18話 夜の森で
屋敷に戻って身を清めた後、リナ様にすぐに寝るようにお願いした。
昼間の疲れもあるし、明日は朝からライフアーツの鍛錬がある。
とにかく早く休息を取った方がいい。
「リナ様、おやすみなさい」
「今日もありがとうイアック。おやすみなさい」
リナ様に就寝前の挨拶をして俺も部屋に戻る。そして寝巻きに――着替えずに身支度を整える。
「さて、じゃあ今日も行きますか」
シドが旅立つ前に俺に言ったことは『リナちゃんと領民のこと頼んだわよ』だった。
「今日も夜のパトロールだ。夜に魔物が来るかもしれないし、領民みんなの安全のためにも見て回らなきゃ」
頼まれたからにはちゃんとやろうと思う。
罠を張ったし、柵の周りに魔除けポーションも撒いてあるし、そもそもみんな出歩いてないと思うけど、念のための見回りだ。
そこまでやれとは言われてないけど、仕事は言われたことだけやればいいってもんじゃないって父さんが言ってたしね。
「……今日はマナ不全者のみんながいる辺りを重点的に回ってみるか」
あくまで念の為に。お金を預けた後だし……ね。
◇
「あれ……?あれは昼間に俺たちを信用できないとか言ってたヤムさんじゃん。こんな時間に森の方へ向かってくぞ。いや、危ないでしょ」
マナ不全者のみんながいる場所を回っていると夜に出かける人影を発見。よくみるとヤムさんであることがわかった。
こんな夜に外出なんて何かあったのかな。でも魔物が生息している森に近寄るのはすごく危険だ。声をかけてみるべきか。
…………いや、待てよ。そもそも何しにいくんだよ。
魔物が潜む森に夜になってから1人で向かう理由ってなんだ?行動が意味不明だ。これは何かある……かも?
あまりに不自然な行動をとるヤムさんに疑念を抱く。俺の中で何故?が消えない。
「よし、気配を消して尾行してみるか」
俺はヤムさんに見つからないように跡をつけてみることにした。
「来たか。それでは報告を聞かせろ。嘘はつくなよ」
「は、はい!」
ヤムさんの尾行を始めてすぐ、全身黒ずくめの怪しい男と合流しているのを確認できた。
「ライフ術に魔避けポーションか。まだまだ詳細はわからないが、なるほど確かに領地再興に向けて動き出しているというわけだ」
隠密技能を駆使して気づかれずに話を盗み聞きする。
ヤムさんは謎の男にライフシード領の情報を横流ししていたようだ。
「は、はい。ですが……これをお納めください」
「なんだこの金は。端金だがお前からすれば大金なのではないか?」
「これはライフシード領主の娘リナが私たちに給金の前払いとして渡したものです。なんでも俺たちにライフ術を覚えさせて自警団を作るとか、昼間にリナの演説を聞いて皆がやる気になっていましたが、この金が無くなれば……」
(おいおいマジか〜。いやマジか〜。ヤムさんマジか〜。あんた悪いやっちゃなぁ)
まさかの事態である。
もうヤムさんが裏切ったのは明白。真っ黒くろすけであります。
「一気に士気が下がるかもしれんな。……ブハッ!なんだそのリナとやらはバカなのか。いやバカだな。金を預ける?平民の無能どもに?持ち逃げしろと言っているようなものではないか。そんなこともわからんのか」
(ああ、うん、はい。俺もちょっとやり過ぎじゃないかなと思ってました。でもほら、信じてもらうためには先に信じなきゃみたいなのあるじゃん?だから先に信じてみたんだけど……)
「そ、そうですね。ほんとにバカで」
言いたい放題だな……。
(今回はリナ様がバカってよりはヤムさんがクズってだけだと思うけどなぁ。昼間のあの状態から即裏切りってあんたそりゃないでしょうよ)
あんたも肉食いながら「頑張ります」って言ってたじゃんかよ。
「それで私は貴方様方がライフシード領を統治なさった後も奴隷落ちさせないでいただけるのでしょうか」
(『統治なさった後』ね。その言葉だけで正体が透けてくるな)
ライフシード家が取り潰しになった後に統治する予定の奴らの手先ってことがほぼ確定。
ってことはライフシード家が取り潰しにあった際の動向まで根回し済みの奴らがいるってこともほぼ確定。
この黒ずくめ男はその手先ってことね。
「ああ、いいだろう。お前は卑しいマナ不全者だが平民の最下層に留めておくくらいはしてやる。その代わり今後も情報を寄越せ」
「は、ははぁ!ありがとうございます!今、私の気持ちは決して揺るがないものとなりました!絶対にやり遂げて見せます!」
(ええぇ……。いやいやいやヤムさんこそバカだろ、絶対嘘だぞ。めちゃくちゃ簡単に反故にできる約束じゃんそれ)
そいつら口約束なんて守るのか?守らないんじゃないの?
浮気したやつはまた浮気する。これと同じで裏切り者はまた裏切るって思うに決まってる。
それ考えたらヤムさんを自陣営に抱えるなんてメリット無しのただのリスクだぞ。切り捨てるんじゃないの?
「働き次第では奴隷落ちとなったマナ不全者共の長にしてやってもいいぞ。後で良い思いできると分かってればやる気も出るだろう」
「あいつら全員を好きに……げへへへ……ああ、今から楽しみです」
(ゲスい!考えがゲッスぃ!それにゲス顔キモい!完全に英雄譚に出てくるやられ役のクズゲス三下野郎のそれじゃん)
「しかし魔避けポーションか。それが本物なら世界が激震するような代物だ。シドが王都に向かったからには間違いなく陛下に献上しているだろう。ならば王家の介入が入るのは必至。こちらも早急に詳細な情報を得なければ」
(シドが不在なこともそりゃ知ってるか)
「…………拐うか。情報を握るのがジジババなのは好都合だ。誘拐して拷問でもすればすぐ詳細を吐くだろうよ」
(…………そう来るのね。そんな強引な手段に訴える気なのか)
ライフシード領はまだ自警団すらない。隙を見て無抵抗な人間を誘拐くらいできるだろうさ。
「ライフ術の方はアンってガキが詳しいです。私にも懐いてるんで簡単に騙して連れて来れますよ」
(……ヤムさん。……あんたマジかよ。なんて事言い出すんだよあんた)
アンちゃんを騙して連れてくる?…………まだ幼い女の子だぞ。それに仲間じゃないのかよ。辛い思いしながらそれでも一緒にやってきた仲間なんじゃないのかよ。
(どこまで堕ちれば気が済むんだあんたは)
「なるほど、お前思ったより使えるではないか。そちらは任せる。明日には動くほうがいいか。お前は万が一にも俺たちとの繋がりが露見しないようにしろ。しくじったり裏切ったりすれば……」
「は、はい!絶対に貴方様方を裏切りません!」
(残念もう手遅れだよ。全部俺が聞いたからね)
夜の密会もそろそろ解散のようだ。
どうしようかな。今俺が得た情報を持って俺も帰るべきか、でもここでコイツら逃したら後手に回る。誰かしらに被害が出るかもしれない。
(ここで捕縛しかないか。ダメそうなら森に逃げる手はあるし、暗い森の追いかけっこなら自信あるしな)
よし、行くか。
俺は覚悟を決めて奇襲を仕掛けるべく闇に紛れた。
お読みいただきありがとうございます。
毎朝6時更新頑張ります。
イアック: マナ不全者を好きに出来るっていっても若い女性なんてあんまりいないよな?ジーナさん狙いか?
…まさか小さい子狙いか?本当に…ゲスいなぁ。
またお越しいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。




