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16話 マナ不全者たちとリナ様の暴走

 喧嘩の仲裁をするべくリナ様と一緒に急いで移動した。

 

 現場に到着してみれば大分ヒートアップしており、めっちゃデカい声で怒鳴り合いの喧嘩をしている。

 

「何でそんなこと言うんだよ!」

「何度だって言ってやる。貴族ってのはな、俺たちのことなんて人間だと思ってないんだよ。俺たちはもう貴族のことなんて信じられないんだ!」


 見たところ主にレーヴ君 対 《ヤム》と言う名前の男性の言い合いだな。

 他の大人たちはヤムさんの後ろで様子を見ている。

 

「そんなことない!師匠もリナ様も今まで会った奴らとは違う!俺たちのことを真剣に考えてくれる優しい人たちなんだ!」

 

「優しい貴族など存在しない!自警団だって?給料が出るだって?甘いこと言ってるけどな、それは要するに肉壁になれってことなんだよ!」

 

「違う!なんて事言うんだこの分からず屋!」

 

 ヤムさん……その会話俺たちに聞かれたら駄目なんじゃないの?完全に周りが見えなくなってるよね。

 

 普通の貴族様は「お前らなんて信用できない」みたいな言い方されたら優しく出来なくなると思うよ?でもリナ様はそんなこと言わなそうだけどさ。


「みんなやめて!私のために争わないで!」

「え!?」


 いや待ってリナ様、それはなんかニュアンス違くないですか?

 あ、でもみんなリナ様に気づいて喧嘩をやめてくれたみたいだ。


「リナ様……」

「ごめんなさい。みんなの気持ちも考えずにお願いなんかして。そこまで嫌がっているなんて思ってなかったの」


 リナ様はマナ不全者のみんなに謝罪をしている。無神経だった、勧誘するにしてもしつこかったかもしれない、等だ。

 

 リナ様はすごいな。俺ならあんな風に言われたら怒る・落ち込む・関心がなくなるのいずれかだろう。

 

 リナ様は優しいから相手の心に寄り添おうとする。そしてその優しさが相手の心に届かなくても諦めずにずっと語り掛けるのだ。

 

 それは俺がライフシード領に来る前からずっと続けられていることなんだろう。

 

 だからだろうか、リナ様に気づいた途端あれほどヒートアップしていた人たちが冷静になった。

 それどころか今はリナ様へ謝罪を返している。

 

 俺には真似できないことだよ。普通にめっちゃすごいんですけど。


 マナ不全者のみんなへの対応をリナ様に任せて俺はレーヴ君にお礼を言うことにする。


「レーヴ君ありがとう。俺たちを庇ってくれてさ。さっきの言葉全部聞いてた。嬉しかったよ」

「い、いえ、そんな師匠にお礼を言ってもらうようなことじゃないっスよ。あれは俺の本心そのまま言っただけッスから」


 それ逆に嬉しいやつ。レーヴ君めっちゃいいやつだな。よし、後でいいお肉使ってステーキでも作ってやろう。


 この場の剣呑な空気が霧散し、とりあえず一安心だと思っていた時に俺は異変に気づく。まだ距離はあるが、魔物が近づいてきていたのだ。


「リナ様、みんなを非難させてください魔物がこっち来てます」

「え!?どこ!?」

「あっちですよ。まだここからだと小さく見えるだけですが、あれ結構大きいですよ」


 まだ200mくらい離れているか。

 今は小さく見えるけど体長5から6メートルくらいありそう。

 

「大きい……わかった。イアックはどうするの?」

「え?普通に倒しますけど」

「そんな軽い感じで・・・イアックからすれば余裕なのね」


 俺は向かってくる魔物を確認する。多分ボア系だな。今夜の夕飯にしてやろうか。


「魔物だ……ついにここに魔物が来た……」

「うわぁああ!魔物だあああ!殺される!食われっちまうよぉ!」

「ちょっとみんな落ち着いて!大丈夫だからパニックにならないで!」


 魔物が近づいてくるのに気付いた人がいたようだ。その人を皮切りにみんなが魔物の姿を視認する。


 逃げなきゃ、殺される、食われると皆が口々に騒ぎ出し、パニックになっている。

 リナ様の声も耳に入っていないようだ。

 

 青い顔をしてうずくまる人、泣き出してしまう人、我先にと逃げ出してしまう人、反応は様々だ。

 

 レーヴ君とアンちゃんは冷静だが、それ以外は全員強恐状態と言えるだろう。とてもではないが、リナ様の避難指示を大人しく聞いてくれるような状態ではない。


「仕方ないですね。さっさと魔物を倒してしまいましょう。リナ様、ちょっと行ってきます」


 みんながパニックでもあいつを倒してしまえば問題ないと思い、駆け出そうとしたところで

 

「……イアック、私が戦うから手を出さないで」


 リナ様に手を掴まれた。

 

「え?……えええ!?ちょっとリナ様何言ってるんですか!?今のリナ様では勝てませんよ!?」

 

「お願いイアック。みんなに見せたいのよ。魔物なんて怖くないって。恐れる必要なんてないって伝えたい」

 

「え、あ、いや、待って待って駄目ですってば!そんな危険なことさせられないですよ!」


 手を出すなって言われても今のリナ様じゃ殺されるよ!?

 流石に見てるだけってわけにはいかないと思って慌てて説得を試みるが、リナ様は構わずマナ不全者みんなに向かって宣言してしまう。

 

「みんな見てて!私が戦うわ。魔物なんて怖く無いのよ。大丈夫!私をよく見ててね!」


 そう言ってリナ様は魔物に向かって駆け出した。


 おいおいおいおい!?リナ様それは暴走しすぎですよ!?

 こうなったら多少手荒になるけど取り押さえて止めるしかないか!?

 それにしてもなんだっていきなりこんな暴走を……。


 そう思った時思い出す。ついさっき聞いてしまった言葉。

 

『俺たちはもう貴族のことなんて信じられないんだ!』


 あんなふうに言われたからかな。気にしてないわけないよね。

 信じてもらえていなくても、リナ様に取ってはもうみんな仲間であり守るべき領民なんだから。

 

「リナ様無茶ッス!師匠に任せるべきッスよ!」

「リナお姉ちゃん待ってよ!死んじゃうよ!」

 

 レーヴ君とアンちゃんが大声でリナ様を止めようとしてる。

 周りを見れば他の大人たちはみんなリナ様の背中をただ見てるか蜘蛛の子散らしたように逃げていくだけだ。

 リナ様の声は聞こえていただろうけど、誰もが無謀だと思ったんだろうな。


 魔物が怖い……か。実際に魔物相手の肉壁にされたことがあるのかもしれないな。

 それはトラウマにもなるだろう。俺みたいな他人が何か言えたもんじゃないだろうさ。


 でも俺はマナ不全者達に対して少しモヤモヤした気持ちを持っていた。

 

『経緯はどうあれ、今はライフシード領の仲間なの。だから私はあの人たちの力になってあげたい。手を伸ばしてあげたいの』


 リナ様の言葉だ。

 あなた達を仲間と言い、必死で手を差し伸べるリナ様。それなのに信じてないとか言っていた。

 優しいリナ様を<貴族だから>と他の奴らと一括りにして拒絶して。


『みんな本当はもう一度頑張りたいと思ってるはずなんです。それは俺が1番よくわかってるんです』


 レーヴ君の言葉だ。

 レーヴ君とアンちゃんはライフ暴走で苦しんでいた。そんな2人を支えてくれて一緒にここまで連れてきてくれたのはマナ不全者の仲間たちで、本当に感謝してるんだと言っていた。


 そんなレーヴ君を怒鳴りつけていた。

 言い合いの時、他の大人たちはヤムさんの後ろに付いていた。それは暗にヤムさんのいうことを肯定しているのと同じだ。

 

 レーヴ君は根拠なく俺たちを擁護しているんじゃ無い。

 先に俺たちの話を聞き、訓練を受けて、その実体験を持って説得を頑張ってくれているのに聞く耳も持たない。


 それでいざ魔物の危機が訪れたら傍観と逃走かよ

 

 (もういいんじゃないか?)

 

 勧誘を嫌がられている。

 彼らの意思を尊重するべき。

 もう十分手を差し伸べた。


 そんな正論が頭をよぎる。

 

 実態として彼らは自分で自分の生活を支えられないからボロい家、ボロい服、食事に困って貧相な体をしている。

 

 今のままなら彼らはこの先どうなるのか……魔物に食われる?餓死?病死?悲惨な未来が想像できる。

 

 じゃあ領主家が無償で全面バックアップ?税も納めてない人たちに?そんなのできるわけない。道理が通ってない。


 ……もう放っておくべきじゃないのか。例え悲惨な未来が現実になったとしてもそれは彼らの選んだ選択ということになるのだから。


 リナ様だって全部分かっている。だから誰も見捨てず希望への対話を重ねているんだ。

 

 でも俺は……正論を選ぼうとしている。「彼らは彼らでなんとかするさ」と免罪符を頭の中で作っている。

 

 (俺はやっぱりリナ様ほど優しくないみたいだ)

 

 俺はさっさと魔物を倒してこの場から撤収しようかと一歩を踏み出そうとして――<リナ様の大暴走>を<信頼を勝ち取る作戦>に変えるアイデアを思いつく。


 リナ様の大暴走、普通なら何やってんのあんた死にたいの?ってなるところだ。

 

 しかし考えなしの行動でも周りの人間が状況を上手く使うことで起死回生のファインプレーにすることができる――こともある。


 やるか?守るべきリナ様を命の危機に晒したままで?

 

 俺は改めて考える。

 

 ここにいる人たちはみんな、ちゃんと幸せを掴む方法がある人たちだ。今を乗り越えれば明るい未来がちゃんとあるんだよ。

 

 でも俺たちの手を取ってくれなきゃ多分多くの人には不幸が待ってる。

 

 自分達で現状を何とかできるならボロ屋に住んでないだろう。そのボロ家だって今日魔物が現れたように、いつまでも安息の地としてあり続けるとは限らない。


 だからこそ、リナ様もレーヴ君もアンちゃんだって頑張ってみんなと対話を重ねてくれているんだ。

 

 俺みたいに「ダメならセカンドプランかな」なんて考えず、最後まで諦めずに。

 

 …………………………

 ……………………

 ………………


 悩む俺の脳裏にリナ様とレーヴ君とアンちゃんが泣きそうな目で俺のことを見ている光景が浮かんだ。

 

 (ああ、もう!わかった!わかりましたよ!付き合います!その無茶に!だからリナ様、簡単にやられたりしないでくださいよ!)


 セルフで見てしまった3人の幻想に屈した俺はリナ様に背を向けてマナ不全者達の方へ振り返った。

お読みいただきありがとうございます。

毎朝6時更新頑張ります。


リナはライフ術の鍛錬を始めたおかげで体力と頑丈さが上がっています。ちょっとくらいなら痛い思いをしても耐えていられます。

敵を倒す力は変わらずですので勝てはしないのですが。


またお越しいただけたら幸いです。

よろしくお願いします。


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