17話 リナの想いを届けたい
みんなパニックになっていて頭が働いてないだろう。
それならばリナ様の思いをちゃんと言葉にして伝えよう。それが今俺がやるべきことだ。
「皆さん、そのままでいいので聞いてください。あの魔物は《アーマーボア》といいます。外皮が硬く、ちょっと殴ったくらいじゃ倒せません。今のリナ様では勝つ方法がありません。だからリナ様は」
――もうすぐ死にます
死を強調して伝える。
本音を言えばなかなか死なないと思う。倒せないだけで避けたり受けたりできないわけでは無いからね。すっごく痛いだろうけど。
「死!?アーマーボアだって!?そりゃ騎士が数人で相手するやつじゃないか」
おお、知ってる人もいるのか。
当のリナ様はアーマーボアのことなんて知らずに向かっていった気がするけど。
ドガッ!
「はぎゃん!」
あ、突進を受けてリナ様吹っ飛んだ。でもすぐ立ち上がってる。
リナ様はまだライフアーツレベル1まで届いてないけどそれでも体力、耐久力に効果が出てきているのだろう。思ったより頑丈だ。痛そうだけど。
「……そんな危険な魔物にリナ様が1人で立ち向かっているのは何故かわかりますか?」
「…………俺たちを守るため……か?」
そう見えるよね。それもあるだろうけどもう一つの見方もある。
「見せたいんですよ。自分が信じるに値する人物かどうかを証明したいんです」
前に出て戦う姿を、負けるとわかっていても強敵に立ち向かう姿を、そして何があってもみんなを見捨てないという証明を。
ドゴッ!
「ぶぎゃら!」
あ、また吹っ飛んだ。2回目。超痛そう。でもまだ生きてる。
あれ?なんかリナ様口パクしてるな。なになに……早く……か。わかってますよ。しっかり説得します。だからこっち見ないで魔物をよく見てください。死にますよ。
「皆さんを肉壁にしたいなら今やらなきゃ意味ないです。だってこのままじゃリナ様はここで死にますから」
「演技かもしれないだろ!」
ヤムさんか。あの人はほんと過激派だな。あんなにボコボコにされて死にかける演技があるわけないだろ。
でもそれ以外の人はパニックが治ってきたのかリナ様のことをちゃんと見てくれているようだ。
「リナ様は皆さんを使い潰す気はありません。それをするような人物なら今とっくに逃げ出しているでしょう。ましてや自分から戦ったりしません。今だって当たりどころ悪ければ死んでいておかしくないですから」
ボグ!
「どっへぇあ!」
あ、また突進を受けた。もう吹っ飛ぶの3回目だ。フラフラしてるし、そろそろ限界だろう。
そんな目で見ないでくださいリナ様。ちゃんと集中してくださいね。
あれ?口パクで何か言ってる……イアックの鬼……か。誰が鬼ですか。自分から暴走したんだからもうちょいファイトですよリナ様!
考えてみればあれっていい鍛錬になりそうだよな。命懸けだとやっぱり経験値が大きいし、実際リナ様ってばライフのコントロールが上手になってる気がするし。
「あれを見てもリナ様を信じられませんか?」
「俺たちは……」
まだ彼らの心に届かないのか。命をかけているのにリナ様のあの姿だけじゃ足りないのか。
それならもう一つ別の考え方をアピールしてみるか。
「……ちょっと考え方を変えてみてください。最悪もう騙されてもいいんじゃないでしょうか」
「え……?」
これは俺流の考え方だ。
全てを疑ってみても、真偽を見抜けるかはまた別の話だ。だったら逆に騙されても後悔しない選択を探すのも一つの手という考え方。
「もし、騙されるとしてもです。皆さんのために体を張るどころか命まで張るリナ様に騙されたのなら、いくらかマシだと思いませんか?」
少なくとも俺はシドやリナ様に騙されていたとしても、笑ってチックショー!って言えると思う。
「皆さんは今まで出会った誰よりもリナ様に優しくしてもらったのではないですか?」
1人でもいい。誰かの心にに届いてくれないだろうか。リナ様の優しさが、レーヴ君の訴えが、アンちゃんの願いが。
「……リナ様を助けて下さい」
「俺がこの場を離れたら皆さんを守る人がいなくなりますよ」
「それでも……リナ様を死なせるのは嫌です」
「俺たちは本当に情けない。ここまでやってもらって、本当は信じるも何も無いんだ。行き場をなくした俺たちを受け入れてくれた。ただそれだけでこの領地のために尽くす理由としては十分だったはずなのに」
こう言ってくれたのはマナ不全者の子供達の面倒をみてくれてる《ジーナ》さん、マナ不全者のまとめ役をやってくれてる《カシム》さんだ。
少なくともこの2人にはリナ様の思いが届いたのかな。
「わかりました」
すぐに俺は全速力で走り出す。
「師匠!お願いします!」
「イー兄!早く早くーーー!」
「俺、頑張るからリナ様を助けてくれーー!!」
「イアックさん、あんたの言う通りだ。もし、騙されるとしても、相手がリナ様なら許せるよ!」
「リナ様逃げてーー!死なないでーー!」
「俺たちが情けなかったです!今度こそ頑張るから、俺たちにチャンスをください!」
今まで見ていただけの人からも声があがる。
さっきのカシムさんとジーナさんの発言から流れが変わった気がするな。
一度は逃げてしまった人達も戻ってきてくれたようだし、みんなが必死に戦うリナ様を見てくれている。
(リナ様のお気持ち、ようやくみんなに届いたみたいですよ)
「リナ様!」と俺が大声で名前を呼ぶとリナ様はそれだけで察してこちらへ逃げてきてくれる。だがアーマーボアも突進の体制に入っている。
リナ様はボロボロだ。リナ様の背中に突進が当たってしまうか、俺が間に合うか間に合わないかのギリギリだ。
息を切らして倒れそうになるリナ様。
(これはヤバいか)
何かもう一押しリナ様の背中を押してあげる方法はないかを考える。
「リナ様!これからですよ!ライフシード領が生まれ変わるのは!リナ様の努力が報われるのは!」
だから辛くても走れと願いを込めて声をかける。するとリナ様の目に少しだが力が戻った気がした。
そして……間に合った!
「ブモォオオオウ!」
雄叫びを上げながら迫ってくるアーマーボア。
俺はリナ様の手を引っ張って場所を入れ替わり、アーマーボアを蹴り飛ばした。
追撃に外皮の上からライフを込めた掌底を加えて気絶させた。
遠くから「走るの速すぎ!?」とか「あの巨体を一撃!?強すぎ!?」とか聞こえてくるけど今は無視だ。
「リナ様、お疲れ様です。遅くなってすいませんでした」
「ううう……痛いい。ぐすっ……無茶しすぎたぁ。考えなしすぎたよぉ。イアックもっと早く来てよぉ」
痛い思いと怖い思いをしすぎてちょっと幼児退行してる?
ううむ……やっぱりリナ様の安全を第一とするべきだったか?ちょっと反省しよう……。
今回は結果オーライだったけど、やっぱりリナ様が魔物と対峙する前に俺が割り込むべきだったかもしれない。
でもリナ様、今は皆さん見てるからしゃんとしたほうがいいですよ。
「みんながリナ様の言葉を待っていますよ」
「あ……うん」
見られていることに気づいたリナ様は姿勢を正してみんなの方を向いた。
「ほらね、みんな、魔物なんて怖くないよ。私みたいな小娘にだって時間稼ぎくらいできるんだから。だからね、お願いします。私たちを信じてみんなの力を貸してほしいの!」
そう言って頭を下げるリナ様。思ったより元気そうだ。
ライフ術の鍛錬の成果がかなり出てる。これはライフアーツ レベル1になる日も近いな。
「顔をあげてくださいリナ様」
「お、俺、やります!」
「私も頑張ります!リナ様についていきます!」
リナ様の姿に心を打たれたのか、ほぼ全員が協力すると言ってくれた。
「みんなありがどおおぉ!」
感極まって泣き崩れるリナ様。これでまた一つ、ライフシード領再興へ向けて大きく前進できたようだ。
◇
あの後、急いでリナ様を治療し、アーマーボアを解体して夕食を振る舞うことになった。
昨日までとは打って変わり、明るく楽しい雰囲気で宴会のようになった。
「給金を前払いさせてもらいます。明日から鍛錬を始めますので今日はよく食べてよく寝て英気を養ってください」
給金の前払いはリナ様が言い出したことだ。
これも信用を得るためだと言ってなけなしのお金から出している。
盗賊のアジトからふんだくってきたお金の残りなんだけどね。
「リナ様!このお金は受け取れませんよ!」
「こんなものなくても私たちはリナ様を信じます!」
「いいのよ。これは私がこうしたいからするの。それにどうせ今すぐ使い道なんてないもの」
まぁ確かにエルナさんが帰ってくるまで買い物できませんよね。だから結局渡したところでみんなも使えない。
「でも……」
「貰っちゃってはどうでしょう。結局お支払いするお金ですから。それに手元にお金があるっていうのはなんだかんだ言っても安心でしょう」
シドもリナ様も手元にお金があるとそれだけでなんか安心って言ってたし。
……正直に言えば、前金まで渡すのはちょいやりすぎな気もする。でも信頼の証としてはいい……のかな?とも思ったから賛同した。
「わかりました。リナ様のご厚意、ありがたく頂戴します」
「うん!その代わり明日から頑張ってね。私も一緒に鍛錬するからね」
「はい!」
元気よく返事をしてくれるマナ不全者みんなの目には、今確かに光が宿っている。
出会った頃の光が消えた目とは対照的だ。
それを見てリナ様もレーヴ君もアンちゃんも、もちろん俺も嬉しくなった。
「それでは皆さんまた明日の朝お会いしましょう」
食事の後、全員が笑顔で別れる。
明日からみんなで頑張るんだと思っている。
心から、仲間たちとの明日を信じている。
もちろん俺もリナ様も。
信じている。
信じていたんだ。
お読みいただきありがとうございます。
毎朝6時更新頑張ります。
イアック: リナ様、体は大丈夫ですか?
リナ: 痛すぎる…もう少し早く来てくれてもよかったのよ?
イアック: だったら暴走しなければよかったのに…
リナ: だってあの時はああするのがいいかなって思ったんだもん。
イアック: リナ様もシドに似て無茶が好きですね
またお越しいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。




