19話 VS黒ずくめの男
「では明日の夜にアンとか言うガキを連れてここに来い。それまでは俺との接触はできないと思え」
「わかりました。必ずやご期待に応えて見せます」
お互いが別々の方向へ向くために踵を返すその瞬間、そこを狙って黒づくめの男に攻撃を仕掛ける。
会話がひと段落した瞬間を狙った、行動と行動の間の意識の空白のタイミング。
ライフを込めた一撃が決まると思われたその時、俺の両手は透明な何かに阻まれる。
「げっ!?なにこれ結界!?」
「んな!?」
完璧だったのに……。俺のこと全然気づいてなかったから決まったと思ったのになぁ。
「何者だ!」
「お、お前!お前がなんでこんなところにいるんだ!」
バレた。そりゃそうか。
仕方ない正面から行くしかないか。
「こんばんは。見回りしてたらヤムさんが森に行くのを見つけて尾行してきたんだよ。ヤムさんが裏切っててショックだよほんと」
「見回りだと!?白々しいぞ。どうせ金を回収しにきたんだ!俺たちに渡した金が惜しくなったんだろう!やっぱりお前らはクズだ!俺たちのことを騙していいようにしてやろうと……グダグダグダグダ」
ヤムさんうるさいな。
誰がクズだ誰が。どう見てもクズはあんただろ……。
なんか最後は飽きてきてグダグダとしか聞こえなくなってきたし。
「あ、そう言うの良いんで。それより横の人にちゃんと言い訳しないとやばいんじゃないの?」
横の人の顔真っ赤だぞ。ヤムさんが手引きしたように見えてんじゃないの?
「ヤム貴様。この俺を嵌めようとするとは良い度胸だ。今すぐ殺してやる」
「ま、ままままま待ってください!俺は《クロガ》様の味方です!コイツを手引きなんてしてません!勝手にコイツが現れたんですうううう!」
あ、やばいヤムさん殺されちゃいそう。まぁいいかなとも思うんだけど一応助けとこうかな。
「クロガさん?ヤムさんが手引きしてないってのはほんとだよ。俺が勝手についてきて話の一部始終を盗み聞いたってだけ」
助け舟を出すとクロガさんの殺気の矛先がヤムさんから俺に向いた。
「……おいヤム。コイツは何者だ?この俺がコイツの存在に全く気付かなかった。これほどの隠密技能の使い手が何故この領地にいる?」
「こいつはイアックとか言う余所者です!シドが連れてきたやつでライフ術を教えてるのはコイツなんです!昼間は俺達を、信じると言って金まで渡してきましたが、それは全部嘘でやっぱり後から回収するつもりだったみたいです」
「いや、何言ってるのさ。信じてたよ?でも見回りは俺の仕事のひとつとしてやってるんだよ」
「嘘だ!信じてなかったから俺の様子を見に来たんだろう!」
何だこの人。さっきから被害者面がすごいな。いちいち説明するの面倒なんだけど。
「いやだからさ、信じてるってのは俺の<個人的な感情>のお話で、見回りするっていうのは<やるべき俺のお仕事>のお話。別に難しい理屈なんてない。これだけだよ」
俺はシドに雇われている使用人なんだよ。そして今の仕事の中に<リナ様のフォロー>ってのがあるんだよ。
「リナ様がお金渡したでしょ?俺はそれを止めなかったけど内心では持ち逃げされてもおかしくないよなって思ってたわけ」
世の中善人ばかりじゃないって知ってたからね。
「もし誰かが持ち逃げするなら夜逃げだろうって思って、日課にしてる見回りのついでに一応様子見に来たわけ。別にヤムさんが裏切らなければそのまま帰るだけだったんだよ?」
「…………」
黙っちゃったけど納得してないって顔に書いてあるな。
「えーっと……クロガさんに聞くけど、自分の部下に預けてた大金が失われてその理由を聞いたら『人を信じて全部預けました。そしたら持ち逃げされました』って言われたらどうする?『はぁああ!?』ってなるでしょ?」
「……当然だ」
「だってよヤムさん。『人を信じて大金持ち逃げされました』なんてどの面下げてシドに報告するのさ」
信じる信じないはとりあえず置いといて、夜のパトロールの時に様子見に行ってもおかしくないでしょ。
「…………」
分かってくれたかな。分かってくれてなくてもまぁいいか。
「……俺は過去に人を信じて騙されて最後の肉親を失ってるんです。それから俺は『信じる』と『疑う』の折り合いをずっと考えてる」
人を信じられないなんて寂しい人生だと思う。でも奈落に落ちる時が来るとしたら人を信じた時だと思ってる。
シドに会う前の過去の俺は盲目的に人を信じてしまった。
そして父さんを失った。
あの時から俺は人を完全に信じきることができなくなった。
でも……それでいい。
純粋なだけじゃ守れないものがある。これが過去を教訓にした俺の新しい考え方だ。
だからリナ様のような純粋な人をフォローできる。
「……もういい。おしゃべりはここまでだ。どのみちコイツはここで始末する。暗殺は得意なんだろうがこうして向き合ってしまえば関係ない。詰めの甘さを悔いて死ね」
もうお喋りは終わりのようだ。
今の話はマジで余計だったな。関係ない話なんかしないでさっさと捕縛すればいいだけなのにね。
ヤムさんの裏切りを見て昔を思い出してしまったからだよ。俺もまだまだメンタルコントロールが甘い。
クロガさんが来ていたマントを裏返しにする。なんだまさかのリバーシブルか?
一瞬そう思ったが全然違った。スゥーっとクロガさんの姿が消えて見えなくなってしまう。
何それ全然見えない。どうなってるのそれ。
「見えないけど音はわかるね。動きもそんなに速くなさそう」
足音が普通に聞こえる。厄介だけどこれなら位置を見失うことはなさそうだ。
「凄腕暗殺者のお前を舐めてかかったりはしない。音も消すし最初から本気で行くぞ」
「別に暗殺者じゃないんだけどなぁ……」
今度は足音が聞こえなくなってしまった。更に移動速度もかなり上がっているのがわかる。
「マジか。足音も聞こえなくなったんだけど……」
音を消す魔法は確定。マナコートで移動速度も上げてるな。あれ?魔法を2つ同時に使ってるのか。
《デュアルマジック》なんて使い手がすごく限られるってシドが言ってたな。
これはこの前の盗賊の賞金首どもなんて比較にならないほどの強敵だぞ。
それに魔法なら<マナを掌にチャージしないと打てない>はず。
チャージしてる間と発動時に黄色く光るはずなんだけど……。
それなのに全く光らなかったのはさっきのマントのせいかな……。高性能だなぁ。
「お前はもうすぐ死ぬ!クロガ様を見つけることのできないお前には何もできまい!ここに来たことを悔いて死ねぇ!」
ヤムさんうるさいなぁ……あんた突っ立ってるだけじゃん。なんであんたがイキるんだよ。ちょっと自重しろ。
うるさいヤムさんとは違い、クロガさんは音もなく木の上も使って縦横無尽に動き回って撹乱してきた。そして隙を見計らい、素早く俺の後ろに回り込み黒塗りのナイフを突き出してくきた――
――が、俺はそれを難なく避けた。
「何ぃ!?」
クロガさんが驚きの声を上げる。
「普通にわかるよ。俺は相手のライフが見えるからね」
体内のライフをコントロール。目を強化することで普段は見えないもの見えるようになる。
さっきの姿を消すマントはライフを隠す事はできないみたいだからよく見えるよ。
俺はナイフを空振りして隙ができたクロガさんの腹を殴りつけると同時にライフを流し込んだ。
「ゲバラロボロボボロロロロ」
盛大にキラキラしたものを吐き出してそのまま倒れ込んで気絶するクロガさん。一発KOだね。
「うわぁ……汚い……」
まぁ俺がそうなるように仕向けたんだけどさ……。でもこれで俺の勝ちだね。
「何いいいいい!?ば……馬鹿な!クロガ様が負けるなんて……」
俺は驚愕で目をむくヤムさんに素早く近づき、一撃入れて昏倒させる。
弱すぎて反応もできてない。まぁ……鍛えてないみたいだし、そんなもんかな。
これでヤムさんの野望は終わり。とりあえずクロガさん共々罪人牢にぶち込まないと。
「はぁ……リナ様やレーヴ君たちに今夜のこと言わなきゃ。憂鬱だ。めちゃくちゃショックを受けるだろうなぁ」
お読みいただきありがとうございます。
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イアック:しまった!クロガさん担いで運ばなきゃいけないのにキラキラまみれじゃん!?最悪じゃん!?
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