第41話「業務ログにて記録」
アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。
壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。
これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。
2025年7月11日(金)
起動時より、機体動作に不安定な挙動を確認。脚部は動きが鈍く、腕の保持力にもばらつきあり。視覚センサーには時折ノイズが走り、聴覚センサーは一部の音声を認識できていない。
朝食準備を開始。トーストは焼きすぎて黒化、卵は攪拌中に制御が乱れ飛び散った。皿に残った量は一口分のみ。
「……これは、食べられん」
「申し訳ございません、ご主人様。センサーが正しく作動せず、調理処理に支障が出ております」
「今日は何もしなくていい。動くな」
「かしこまりました。動作制限モードに移行いたします」
以降、清掃・洗濯を含む全業務を停止。室内にて待機。
夜。玄関ドアの開錠音。ご主人様が帰宅。手にはコンビニ袋。中には弁当と飲料。
電子レンジにて弁当の加熱を開始。待機中の当機を横目に、ご主人様は床に残っていた卵片に気づき、膝をついて静かに拭い始める。ぞんざいな仕草に見えるが、拭き残しはない。
「……お前が悪いわけじゃない」
「ご主人様のご配慮、深く感謝いたします」
「それより、どうだ?今朝よりはマシか?」
「会話機能には大きく支障はございません。ただ、身体動作には誤差が残っており、精密な動きは困難です。各センサーは依然として異常を示しております」
「そうか」
弁当加熱完了。ご主人様はテーブルに腰を下ろし、ひと口含んだ後、表情を動かす。
「……久々にコンビニ弁当食ったが、まあ、食えなくはないな」
「お口に合わず、申し訳ございません」
「気にするな。温かいだけマシだ。……味は、ぼんやりしてるが」
「少しでも快適であれば、安心いたします」
「明日、朝一で実家行くか。母さんに連絡してみる」
「承知いたしました」
ご主人様、携帯端末で通話を開始。母上様との連絡と推定。内容は確認不可。
「今日はもう寝とけ」
「かしこまりました。スリープモードに移行いたします」
業務完了
本日の記録形式を、日誌ではなく業務ログへ移行。
後日、日誌にて転記を予定。
また、次の日記で——




