したんだぞもっと早く帰ってこい!」 バシッ

「痛い!悪かったわよ!でももっと優しくして!」


 部屋に入るなり陛下とクランツにゲシバシと蹴られる。もちろん本気じゃないので痛いとは言ったがそんなに痛くはない。

 

 この2人とは幼い頃からの腐れ縁だ。2人ともあたしより遥かに身分が高いのに公の場でなければ若い頃のような距離感で接して来る。


「それで、半年もどこにいたんだよ。戻って来るなり魔避けポーション持ってきました、なんて言われてめっちゃ面白……じゃなくて面白おかしいことになってて興奮するだろうが」

 

「今の言い直す必要あるかしら」

 

「いいからシド、素直に話せ!さぁ吐け!吐けば楽になるぞ?」

 

「陛下……威厳が木っ端微塵になってますよ?」

 

 半年経っても相変わらず悪ガキのような2人。これだから《悪ガキ王》なんて呼ばれるのよ。でも……変わってない2人にどこか安心したのも事実ね。


「よく聞いてね。実はね、あたし……神の園に行ってたのぉ!」

 

「「嘘つけぇ!!」」

 

「そこで魔避けポーションを作れる青年と出会ったのよぉ!」

 

「「嘘つけぇ!!!」」

 

「そしてその青年の大活躍とアドバイスでライフシード領も復興の目処が立ったのよぉ!」

 

「「嘘つけぇ!!!!」」


 全く信じてくれないわね……。仕方ないことだけど。それにしても見事なハモリだわ。


「じゃあ逆に聞くけど、魔避けポーションよ?とんでもない代物持ってきたのよ?その辺にあるようなものじゃないでしょ。でも神の園にありましたって言われたらどう?神の園ならすごいアイテムあってもおかしくないって思わない?」


 聞き返してやると2人とも黙って腕を組み考え始めた。嘘つけとは言わなくなったわね。

 

「嘘……じゃないのか?いやまぁ確かに魔避けポーションなんてとんでもアイテムだけど神の園にならありそうって思う」

 

「え?それマジ話なの?ハンパなくね?」


 どうやら信じてくれたようね。


「ついでに言うとあたしを襲ったのは賊じゃなくて暗殺者集団で黒幕はあたし達と敵対してる貴族よ」

 

「ああ、それはそうだろうな。こっちでも調べたけど黒幕も実行犯も分からなかったが」

 

「何にしろシドを害せるほどの手だれなら盗賊なんてやらないわな。それにしてもお前は嫌われすぎ」


 ここアルマ王国は残念ながら一枚岩ではない。

 

 陛下を筆頭とする《王国派》とラーゾン公爵を筆頭とする《貴族派》、どちらにも属さない《中立派》の3つに分かれている。


 中立派はどっちにも属してないってだけだから特に言うことはないけど、王国派と貴族派は主張が対立している。


 お互いの主張の争点になるのは<人間の価値は何で測るのか>だ。


 貴族派は<マナと魔法の才能こそが人間の価値>とでも言わんばかりだ。

 対する王国派は<人間の価値は魔法だけでは測れない>と主張する。


 お互いの主張は国益と国防を考えた末のもの。国家のことを考えているのは同じなのに全く相容れない。

 

 あたしは当然王国派だ。魔法の才能で評価される世の中なんて差別が蔓延る世界よ。断固として認められないわ。


「暗殺者集団はあたしにとどめを刺す前に口を滑らせたわ。やつらの目的はあたしの娘、ミラちゃんよ」

 

「やはりか。シドの長女は《ブレス》持ちだからな」


「最終目的はミラちゃんとの婚姻だったんじゃないかと思ってるわ」


 ブレス持ちのミラちゃんと婚姻関係になるということは貴族としての立場が揺るぎないものになると言うことだ。

 

 ブレス持ちがいる領地には自然と人が集まるし、国からの優遇措置もある。政治的な発言力もかなり強くなるのだからミラを欲しがるのは理解できるわ。

 

「領地運営が立ちいかなくなったところで支援する代わりに婚姻を求める。多分これでしょう」


 つまりこういうこと。

 

 1-あたしを暗殺。

 2-領地が過疎化して立ち行かなくなる。

 3-娘2人はまだ学生。領地経営など出来ない。

 4-優しく手を差し伸べて救済。

 5-ミラちゃんはそいつに頭が上がらなくなる。

 6-求婚。

 7-ミラちゃんは断れない。


 まぁこれでしょうね。


「恩で縛ると言うやり口だな。盛大なマッチポンプ。反吐が出るやり口だ」


「首謀者は貴族派の可能性が高いと思ってしまうな。王国派がミラ嬢という力を持つことを嫌ったと思うのが自然か」

 

「でもこの手は通じなくなった。娘2人はギリギリのところで持ち堪えてくれた。そしてあたしが帰ってきたんだもの」

 

「まぁ何にせよ貴族を襲うってのは国に喧嘩を売ってるのと同じだ。しかもシドに……俺の友に手を出したんだ。絶対見つけるし、見つけたら情報共有するからシドが討て。それで汚名が少しは消えるだろうよ」

 

「感謝します陛下。…………今回のこと、大いに反省しているわ。そして死ぬほど悔しい、自分に腹が立つわ」


 最近は領地のことで本当に忙しかったし、考えないようにしていたけどあたしの中にある黒い感情は今でも衰えることはない。


 殺された仲間、拐われた領民、荒れた領地。思い出すだけで闇堕ちしそうになる。

 

 今回のことに関わっているやつは絶対に、絶対にぶっ潰してやるわ。


「でもね、たった一つだけいいことがあった。本当に大切な出会いがあったのよ」

 

「出会い?」

 

「ええ、それはあたしの人生における6つ目の奇跡の出会い。ディアス陛下、クランツ、妻、娘2人、そして……イアック」


 陛下とクランツと出会ったからあたしは強くなれた。妻と娘2人に幸せをもらった。そしてイアックには希望をもらった。それは今この瞬間もずっと続いているわ。


「例の魔除けポーションの青年だな?シドにとってそのイアックが我らや妻子と同列になる程の存在なのだな」

 

「あたしはあの子に救われた。あの子がいたから戻ってこれた、あの子がいなかったら自分自身のあまりに大きな怒りに飲まれていたでしょう。間違いなく人の心を失っていた。本当に……本当に感謝しかないわ」


 そしてイアックはあたし達やライフシード領に希望を与えるだけでは終わらない。

 いずれもっと大きなことを成し遂げる。そう確信している。

 

「陛下、進言致します。あの子……イアックは陛下の治世において最重要となる人物です。すぐに頭角を表し、知らぬものがいない程の実績を出すでしょう」

 

「それほどか。魔避けポーションだけでも既に巨大な功績と言える。この後も何かできると言うなら楽しみにしていよう」


「陛下、そこでお願いなのですが、魔避けポーションの販売権を買い取ってもらえませんか?」


 これが出発前にイアックから頼まれたこと。魔除けポーションを陛下に売ってくる交渉役の仕事。

 

「……なぜそう言う話になる?まさか行方不明だったことの詫びとか言うんじゃないだろうな?」

 

「俺と陛下とお前の仲なんだ。詫びとかいらんぞ。それより自分で売り捌いた方がライフシード領のためになるだろう。優先して陛下に売ることにすれば陛下なら喜んで買ってくれるだろうに」


 陛下とクランツはライフシード領の立て直しのためにも資金源としてあたしが販売権を持っていた方がいいと言ってくれる。


 しかし、あたしはイアックに言われた通り陛下へ販売権を譲渡する方向で話を進める。

 

「お詫びではないわ。それはこれからの働きで返すことよ。それ以外に大きな目的と、そしてお願いがある」


 続けてあたし達の考えを説明する。

 

 今のライフシード領はとても危険な状況。

 蓄えもほぼ吐き出し、暗殺者集団の黒幕だってはっきりしない。おそらくまた何らかの手を打ってくるでしょう。

 

 領地の防諜システムだって無いようなもの。今はまだ大丈夫でもすぐに魔避けポーションの製法をめぐる諜報争いが起こると予想される。

 

「だからあたしは今すぐ陛下の……強い権力の庇護下に入りたい。悔しいけど今のライフシード領に他貴族の干渉から自分たちを守れるだけの力なんてないから」

 

 自分で魔避けポーションを捌けば利益も大きいだろうが、しかし今は即金が必要だ。

 領民の生活を安定させる必要がある。

 販売権を買い取ってもらうお金があれば今の窮地を脱せる。


 それにライフシード領は生産を請け負う形にしても十分収入が見込める。

 販売を陛下、生産をライフシード領、こうして役割を分けることで長期継続の安定収入として期待が持てることも説明した。

 

「なるほどな。俺は魔避けポーションの販売をもって王家の威光を示し、シドは俺が生産を委託すれば大っぴらには誰も手出しはできない。それをすれば王家に反旗を翻すのと同じだからな」


「お前は販売権を売って即金を手に入れた上で更に継続的な収入を得られる……か。よく考えたもんだ。お前の考えじゃないな?それもそのイアックが言い出したのか?」


「ええ、今は無理して危ない大金を得ようとするより安定した立ち位置をとるべきだって言ってたわ」


 本当にイアックはよく色々思い付くわ。育ての親たちの教育によるものって言ってたけど、あの子自体相当頭がキレるのよね。

 

「ふふふふ……ははははは!面白い。実に面白い。俄然イアックとやらに興味が出てきたぞ!実に聡明ではないか!」


 陛下は喜色満面で声を出して笑い始めた。


 陛下の中でイアックへの興味が膨らんでいっているのがわかる。元は平民のあたしを重用する方だものね。


 昔から面白い人材に目がなかったし、そういうところは今も変わらないようだ。

 

「いいだろう!その申し出を受けることにしよう。そもそも俺にとってはメリットしかない。全ての民に王の威光を示し、多額の利益も出るだろう。他国との交渉にも使えるな。販売権は帰還祝いも兼ねて色をつけて買い取ってやろう。更に魔避けポーションに関わる人員は王家の名の下に庇護することも約束する」

 

「ありがとうございます。陛下」


 これでイアックからの仕事は終了ね。スムーズに進められてよかったわ。

 

「シド!今は無理だが近々ライフシード領を視察に行くぞ。その時イアックを紹介してもらおうか」

 

「その時は俺も行く。そのイアック君に会うのを俺も楽しみにしてるからな」


 こうしてらあたし達3人の久々の会合は三者笑顔で終わった。

お読みいただきありがとうございます。

毎朝6時更新頑張ります。


陛下: よし!シド!酒飲むぞ!

クランツ: ツマミも用意したぞ!

シド: 2人ともまだ昼なんだけど!?公務があるでしょ!

陛下&クランツ: ほら、俺たち風邪引いてるからさ

シド: あんた達のバレバレすぎる仮病なんてだれも信じないわよ!


かなり仲が良いです。いろいろ昔のエピソードがあるん感じです。


またお越しいただけたら幸いです。

よろしくお願いします。


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