魔境の喫茶店なの
姫さんの家まではここから1時間ほどで着くらしい。
「俺はバイク乗りだが、客人がいるなら仕方ない」
「後ろに乗るが好きだったのに……」
すごく残念そうにされたけど、それは私のせいじゃないです。
それにデス子ちゃんは助手席に座っているけど、運転している流星と話している姿は嬉しそうだ。
……少しは一人で後ろにいる私の相手をしてくれてもいいのに。
「立花とタカマチは同じ学校なのか?」
「そう。わたしもさっき知った。兄さんは姫様に会ったことある?」
「ああ。直接会ったのは一回だけだが、WEBを通じてなら何回かある」
「どんな人か楽しみ」
兄妹2人はまるで後ろに私がいないかのように会話を繰り広げている。
やっぱりリアルのデス子ちゃんは、私の知っているデス子ちゃんじゃない。
それに名前。
「あの、後ろに私もいるので、あまり身バレしそうな発言は」
「何。立花とタカマチはまた顔を合わせることもあるだろう。コイツは友達も少ないし、リアルでも仲良くしてやってくれ」
「兄さん、余計なお世話」
「これでもお前の兄だからな」
「……もう」
ちらっとこっちを見たデス子ちゃんは、嬉しさが隠せないようでニマニマとしていた。
あなた本当に、小鳥遊さんのことで私を睨んでいた人と同一人物?
そんなこんなで、デス子ちゃん……の新しい一面を発見しつつ、兄妹のイチャイチャを見せつけられながら喫茶店へと到着する。
ここが姫さんとの待ち合わせ場所らしい。
「ついたぞ。中で待っているはずだ」
「さ、行くよ」
「えっ! うん」
着いたのは、よく見るチェーン店の喫茶店だった、
ここってコーヒーより、大きすぎる食べ物が話題の喫茶店よね。
入ったことはなかったけど、パンにソフトクリームが乗ったデザードはいつか食べてみたい。
「き、緊張するね」
「そうね。引きこもりの姫様がまさか喫茶店に来るとは」
「そこなの?」
先頭を行く流星に付いて席まで案内されると、そこには一人の男性が座って待っていた。
その男性は、私たち3人の姿を確認すると、まずは座るように促した。
「よく来たね。まずは少し雑談も兼ねて腹ごしらえといこうか。心配せずとも、ここは僕が出すよ」
「すまない。厄介になる。どうした? タカマチも座れ」
座れって言われても……。
流星の隣にはデス子ちゃんがさっさと座った。
なので空いているのは、男性の横なのだけど。
「じゃ、じゃあ失礼して」
「そんなに緊張しなくても良いよ。リアルでは初めてだけど、ゲーム内では会ったことがあるしね」
「そういわれましても」
だって、学校以外で男性と関わる機会がないのに、知らない人の隣だよ?
しかもこの人に色々相談しちゃった後だし、まさか……。
「姫さんが、ネカマだったなんて……」
その事実を知り、相当ショックだった。
でも顔を覆って落ち込む私とは裏腹に、隣の男性と流星は何かに納得したように手を叩いた。
「違うぞ。姫は正真正銘の女性だ」
「ははは! そりゃ、ここにいたのは僕だしね。勘違いしても仕方ないか!」
いまだに腹を抱えて笑う男性と、呆れたような顔の流星。
前を見ると、デス子ちゃんですら冷めた目でこっちを見ている。
「だって! 姫さんとの待ち合わせとしか聞かされてなかったし!」
「静かに、高木さん」
「うっ……ここではタカマチって呼んで。そういうデス子ちゃんは知っていたの?」
「姫様が男性なわけがない。そんなこともわからないの?」
まだ会って間もないし、わかるわけないじゃない。
それにこの男性とゲーム内で会ったことがあるなら、この人はギルメンの誰か……あ!
「あなたが久我なの?」
「久我? ああ、違うよ。話はあとで、まずは注文しないかい?」
さっきから机の側を通る店員がやけに目につくと思ったら、私達はまだ何も注文していなかった。
せっかく奢ってくれるみたいだし、ここは兼ねてからのデザートを頼んでみようっと。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ああ。ウィンナーコーヒーを一つ」
「僕はアメリカンコーヒーとカツサンドで」
「この、パンにソフトクリームが乗ったものを一つ!」
「同じく。わたしは、ミニのほうで」
それぞれ注文を終えたけど、ミニ?
メニューを見ると、確かにミニもあった。
「デス子ちゃん、小さいのでいいの?」
「ええ。前に来た時……何でもない」
「はは。食べすぎないようにね」
「?」
その疑問は、注文した品が到着してから解決した。
コーヒーは普通だ。
デス子ちゃんの頼んだミニなんとかも、これなら食べられそうなサイズだった。
問題は。
「でかっ!」
「カツサンドは流星くんも食べるよね?」
「一切れ頂こう」
「あの……切り分けるので、私のも少し食べてくれませんか?」
「どうしても食べきれなくなったら言え」
こんなことなら、私もデス子ちゃんと同じミニにしたらよかった。
あと、気になっていた疑問がある。
「流星のそれって、何だったっけ」
「ウィンナーコーヒーだが、どうかしたか?」
「……何でもないわ」
「ははは! ウィンナーコーヒーというのはウィーン風のコーヒーなだけで、ソーセージが入っているわけじゃないよ」
「そうなの!?」
「……高木さんって、本当に同学年?」
さっきからデス子ちゃんの視線が冷たいけど、知らなかったから仕方ないじゃないの!
それに、さっきから久我? と思われる人は笑いすぎです。
「ハッハッハ! タカマチくんは本当に面白いなぁ! 流星くんも良い人材を見つけてきたね!」
「俺の目に狂いはない」
「これは、あのとき流星と引き合わせて正解だったみたいだね!」
「えっ」
あの時っていうと、突発で決闘を挑まれた時?
「申し遅れたけど、タカマチくんに奢るのは二度目だ……それとも」
そういって、隣の男性は一旦区切り、バリトンボイスで話し出す。
「……こっちのほうが良いか? 酒場であったお嬢さん」
私のフレンドの一人。
自らを傭兵と称するクルセイダーさんが、そこにいた。
導入の日常回です。




