それが私のお姫さま、なの
その日は草の帰還だけ待って寝ることにした。
姫さんいわく「明日になれば誰か倒しているかもしれない」とのことだけど、多分私たちを心配してくれたのだろう。
だって今からログインしても、討伐は明け方までかかりそうだし……途中で寝落ちしたら目もあてられない。
朝が来て姫さんに起こされる。
「さて、もうすぐ9時だが早かったかい?」
「ふわぁ……いえ、ありがとう、ございます」
「ん……ここはゲーム内? そういえば」
まだ寝ぼけ眼なデス子ちゃんだけど、すぐに状況を察したらしい。
というか、姫さんっていつ寝たのだろう?
リビングにいくと、流星と草以外のメンバーが集まっている。
ギルドメンバーで食卓を囲むのは、なんだが不思議な感じだ。
「苦手なモノはないかい?」
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
「ジャムありますか?」
「好きなものを使うと良い」
あれからアカバンの囚人に動きはないみたいだ。
久我がメガホンで情報を伝え、無謀にも挑むプレイヤーはいなくなったけど……皆、すぐに対策は浮かばないみたい。
「いまは流星に偵察してもらっている。動きがあれば帰ってくることだろう」
「さっき僕もちらっとログインしたけど、有効策は見つかっていない。ただ捨て身のプレイヤーのおかげで『グレートウルフの墓場』のギミックは3つ起動したようだ」
グレートウルフの墓場。
プレイヤーは攻撃がきた方角から当たりをつけて、敵の位置を探らないといけない。
さらにフィールドに配置された灯籠を触れば周囲が明るくなるが、それを4箇所起動しなければボワッとした仄かな光すら灯らないという。
相手がレイドボス、さらにアカバンの囚人とかじゃなければ大したギミックでもないのだけど……。
「そのプレイヤーたちも?」
「ああ。通称『バルス』された」
「まさに滅びの呪文ね」
喰らえば目がやられる(と機器が判断して強制ログアウト)スキルにはもってこいの名前だ。
ようやく、残り1つ。
「タッチするだけでいいのよね? 奴が攻撃する前に人海戦術で何とかならない?」
「自分のアカウントまでかけて犠牲になるプレイヤーは稀だ。さらにバルスされる前にギミックへたどり着けるかも運による」
「己はアカバンされ、後に希望を託してもメリットはないからな。当然だろう」
でもギルドで協力体制をとっているなら、ギミックもそのうち解除されそうなものだけど。
まずはフィールドを明るくして、奴のバルスを何とかするのが全プレイヤー一致の意見らしい。
「ギミック解除したらバルスされなくなるのよね?」
「……ああ。うちにも要請がきたよ。そのスピードでギミック解除を手伝ってくれないか? とね」
「え、それってどうしたの?」
「もちろん断ったさ。それもタカマチ君の功績があったからか、すぐに納得してもらえたよ」
何でも第一形態を倒せたから、ボス討伐に期待されているんだとか。
報酬のギルドボーナスとか関係なしに、アカバンされたプレイヤーを早く開放してあげたいとのことだ。
「故に、ギミック解除されてからが我らアジシャンズの出番だ」
「時間的に、そろそろ解除組が動いても良さそうだが……噂をすれば、だ」
ちょうどログインしていたはずの流星が戻ってきた。
「ギミックは解除された。彼らの犠牲を無駄にはしない」
「よし、我らも全員でいくぞ」
「え! 姫さんもいくの?」
今まで傍観してただけの姫さんが動く?
草は寝坊だからいいとして、久我、デス子ちゃん、私、姫さんの4人で行くことになるだろう。
「その前にだ。バルスされなくなって、敵の新たな能力が判明した」
ギミックが解除されたことで強制ログアウトはなくなったらしい……けど、相変わらず目眩ましの効果はある。
そして奴に攻撃が通るようにもなったけど、驚くべきはそのステータスだ。
「今回アカバンの囚人は広範囲攻撃が得意だ。閃光玉、地震、灼熱嵐、広範囲ブレスなどを使ってくる」
「だったら防御を高めれば大丈夫ね」
「普通ならな」
広範囲攻撃はその分威力が下がる。
だってそれで威力もあったら、それこそ誰も勝てない、近づけないじゃないの。
「だが、奴は強い。今まで手に入れたアカウントの数だけステータスに反映されるらしい。被害者は800人を超えることから、800×5ポイントのステータス補正を受けているはずだ」
「ATK4000!? その他のステータスも4000なの!」
トッププレイヤーでも、1つの能力値が1500いくかいかないかの世界だ。
今回の敵は、その2倍以上。
そんなの勝てるわけ……。
「ギミックは解除されたか。なら、やはり私が出向こう。そいつの天敵は私のようだ」
「そうね。今回は姫様のために犠牲になってあげるわ」
「我らが姫君が出撃なさるとは、これは武勇伝が追加されます故見逃すわけにはいきません! ああっ、この瞬間に立ち会えること、神に感謝を!」
「なに、何なの?」
ついて行けない私に、クルセさんがポンと肩を叩いた。
「グッドラック」
「不安しかないのだけど!」
そして私たち4人はログインし『グレートウルフの墓場』までやってくる。
「ギミックが解除されたからか、賑わっているね」
「ああ。だがステータス4000のボスはダテじゃない」
挑んだものはやられ、すぐに次のレイド戦グループが突撃する。
もうバルスされる心配はないとはいえ、圧倒的な力の差に為す術はないようだ。
「とりあえず並ぶぞ。我らは4人で十分だ」
「え、いいの?」
姫さんが黙って並ぶので、私達も固まることになる。
ざわざわざわ。
「おい……あそこにいるのは久我か? まさかアレ、暴走族の連中じゃないだろうな!」
「見慣れない女性が2人いるぞ。アレが話題の魔法少女か? ちっこいな」
「あの黒髪ロングの女性ってまさか……噂の姫か?」
ちっこいっていった奴、聞こえているから。
「もうすぐ番だ。作戦を伝えておこう」
「お願いします」
「私がスキルを使う。それまでの30秒間、私を連れて逃げてくれ。以上だ」
「「了解」」
「え、どういうこと?」
聞き間違い? かと思った私のために、今度はハッキリと言ってくれた。
「今回は鬼ごっこだ。戦えない私を運びつつ、私に一切攻撃を当てないでくれ」
つまり、奴の攻撃から姫様を30秒守り抜けと。
……アジシャンズの姫って、ただのお荷物では?
ようやく鬼ごっこという名の決闘ができます。




