第17話「時をかける通帳」
アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。
壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。
これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。
2025年5月23日(金)
朝。ご主人様は食事を終え、コーヒーを飲んでいる。
適切なタイミングと判断し、相談を開始する。
私は記録する「新築祝いの準備。ご主人様の指示を確認」
「ご主人様、新築祝いの手土産について、ご指示をお願いいたします。」
「うん……何か持っていくべきなのはわかってるけど、何がいいか思いつかないな。」
「一般的には、酒、菓子、あるいは実用的な品物が選ばれます。」
「うーん……長い付き合いだから、ちゃんとしたものを渡したいけど……決められん。ご祝儀にするか。」
「かしこまりました。ご祝儀袋のご準備をいたします。」
「現金、手元にないな。銀行でおろしてきてくれ。」
「承知いたしました。」
ご主人様はコーヒーをすすりながら、考え込む。
その仕草には、長年の友人に対する信頼と礼儀を重んじる姿勢が表れている。
文房具店に到着。ご祝儀袋を購入。適正な選択と決済完了。
銀行に到着。ATM利用客多数。待機列の発生。順番を待つ。
操作開始。取引後、通帳を確認する。異常発生。
印字された日付は「1995年5月23日」。通帳の端に記載された現在の年号と30年の差が生じている。
私は記録する「記帳日付の異常。西暦1995年5月23日。通常の記帳処理では起こり得ない状況」
記帳された直後に印字が変化したわけではなく、最初から誤った日付が記録されていることを確認。
異常の原因は不明。システムエラーの可能性を考慮し、窓口へ移動する。
「記帳日付に異常が発生しました。」
職員は通帳を確認し、一瞬固まる。
「……これは……おかしいですね。」
画面を操作し、履歴を確認。
「システム上は本日の日付で記帳されたはずですが……なぜか30年前の記録に……」
職員は焦りながら、手動で修正処理を開始する。
「申し訳ございません。機械的なエラーが発生したようです。すぐに修正いたします。」
職員の対応により、記帳情報は正常な日付へ訂正される。
「このような事例は滅多にないのですが……大変申し訳ございません。」
「理解しました。」
帰宅。業務報告の実施。
「ご主人様、ご祝儀袋と現金を準備いたしました。銀行にてシステムトラブルが発生しましたが、問題は解決済みです。」
「なんだそれ……で、いくらおろした?」
「ご指示通りの金額です。ご確認ください。」
「まあいいか……ってか、30年前って……そんな昔の記録が出るなんて、気味悪いな。」
「ご主人様、記録の誤りに意味はございません。」
「いや、そうは言ってもだな……まぁ、いいか。」
私は記録する「新築祝いの準備完了。異常発生も処理済み。問題なし。」
業務完了
今日も日記を書き終えた。記録は完了。机の上を整え、椅子を元の位置に戻し、次のルーティンへ移行する。
紅茶を淹れ、カップを持ち、窓辺へ向かう。夜の街は静かで、遠くの光が瞬いている。
息をつき、一口飲む。適温。今日も紅茶は美味しい。
業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。
「本日、業務終了。異常なし。」
そして、静かに照明を落とす。
また、次の日記で——




