15話 ライフアーツのレベルと賢者の草
「師匠!お願いするッス!」
「うん、じゃあ行くよ」
俺はレーヴ君のお腹に手を当ててライフを乱そうとしてみる。成功すればレーヴ君はゲロ吐いてしまうかもしれない。
しかし抵抗されてライフを乱すことは叶わなかった。
「うん、出来てる。レーヴ君は今日からライフ術レベル1だね」
「よっしゃあああ!」
レーヴ君とアンちゃんを勧誘してから2週間が経過した。2人はメキメキと上達し、すでに自分のライフを自分でコントロール出来るようになった。
これでライフ暴走は起こらなくなるだろう。これが天才ってやつなのかな。シドと比べても習熟してくるのが段違いで早いよ。
レーヴ君の言うレベル1とは俺が決めたライフ術の習熟度を表す指標だ。
ライフ術の階級のようなものがあればわかりやすいとリナ様に言われていたので暫定的だがレベルを作ってみたのだ。
レベル1 自分の体内ライフをコントロール出来る
レベル2 直接触れて他者のライフに干渉できる
レベル3 《オーラ》を扱える
レベル4 考え中
まだここまでだ。何を持ってレベルとするのか俺も手探りだし、今はこれでいいだろう。
「私はまだ全然できないいいい!!!」
リナ様はレーヴ君があっさりとレベル1になったのでショックを受けているようだ。
「成長の速さは人それぞれですよ。じっくりやればいいんです。シドだってもっとかかりましたよ。基本的にずっと鍛錬しかやってなかったのに」
「ぐぐぐ……頑張る……」
大丈夫、ちゃんと上達していると思う。
自分ではあまり手応えはないかも知れないけど実は体力的にタフになってたりするし。
「イー兄!みんな連れてきたよー」
「アンちゃんありがとう」
「「「イアック先生よろしくお願いします!」」」
アンちゃんが連れてきてくれたのはマナ不全者の子供達だ。
俺とお嬢で勧誘して回った時は子供達もあまり乗り気ではなかったけど今はレーヴ君とアンちゃんの勧めもあって追加で3人の子供たちがライフアーツ習得のために集まってくれている。
来てくれた子にはご飯をご馳走しているのも影響しているかもしれない(餌付け)
ちなみにイー兄というのは俺のことらしい。
「師匠、俺嬉しいです。自分にこんな力があったことが、自分の可能性を信じられるようになったことがすげえ嬉しい」
「イー兄、私も嬉しい!すっごく楽しい!だからもっともっと頑張りたい!」
2人は鍛錬を始めてからというともの終始楽しそうにしている。ライフ暴走から解放されて体が軽いのがとても嬉しいようだ。
「イー兄見ててね!私たちライフシード領の皆んなのために頑張る!」
アンちゃんが腰に手を当てて「フンス!」って言いながら胸を張ってそう言った。
「いつか俺たちと同じ境遇の大勢のマナ不全者達に、マナ不全者だからこそ持つライフ術の可能性を伝えたい。それが俺たち兄妹の夢です」
「それはいい!最高の夢だね!」
キラキラした目でそう言うレーヴ君。
その夢はきっと叶う。
屈託ない顔で笑う2人を見て、何となく俺はそう思った。
何となく、2人はいつか偉人と呼ばれる大人物になるような予感がした。
でもこの兄妹と追加の子供たちはいいんだけど……。
「大人たちはまだダメかなぁ」
「すいません師匠。声はかけてるんですが……」
子供達は来てくれたが大人たちは未だ1人も名乗りを上げてくれない。
俺やリナ様だから警戒してしまうのかと思ってレーヴ君やアンちゃんにも手伝ってもらったけど、それでもダメだった。理由は様々あるようだが、とにかく無理強いはできないし、するつもりもない。
「レーヴ君ありがとうね」
「そんな!師匠のためならこのくらい何でもないです!」
レーヴ君の圧がすごい……。なんだかすっごく敬われてる気がするな。そんな尊敬されると照れる。
「まぁこれからも根気よく声をかけて行くよ」
彼らだってわかっているはずだ。あのままじゃジリ貧だと。
食うもの食わなきゃいつか体の限界が来る。そもそもライフシード領は結構危険だ。今だっていつ魔物被害に遭ってもおかしくない。
今まで辛い目にあってきたって言うのは聞いた。具体的なことは俺みたいなぽっと出の部外者が分かりようはずもない。
それでもこっちから手を伸ばし続けるしかない。
「そうですね。俺からもまた声かけてみます。みんな本当はもう一度頑張りたいと思ってるはずなんです。それは俺が1番よくわかってるんです」
「そうだね。ありがとうレーヴ君」
◇
朝の鍛錬の後は魔避けポーション絡みの仕事だ。
「さぁリナ様、《賢者の草》をたくさん取りましょう」
「《ウルバイ草》を賢者の草なんて呼ぶのはイアックくらいよ」
ウルバイ草。濃い紫の花をつける膝下くらいの高さしかない小さい植物だ。しかしこいつのエキスを濃縮すると魔避けポーションになるのだ。
「ところでなんで賢者の草なの?」
「それはですね、この草が生物を<賢者状態>にする臭いを放っているからなんです。人間にとっては無臭ですが魔物にとっては酷い悪臭なんですよ」
一本一本は薄い臭いを発しているだけだから意味がないけどたくさん群生すると魔物が寄り付かなくなるんだよなぁ。
「賢者状態って何よ……新種の状態異常?」
「男性がある条件を満たすとなることができる強制的冷静モードのことですよ」
「なにそれ?」
「説明が難しいので詳しくはシドに聞いてください」
性知識を教えるのは父親の仕事だな。……いや母親か?自力で獲得するものかもしれない。
とにかく俺はそっちの勉強を教える気は無い。だってそれセクハラに近いし。
「魔物だけが感じる悪臭ね。でも賢者状態とはどんな関係があるの?」
「それはですね」
俺はリナ様にざっくりと説明した。
魔物は基本的に食欲、繁殖欲を満たすために人を襲う。賢者状態は魔物を強制的に冷静にして繁殖欲を大幅に減少させるのだ。
「何それ便利。でも食欲には関係なさそうな?」
「魔物はウルバイ草の周りには食料になるものが無いって本能的にわかるんですよ」
ウルバイ草は弱い草花を駆逐してしまう。
シゲ爺のいた日本でいうところのスギナとドクダミのハイブリッドみたいな植物だ。
食料になりそうな植物は生えないし、だから生き物も近づかないし、ウルバイ草自体も臭くて食べられないし、魔物にとっても最悪な草なんだ。
魔物からすれば繁殖欲的には「今全然ムラつかないからいいか、超臭いし今じゃなくてもいいだろ」となる。
また、食欲的には「うっげ!ウルバイ草かよ。じゃあ痩せた食い物しかねぇじゃん。臭っさい思いまでして痩せた食い物探すなんてごめんだぜ」となるのだ。
「なるほどね」
「リナ様が元気になったからいいますけど、賢者の草がそこら中に生えてるこの領地では農業は全くもって不向きだと思いますよ」
「………………なるほどね。どうりで苦労するわけね」
リナ様は畑仕事を頑張ってたから「ライフシード領は農業に不向きですよ」なんて中々か言い出せなかったんだよなぁ。
「イアックはホントに色んなこと知ってるね」
「暇でしたから。ええ、暇でしたからね」
神の園のみんなの教え、たくさん異世界の冒険譚、シゲ爺が持ってたいろんな本、様々な魔物たち、みんなが俺の教科書であり暇つぶしだったんだよ。
「今日もこの後マナ不全者のみんなのところに行くんですよね?」
「もちろん!みんなの話をもっと聞いてあげたいし、魔物だって警戒しないといけないしね」
この後はまた町の見回りを手伝ってくれる人の勧誘に行くことになっている。
リナ様としてはマナ不全者のみんなにどうしても手伝って欲しいからだ。
「経緯はどうあれ、今はライフシード領の仲間なの。だから私はあの人たちの力になってあげたい。手を差し伸べてあげたいの」
過去の体験から希望を失っている状態の彼らに面と向かっては言っていないが、いつまでも今の状態ではいられない。
食うものに困り、魔物に怯え、寒さに苦しむ。今はなし崩し的に免除になっているが、税を納める義務だってある。
それに彼らだって子供達をちゃんと食わせてやらなくてはならない。
そんな<現実>という名前の強敵に常に迫られているのだから。
そういう意味でもこの自警団への誘いは彼らにとって希望に満ちている話だ。
リナ様は粘り強く話をしにいく。誰も見捨てず手を差し伸べ続けている。
実はもうほぼ諦めてセカンドプランを考え始めている俺とは違って。
「リナお姉ちゃん!イー兄!」
「あれ?アンちゃんどうしたの?」
「大変なの!レー兄とおじちゃんたちが喧嘩してる!」
だいぶ慌てた様子のアンちゃん。
ちょっとした言い合いくらいじゃ俺たちを呼びにくるなんてないだろうし、多分大喧嘩なんだろう。とにかく仲裁しないと。
お読みいただきありがとうございます。
毎朝6時更新頑張ります。
魔物: 飯寄越せぇ!女だ女だ女を寄越せぇ!今日もビンビンだぜぇ!ゲヒヒヒヒヒヒ!
魔除けポーションが撒いてある柵の付近に近づく
魔物: くっさ!クッセェ!鼻がもげる!ポコチンしょぼ〜ん……
……冷静に考えてゲヒヒヒヒヒヒはないな。うん。下品だった。帰って魔物生について哲学しようか。
領民: 魔除けポーションしゅごい。頼もしい。
領民: これが強制的賢者モードか。
またお越しいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。




