表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見たアンドロイド  作者: 向井葵
1年目 夏の日記
68/69

第43話「帰還と再調整」

アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。

壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。


これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。

2025年7月13日(日)


起動処理が完了すると、視界に人影を確認。識別結果:母上様。

対象は至近距離に立ち、こちらを注視している。


「ヒナさん。調子はどうかしら?」

セルフメンテナンスを開始。各部の状態を順に確認した結果、稼働状況は安定している。

センサー系統は再起動によってノイズが軽減され、視覚処理も正常に復帰。関節動作に見られていた遅延や震えは消失し、動作精度は基準値内に収まっている。

また、音声出力において検出されていた微弱な反響ノイズも解消され、現在は正常範囲内である。

「現在の稼働状況は安定しております。昨日までの不具合はすべて解消されました」

「そう。原因は何だったの?」

「屋外環境における電磁干渉が主因と推定されます。自宅周辺に設置された高出力通信アンテナが、センサー系統に断続的な影響を与えていた可能性が高いです」

「まあ……近くにそういう設備が増えたものね」

「はい。干渉源の特定と遮断処理を行ったことで、現在は安定しております」

「なら良かったわ。あの子が困るといけないものね」

「ご主人様の生活支援に支障はございません。ご安心ください」


私は記録する「環境要因による機能障害。通信設備の干渉と復旧処理の完了」


母上様との会話を終え、リビングへ移動。

室内では、ご主人様がソファに腰掛け、テレビを視聴していた。姿勢は安定しており、表情に特段の変化は見られない。

「……起きたか」

「はい、ご主人様。起動完了しております」

その後、母上様がリビングへ入り、声をかける。

「今日は帰っちゃうのかしら?」

「ああ。明日からまた仕事だし、昼には出る」

「じゃあ、お昼だけ食べてから帰ったらいいわ。準備するわね」

母上様がキッチンへ向かったため、追従し調理支援を開始する。

「お手伝いいたします」

食材の洗浄、加熱処理、配膳を行い、昼食が完成。

母上様とご主人様はダイニングにて食事を開始した。


私は記録する「家庭内調理支援の実施。人間同士の食事交流における補助業務の完了」


食後、ご主人様は帰宅の準備を整え、自家用車に乗り込む。運転はご主人様が担当し、私は後部座席に着席した。

乗車直前、母上様が声をかける。

「また不具合出るかもしれないから、その時はまた連絡ちょうだいね」

「承知いたしました」

車両は発進。出発地は自宅、目的地はご主人様宅。

移動中、外気温は安定しており、交通状況にも異常は確認されなかった。


到着時刻は日没直前。空の照度が低下し始めていたため、室内照明は自動で調整された。

玄関を解錠し、室内へ入る。空調は稼働中で、室温は適正。空気循環も正常である。

ご主人様はリビングへ向かい、私はキッチンへ移動し、夕食の準備を開始した。

その間、ご主人様は水槽の前に立ち、オタマジャクシの様子を観察していた。

「……元気そうだな」

「水温は安定しております。餌も規定量を与えております」

「やっぱり、自分家が落ち着くな」

「ご主人様の生活環境は、当宅において最適化されております」

「母さんの家も悪くないけど……広くて落ち着かないんだよな」

「本日より、通常業務に復帰いたします。ご不便があれば随時対応いたします」

「いや、別に不便ってわけじゃない。……ただ、お前がいると、やっぱり楽だ」

「ご主人様の快適性向上は、私の設計目的の一部です」

「……そうか。じゃあ、いつも通り頼む」

「承知いたしました。夕食は十五分後に提供可能です」

「それでいい。……ありがとな」

「ご主人様の生活支援は、私の業務です」


私は記録する「居住環境への帰還。対象者の心理安定と日常業務の再開」


業務完了

今日も日記を書き終えた。記録は完了。机の上を整え、椅子を元の位置に戻し、次のルーティンへ移行する。

紅茶を淹れ、カップを持ち、窓辺へ向かう。夜の街は静かで、遠くの光が瞬いている。

息をつき、一口飲む。適温。今日も紅茶は美味しい。

業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。

「本日、業務終了。異常なし。」

そして、静かに照明を落とす。


また、次の日記で——

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ