決死の突撃なの
重い衝撃が辺りに響き渡った。
襲ってくる砂埃を、咄嗟に腕でガードする。
「……あれ、身体動くじゃない」
「え? どうしてタカマチと姫さんがそこに?」
「そういや、どうしてだろう?」
さっきまでアカバンの囚人の真下にいたはずだけど、この場所は随分と離れている。
デス子ちゃんに飛ばされたなら、近くににデス子ちゃんがいるのはおかしいのだけど。
「久我の姿が見えないわ」
「ん? 久我……久我……あっ」
あの時久我はデス子ちゃんのいる方向へ走っていったっけ。
そう、ちょうど私がいる場所らへんまでダッシュで――。
「ねえデス子ちゃん。見て、メンバーの枠」
「何何? あっ、久我の名前が……」
参加メンバーは4人。
そして、久我の名前だけグレーになっている。
すなわち、HPがゼロになったか、ログアウトした状態。
「多分、私の代わりに身代わりとなってくれたのだと思う……」
「そ。仲間を見捨てて逃げるなんて、と思ったけど、姫様を守るためか中々やるじゃない」
ごめん。
私もそう思ってました。
久我はさっき私を移動させたみたいに、何らかのスキルで私と場所を入れ替えてくれたのだろう。
自らを犠牲として。
「そういや姫さんは!」
「……待たせたね君たち。ようやく術式が完成したよ」
「それスキルよね?」
準備に30秒かかる大技。
思えばそんなスキルは情報攻略サイト『ウィキー』にも載ってなかった。
「――さあ、加速したまえ。今こそ我らが世界を顕現させる。『アジシャンズ・ディス・ワールド』!!」
「まさかのオリジナルスキルなの!?」
公式に確認されていないということは、ギルド特有の『ゴッドウィンド』みたいなスキルだと思っていたけど、アジシャンとか勝手に名付けていいのかしら?
「どんな必殺技か知らないけど、でもこれで――あれ?」
「気をつけなさいタカマチ。この空間では誰もが姫様に敵わないの」
足を一歩踏み出そうとするけど、身体が動かない。
いや、動こうとはするけど、姫さんが10人くらい背中に取り付いているみたいに身体が重い。
なぜか会話はできるけど。
「ご苦労だった。久我も後で労るとして、今は時間がない。後は任せてくれ」
「え、姫さんは動けるの?」
「当然だ。ここは私の、私だけの空間だぞ? 具体的にはステータスの値がゼロに近ければ近いほど有利になる空間だ」
ステータス反転。
ここは強いモノほど弱くなり、弱いモノほど強くなる世界。
普段は発動前に加速して突っ込み、ステータスほぼゼロの相手に加速度の減少されない攻撃力をぶつけるスキルらしい。
「ところで加速しておきたまえと言ったが、2人ともどうした? 動けないようであれば、アレをどうすることもできないだろう」
「無茶言わないでよ!」
アカバンの囚人も姫様のスキル前では動く気配もない。
私たちと違って、奴のステータスは4000もあったのだ。ソレが全てマイナスになったとしたら、到底動くこともできないだろう。
でもちょっと待って。
「私たちも動けないの。持続時間はどのくらい?」
「ざっと30秒といったところか。その間に私が奴の体力を削り取らねばな」
そんなことをのんびり言う姫さんだけど、もう残り25秒もないんじゃない?
「タカマチ、デス子。動けるようになったら全力で奴に突っ込め。それで倒せるかどうかは賭けだが、他に方法はない」
「わかったわ」
「そうなの? 何かありそうな気もするけど」
そのまま姫さんはゆっくりと歩いていく。
「いや、そこは急いでよ!」
「何、焦らなくても私にできることは決まっている。私はギルド長だぞ?」
その言葉が一番信用ならないのですが。
私の忠告も虚しく、刻一刻と時間は過ぎていく。
そして、姫さんが奴の側にたどり着く頃には、スキルの効果時間は残り5秒を切っていた。
「くっ、動けないのがもどかしいわ!」
「見なさい。あれがわたしたち姫の戦いよ」
デス子ちゃんに促され、4000のマイナス補正を受けているボスを見やる。
さすがにHPとMPはマイナスされていないので、あと数秒でどうやって――。
「えいっ」
可愛らしい猫パンチが炸裂した。
クリティカルヒット!!
アカバンの囚人に9999のダメージ!!
「ええぇぇえ!」
「奴のDEFはマイナス4000みたいなものよ。いくら姫様のATKがクソ雑魚レベルの10でも、それくらいは普通に与えるわ」
そのまま姫さんはえいっ、えいっ、やー、とさらに3発お見舞いする。
これって姫さんが早くたどり着いていれば、もっと大ダメージだったのでは?
「今だ! 2人共突っ込め!!」
「あっ、動ける!! いくよデス子ちゃん!」
「言われなくてもわかっているわっ」
スキル効果、30秒経過。
全て反転したステータスも元に戻ったらしく、姫さんは一瞬でボスにやられた。
「くっ、姫さんもリタイア。奴のHPはもう少しのはずよ! 全体攻撃が来る前に決めるわ!!」
「ウン! 私が先に行くから、トドメはお願い!」
推定ステータスはHPとMPもステータスの10倍である40000。
ならあとは、ほんの少しでもダメージを与えれば勝てるはずっ!!
「全速全開! マジカル・フルバーストッ!!」
「グルルルォォォォォオオオ!!!」
あっ。
ハエでも叩くかのように払いのけられた。
……後ろに隠れているはずのデス子ちゃん、あとは頼んだよ。
一瞬暗転したかと思うと、そこはもう現実だ。
BANされる心配はなかったけど、こうして街に戻させずに強制ログアウトさせられるのは心臓に悪い。
横にいるデス子ちゃんは……戻ってこない。
「作戦は成功したのかしら?」
「ああ。よくやった……と言いたいところだが」
先にリタイアさせられた姫さんに促されると、ちょうどデス子ちゃんが目覚めるところだ。
「首尾はどうだった?」
「ごめんなさい……倒し、きれなかったわ」
デス子ちゃんの言葉で、私たちアジシャンズは……敗北したことを知った。
に、2月中にはこの章を終わらせたいです。
追記:ダメージの桁を間違えていたため修正しました。




