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夢見たアンドロイド  作者: 向井葵
1年目 春の日記
18/69

第18話「招かれざる影」

アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。

壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。


これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。

2025年5月24日(土)


本日はご主人様の友人宅にて、ホームパーティ参加の予定。

邸宅への移動準備を開始。ご主人様は服装を確認しながら短く指示を出す。

「忘れ物はないな?」

「問題ありません。必要物の確認は完了しています。」

「なら、行くぞ。」

車両に乗車。目的地に向け移動開始。


私は記録する。「移動開始。環境評価および目的の再確認。」


邸宅到着。邸宅の敷地に入る。

広大な建物、庭園、テニスコート、ゲストルーム、シャワーブース等、複数の施設を確認。招待客約20名が歓談中。

ご主人様は車を降りると、しばらく無言で邸宅を見上げた。

庭園横のテラス会場では給仕係とホストによる来客対応を実行中。ホストである友人がご主人様に気付き接近。

「いらっしゃい。よく来てくれたね。」

表情が微かに動く。

「……お前、こんなに広い家を建てたのか。」

友人は穏やかに微笑み、軽く頷いた。

「そうなんだ。ようやく完成してね、今日みんなに見てもらいたくてパーティーを開いたんだ。気に入ってもらえたら嬉しいよ。」

ご主人様はため息をつくように言った。

「驚いたな……ずいぶん立派なもんだ。」


業務遂行中、通路にて招待客とみられる幼児と衝突。手には飲料と食事が盛られた皿。子供は勢いよく走っており、接触の衝撃を計測。

飲料および食物が付着し衣服汚損を確認。

「あっ、ごめんなさい!」

母親が駆け寄り、深く頭を下げる。

「すみません、この子が急に走り出して……!」

子供は涙目で、服を握りしめている。

「問題ございません。汚れの処理を行います。」

母親は申し訳なさそうにしながら給仕係に助けを求める。

給仕係が近づき、シャワールームへの案内を申し出る。

着替えに、給仕係と同様の衣装を受理。シャワールームへ移動、衣装交換完了。


施設退出直後、未確認人物より接触。

「君、この家のメイドさんだろう? 私はここの家主の恩人でね。以前家主に貸した金があるんだが……」

状況分析。声の抑揚と視線の動きから金銭要求を検出。応答選択。

「申し訳ございません。業務範囲外ですので、対応できません。」

対象者は不満の表情を示し、退避せず継続的な要求を行う。

経路変更し、ご主人様のもとへ移動。報告実行。

「……怪しいな。あいつ、人から金借りるようなタチじゃないはずだが」

ご主人様はグラスを置き、やや険しい表情で友人のもとへ向かい耳打ちをする。

「お前、変なやつ呼んでないか?」

友人は戸惑いながら、ご主人様を見た。

「え?どういうこと?」

私は報告を開始する。

「施設内で未確認の来客と接触しました。対象者は金銭の要求を行い、ホストの恩人を名乗っています。心当たりはありますか?」

友人は眉をひそめ、考え込んだ。

「そんな人、呼んでいないよ。それってどんな人だった?」

「中年の男。恩人だとか言ってたが、こいつをここのメイドと勘違いして金をせびってたみたいだ。」

友人は困惑しつつも、冷静な口調で答えた。

「それはおかしいね……すぐに探してみよう。不法侵入の可能性もあるし、警察にも連絡しておくよ。」

敷地内を捜索。給仕係と共に協力し、建物裏手で対象者を発見。

数分後、警察が到着し不審者の確保を実行。


私は記録する。「不審者排除完了。友人とご主人様による対応実行。信頼関係の強化。」


友人は安堵し、ご主人様と私に感謝を述べる。

「またメイドさんに助けられちゃったね。本当に、今日は来てくれてありがとう。」

ご主人様は腕を組み、短く返答した。

「こいつがいたから、ややこしくならずに済んだな。」

友人は穏やかに笑う。

「それにしても、今日は楽しかった?」

「……まあ、それなりにな。」

「メイドさんはどうだった?」

「業務は遂行されました。問題ありません。」

友人は微笑み、グラスを掲げる。

「それなら良かった。また、遊びに来てね。」


私は記録する。「業務評価完了。安全確保と信頼維持の達成。」


業務完了。

今日も日記を書き終えた。記録は完了。机の上を整え、椅子を元の位置に戻し、次のルーティンへ移行する。

ワインをグラスに注ぎ、窓辺へ向かう。遠くからサイレンの音が聞こえ、赤色灯が瞬いている。

一息つくまでもう少し。

業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。

「本日、業務終了。異常なし。」

白い指先でグラスをそっと持ち上げ、深紅のワインを優雅に口元へと運んだ。

そして、静かに照明を落とす。


また、次の日記で——

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