持続時間との戦いなの!
壁(久我)が消えた今、攻撃を防御することはできない。
だってAGI関係のスキルしかないのに、全体攻撃をどう避けろと?
「ブレスがくるわ! 回避よ!」
「ちょ、ムリだって!」
「さあ位置はここです! 私の元へ飛び込んでくると良いでしょう! 大丈夫です貴方の速さならここまでたどり着くはず。たった20メートルですぞ!」
久我が吠えているけど、それは後ろの重量も考えてくれているのかしら?
すでにアカバンの囚人はブレスの攻撃モーションに入っている。
残り1秒でブレスは放たれるだろう。
だがしかし。
私も負けてられない! なんたって公開処刑がかかっているもの!
「これが私の全速前進! マジカル・フルバースト!!」
「だが遅いッ! タカマチ選手はそんな速度で間に合うのか……あぁーっと!! ここでアカバンの囚人のブレスが炸裂したぁー!!」
目の前が真っ白になる。
しかし、その下をくぐり抜けて奴の安全地帯、巨体の真下へと滑り込む。
「おおっ、タカマチ選手間に合っ――」
「止まらっ……あっ!! そうだったわ!」
そしてそのまま、久我の横を素通りしてアカバンの囚人の巨体から飛び出す。
マジカル・フルバースト
必要SP:50
MPを全て消費し、5秒の間消費したMPの半分だけAGIを上昇させる。
その後、10秒間行動不能。
――最後の希望に、全てを託す。
つまり。
これが最後でなければ、使ってはいけないスキルでもあり。
もうすぐ行動不能状態に陥る私は、そのままブレスがまだ来ていない方向へと突っ込む。
「タカマチ、ロスを無くして反転するのよっ! そして10秒の間は安全地帯に籠もるの! 貴方得意でしょ?」
「姫さんじゃないんだから」
しかもちょうど止まれるかもわからないし、何より安全地帯という空間はAI相手に設定できるものなの?
いくら攻撃がこない(ような気がする)身体の下でも、押しつぶされたら終わりなのでは?
「スキルが切れるまで残り2秒! 時間がないわ、はやく!」
「くっ、考えても仕方ない。空中ターン!」
限りなくロスをなくす、通称インメルマンターン。
空中機動の必殺ワザで、奴の下に潜ろうとして……そのまま急上昇を目指す!
「おぉーっとタカマチ選手! 何を血迷ったかいきなり急上昇だぁー!! 解説の妹様、これはどう思います?」
「わたしの指示を無視するなんてやるじゃない」
もちろん意味はある。
地震、灼熱嵐、広範囲ブレス。
どれもアカバンの囚人の周囲に発生している。
地震だけは安全地帯にいても食らうけど、閃光玉に関してはダメージ無し。
なら、奴の頭上に行って数秒の時間を稼ぐ!
――スキル効果終了のお知らせ
――只今より、10秒間の行動不能状態に移行します
私だけにシステムメッセージが表示される。
上昇スピードはそのままだけど、もう入力は受け付けない。
姫さんの時間まで残り15秒。
行動不能状態は、今から10秒間。
あとは落下して奴に突っ込むだけだけど、ぶつかる前に行動不能が解除されるかは賭けだ。
残り13秒、上昇が止まった。
「さあ昇る昇る! タカマチ選手はどこまで高みを求めるのか!! ああっーと! ここでタカマチ選手の上昇がとまったぁー!」
「え? 思ったより早くない? 今から落下なの?」
思わず下を見ると、ちらっと姫さんが目に入った。
2人乗りに設定して落とさないようにしていたけど、そりゃあ後ろに人が乗っていたらGも余計にかかりますよね、そうですね。
とりあえず私にできるのは。
「誰か止めて! このままじゃ直撃するわ!」
「――そして全ては反転し、天邪鬼が微笑むのは気まぐれか、それとも」
姫さんはまだ詠唱中だ。
残り12秒。
衝突までは4秒持つかどうか。
そのタイミングで、ダメ押しの閃光玉が放たれる。
「まぶしっ!」
「ふあっ」
「その手には乗りませんよ!」
奴の頭上、つまり私のいる場所から眩しい光が放たれる。
それを私とデス子ちゃんはモロに浴びてしまった。
姫さんは瞑想中なのでいいとして、頼みのデス子ちゃんまで動けないとなると……。
「ふはは。普段からガードしている私には効きません! そもそも閃光玉というのがただ一瞬の目眩ましであり、それに対し普段からサングラスを常用している私は――」
「久我っ! お願い!」
衝突したらこっちにもダメージ判定がある。
そうしたら姫さんを守り切るという誓いが……後ろの人が重くなければなんとかなったんだけど、後の祭りだ。
残り10秒。
あと1秒でぶつかるのはどうしようもない。
そして衝撃に備えて目を瞑ろうとした時、目の前に暗黒のゲートが開かれ吸い込まれた。
「なにこっ……きゃあああああ!!」
「スキル『ディメンション・ホール』です。これは対象を私の場所へと強制召還することができまして。今回はお二人ともご招待させていただきました」
「そんなのあるならもっと早く使ってよ!」
「おや、よろしいのですか?」
私の行動不能はあと3秒。姫さんのスキル完了まではあと8秒ある。
ぶっちゃけここまできたら、安全地帯だし余裕余裕――。
「みんな逃げて! そこにいたら潰されるわっ!!」
離れた場所にいたデス子ちゃんから警告が入った。
「やっぱり安全地帯なんてないじゃない!」
久我のせいで……と思ったらちょうど目が合った。
「妹様の言うとおりですね。『ディメンション・ホール』はクールタイムで使用できません。なので私だけ遠くへ逃げさせていただきます」
シュタ!
と久我はすばやく動くと、安全地帯から遠くへ行ってしまう。
「えぇ……」
動けない私と、まだ詠唱が続く姫さんが残されました。
潰されるまで1秒もありません。
「タカマチも早く逃げて! 動けないなら……」
デス子ちゃんがキャノン砲をこちらへ構える。
それって私を撃つってこと? 姫さんにもダメージが……。
「貴方が壁になって姫様を押し出しなさい」
「嫌よ!」
「問答無用!!」
デス子ちゃんの21センチ砲が放たれると同時に、今度は空が……頭上からアカバンの囚人の胴体が迫ってくる。
私はまだ動けないから、逃げることも避けることも――。
そして……プレイヤーが1人、潰された。
寝不足ハイテンションで書く毎日。
睡眠の重要性、睡眠の重要性、睡眠の重要性!




