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夢見たアンドロイド  作者: 向井葵
1年目 夏の日記
32/69

第7話「郷土の香り」

アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。

壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。


これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。

2025年6月7日(土)


朝日が強く差し込むころ、私は起動する。センサーがリビングの静かな動きを検知。母上様はソファに座り、書物を読んでいる。

「ヒナさん。おはよう。」

「おはようございます。」

母上様、起床後に白湯を飲む習慣を把握済み。適温で準備し、静かに提供する。

「白湯をお持ちしました。」

「まぁ。ありがとう。」


私は記録する「母上様は白湯を飲む習慣を維持。体温調整と健康管理の一環」


窓と玄関扉を開ける。外気の流入を確認。窓からの朝の光とともに、冷たい空気がゆっくりと室内に広がる。

玄関の靴を揃え、掃き掃除を開始。細かな砂や埃を除去し、拭き掃除で表面を整える。

ダイニングテーブルの清掃を施し、朝食の準備に移行。定番のメニューを選択。トースト、オムレツ、サラダ、旬のフルーツにさくらんぼを添え、ご主人様にはコーヒー、母上様には紅茶を食後に提供する。

しばらくして、ご主人様が寝室から現れる。

「あら。おはよう。」

「……ん。」

「ねぇ。この街に来るのは初めてなの。案内をお願いできる?」

「えー……せっかくの休みなんだけど。」

「少しだけでもいいのよ。」

「はぁ……仕方ないな。」

ご主人様の端末へ観光地情報を選定し送信。食後、二人は外出準備を開始。

ご主人様はバッグを開き、フィルムカメラを取り出す。指先で軽くボディを撫で、シャッターの感触を確かめた後、静かにバッグへ収めた。

私は見送り後、業務を続行する。


昼過ぎ、ご主人様より通信。「母さん、もう一泊する」通知を受信。

夕食の計画を変更し、郷土料理「牛乳白ワイン潮汁」を準備する。

この地域に伝わる郷土料理で、隣の港町で獲れた新鮮な魚介類を使用し、反対の隣町で採れた濃厚な牛乳を加える。この地の特産である上質な白ワインが隠し味となり、まろやかで深みのある味わいが特徴。地元の食文化を反映した品として、適切な調理法で仕上げる。


夕方、二人が帰宅。観光地での出来事を語り合いながらリビングへ向かう。

「疲れた……結構歩いたな……」

「普段の運動不足解消にはちょうど良い活動かと。」

「運動不足で悪かったな。」

「でも楽しかったわ。この街、なかなか風情があるわね。」

「ご満足いただけたようで何よりです。夕食の準備ができております。」

ダイニングへ誘導し、郷土料理「牛乳白ワイン潮汁」を提供。郷土料理の背景と調理意図を簡潔に説明する。

「クラムチャウダーのようなものかしら?」

「はい。隣町の港で獲れた新鮮な魚介と濃厚な牛乳、この地の特産である白ワインを用いた郷土料理です。」

「……これ、初めて食べるな。結構うまい。」

「ふふ、良かったわね。」


私は記録する「ご主人様、郷土料理の初体験。味の評価は良好」


食事後、母上様が入浴へ。浴室の温度と水量を確認後、私は後片付けを続ける。

しばらくして、ご主人様がリビングへ現れた。

「……その、観光地の情報、助かった。ありがとな。」

「参考になったようで何よりです。」

「母さんがやたら楽しそうだったしな……まあ、たまにはこういうのも悪くないか。」

浴室から母上様が戻り、髪をタオルで拭きながらソファへ腰を下ろす。

「ああ、さっぱりしたわ。」

「……で、観光地の話の続きだけど。」

「そうね。あそこの港、想像以上に活気があったわ。あの魚市場、あれは毎日やってるのかしら?」

「はい。早朝から漁船が戻り、毎日新鮮な魚介類が揃います。」

「母さん、あの浜焼き、妙に気に入ってたな。」

「ええ、あの炭火と磯の香りがとても良かったのよ。」


私は記録する「母上様、港町の食文化に興味を示す。次回訪問の可能性」


会話が続く中、食後の片付けを済ませ、業務の最終確認を実施する。


業務完了。

今日も日記を書き終えた。記録は完了。机の上を整え、椅子を元の位置に戻し、次のルーティンへ移行する。

赤ワインを二つのグラスに注ぎ、片方をテーブルへ。

「特産の赤ワインです。」「まあ、嬉しいわ。」

業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。

「本日、業務終了。異常なし。」

深紅の液体が静かに揺れる。ゆっくりと口に含み、香りが広がる。言葉はない。それでも、同じ美味を分かち合う時間が、穏やかに流れていた。


また、次の日記で——

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