22話 シドの謁見
時間は少し戻る。
イアックが領地でリナの暴走にヤキモキしてる時、シドは王都で国王に謁見していた。
⭐︎シド視点
「《ディアス・フォン・アルマ》国王陛下、シド・ライフシード、ただいま戻りました」
あたしは謁見の間で陛下を前に跪いている。
正面の玉座には陛下が座り、その左右に宰相である《ラーゾン》公爵、近衛騎士長の《クランツ》が控える。
他にも20人程度の貴族が控えており、跪くあたしを左右から観察していた。
「おお、シドよ。心配したぞ。今までどこに行っていたのだ?元気そうではないか」
「ご心配をおかけしたこと、誠に申し訳ありません」
「こうして無事な姿を見せてくれたのだ、些細な事はどうでも良い。よく無事に戻ってきてくれた」
陛下はあたしの身を案じてくれたようだ。陛下とは長い付き合いで、10年前の隣国との戦争《アルマウェルズ大戦》では陛下を守って共に戦った仲だ。
互いの命を預け合ってあの地獄を生き延びたことは陛下の中にも特別なものとして残っているのだろう。もちろんあたしもあの頃を忘れることなどない。
しかし、陛下はあたしの帰還を喜んでくれるが、そうではないもの達も大勢いる。
「シド殿、まずは無事の帰還を祝福しよう。しかし武名で鳴らした貴殿が盗賊如きに遅れをとったというのは真か。陛下より賜りし彼の地の守護を任される者としてこの不始末をどう言い訳するつもりか」
ラーゾン公爵……ネチネチと毎回絡んで来る陰険野郎だ。
あたしが成り上がりなことが気に食わないのか、会うたびに突っかかってくる。
でも今回はあちらが正論。何も言えることはないわ。
領主として、遅れをとったと言うのはどんな理由があろうとも恥ずべきこと。
何者かの陰謀だと思うし、盗賊なんてチャチなものじゃなくてプロの暗殺者集団が相手だったけど、それでも結果を出さなければいけないのが貴族位を頂いた者の責務だもの。
「言い訳はありません。自分の至らなさを恥じるばかりです」
周りを囲む貴族達からも侮蔑や敵意の視線を向けられているのがわかる。
あたしは平民からの成り上がりだからか、妬みで他の貴族共に嫌われている。
今日はあたしを追い落とすに絶好の機会と見ているだろう。
「それではわからないではないか!」
「貴族として責任の取り方と言うものがあるのではないかね?」
「潔いだけでは貴族の責任を果たす気がないと言っているのと同じだぞ」
潔く非を認めたあたしに対し、責任追及の声が上がる。
そもそもこの謁見に参加してきた貴族はあたしの話を聞きにきたわけでも、ましてや身を案じて集まってくれたのではない。あたしの失態を追求しにきたのだ。
「皆様お静かに!陛下の御前であることをお忘れなきよう!」
騒ぎ立てる貴族達をクランツが静止する。陛下の前で騒いで糾弾など貴族としてあまり褒められた行動ではないし、当然のことね。
「陛下、シド殿もこうして非を認めております。既に沙汰は下っておりますが、改めてシド殿に此度の失態の罰をお与えください」
恐らくこれがラーゾン公爵の狙いだ。
陛下と仲がいいあたしを他の貴族連中の前で陛下自ら裁かせること。あたしを失墜させて更に陛下との仲も引き裂くつもり。
陛下は迷っているようだ。あたしに罰を与えることに抵抗があるのかもしれない。しかし信賞必罰は世の常だ。やらなければならない。
「シドよ。戻ってきたばかりでこのような沙汰は酷ではあるが、此度は其方の失態と言わざるを得ない。もう聞いているかもしれぬが改めて言い渡す。其方の子爵への陞爵は当分の間見送りとする」
実はあたしはアルマ王国に神に祝福されしものをもたらした功績、つまりミラちゃんの親だからと言う理由で子爵位へ陞爵予定だった。
此度の失態でそれが帳消しになったようだ。
毅然として振る舞う陛下の横でラーゾン公爵がニヤリとした気がした。
でもあたし、ぶっちゃけその理由での陞爵はすっごく微妙と思ってたからむしろスッキリしたわ。
「は!この度の失態は今後の働きによって必ず挽回して見せます!」
また一から功績を積み立てればいい。
そもそもあたしは武官貴族。この戦力こそあたしの自慢。罠に嵌められて暗殺者に遅れは取ったけど、あたしの筋肉は未だ健在なのよ。ここからよ!ここから挽回よ!
「領地も荒れていると聞く、大言を吐く前にまずは領地を安定させたまえ、陛下より下賜された地、重要な彼の地を荒れさせておくなど許されんぞ」
ラーゾン公爵……マジでイケ好かねぇ……。それがどれだけ難しいか分かってて言ってやがるな。
「精々頑張ることだな。貴殿のような武に傾倒していたものが盗賊に不覚を取ったのだ、これからの領地運営も今までのようにはいかぬだろう。何かあれば私を頼るがいい。公爵として力を貸すこともやぶさかではないぞ」
何を白々しい。慈悲深さのアピールのつもりか。今まで散々こき下ろしてきたくせに。
「それには及びません。必ずや荒れた地を復興して見せましょう」
「口だけで終わらぬよう気をつけることだな」
ニヤニヤしやがってこの野郎。
嫌味ったらしい。この場で何を言おうと言い訳にしか聞こえないってわかってて言ってやがるわね。そう言うのを死体蹴りっていうのよ。
やっぱりコイツとは相容れないわね。落ち目のやつになら何を言ってもいいし何をやってもいい。そんな考えが透けて見えるわ。
「ラーゾン、その辺りで良いのではないか。話が進まぬぞ。 そろそろシドの話を聞こうではないか」
ラーゾン公爵の止まらぬ嫌味を見かねて陛下がストップをかける。
ラーゾンのやつ、何を勝ち誇ったような顔をしているのかしら?
言いたいことがそれで終わりなら、そろそろあたしの……いえ、あたし達ライフシード領のターンを開始するわよ。
「シドよ。話がだいぶ脱線してしまったが、改めて帰還報告をしてくれるか?」
本来この場では帰還報告がメインだったのよ。ここからがあたしの本番。あたしが王都でやるべきことよ。
陛下に促され、改めて今回の経緯を説明する。
賊に襲われ海に落ちた、その後神の園に漂着――なんて言ったらまたややこしくなりそうだから未探索地帯と言い換えて話をする。そこから何とか帰還し、今に至ると説明した。
「それは真か!よくぞ無事戻ってこられたものだ」
「シド男爵、嘘はいかんぞ。盗賊に遅れをとった時、怪我をしたと言っていたではないか。そんな体で未探索地帯から戻るなどいくら何でも無理があるぞ?」
その質問を待っていたわ。
「ラーゾン公爵殿のおっしゃることももっともです。しかし、戻ってこられた理由があるのです。陛下、こちらを献上したく持参しました」
持参した魔避けポーションを陛下に献上する。
「それはポーションか?見たことのない色合いをしているがこれが何だというのだ?」
「それは魔避けポーションといいます。名前の通り魔物避けの効果があるポーションなのです」
「な、なんだと!?」
「そんなものが存在するのか!?」
一気に謁見の間が騒がしくなる。それもそうよね。前代未聞の代物だもの。
「はい、それこそが私が戻ってこられた理由。私は魔物とほぼ戦うことなく、それ故に傷を負っていても戻ってこられたのです」
これはイアックと一緒に考えた筋書き。
神の園に行っていたというのが真実なわけだが、そのまま説明しても絶対信じてもらえない。
それどころか非難轟々になって立場が悪くなることまで想定されるから。
本当のことは後で改めて陛下には伝えることにしましょう。
あたしが説明を終えると一瞬その場にいる全員が沈黙した。その後堰を切ったように騒がしくなる。
「そんなもの出鱈目だ!」
「陛下の前で堂々と虚言を吐くとは何事か!」
「そのような嘘で此度の失態は誤魔化されんぞ!」
誰も信じてくれないか。まぁ実際使ったところを見てみないとそうよね。でもあなた達が何と言おうと関係ないわ。あたしは陛下に献上するのよ。真偽は陛下が確かめればいいこと。
「…………ふふふはは。はーっはっはっは!なるほど!其方が戻ってこられた理由は理解した!そのポーションが本物ならば其方の大きな手柄となろう」
一転して上機嫌に笑い出した陛下。あたしがラーゾン公爵に嫌味を言われるのを見ていい気分ではなかったでしょうから。
「陛下!得体が知れません。ここはこのラーゾンが責任を持って検証いたしましょう」
いや、何でよ。検証を誰かに任せるにしてもあんたは関係ないでしょう。
「ラーゾン。これはシドが私へと献上したものだ。私が真偽の検証を行う。良いな?失態はあったがそれでも大手柄を持ち帰ったシドを其方も祝福してやるべきだと思うが?」
「しかし!…………いえ、承知いたしました」
それ以上食い下がれないわよね。陛下への献上品を自分で持ち帰るなんてスジ違いだもの。
「うむ、シドよ、生きて戻ってくれたこと嬉しく思うぞ。先の言葉の通り、領地の復興を見事実現して見せよ」
「は!」
「これにて謁見を終了とする!」
取り敢えず謁見は終了した。
「イアック。あんたの魔除けポーションのおかげでラーゾンのやつを黙らせることができたし、陛下も上機嫌にすることができた。感謝するわ」
ここにはいないイアックに感謝する。おかげさまで本当は立場を悪くして酷いことになるはずだった謁見で、最後に1発かましてやれたわ。
「さて、ここからもう一仕事しないとね」
次はイアックから頼まれた仕事をしなければね。あたしは気合いを入れ直した。
お読みいただきありがとうございます。
毎朝6時更新頑張ります。
ラーゾン公爵: 魔除けポーションだと…それが本物なら…せっかく立場を悪くしてやったのに一気に挽回されてしまうぞ…
シドが嫌いな貴族共: あの成り上がり者の悲惨な姿が見られると思っていたのに!
シドに好意的な貴族: 本物なのか?もしそうなら融通してもらえるように交渉しなくては!
どちらでもない貴族: しっかりと情報収集をするべきだ。もうシド男爵を下に見ない方がいいだろう。
たった一手で貴族連中は内心で大慌てです。
またお越しいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。




