今こそ私のターンなの!
私が気づいたことで、他のメンバーも後ろを振り返る。
しかし、足を止める者は誰一人いない。
「ちょうど良い。奴に追いつかれた者が負けだ」
「あまり距離を取ると、周回できずに攻撃されそうね」
なんで遠距離攻撃してこないの?
と疑問に思うけど、もしかしたらあの邪神、接近戦しか出来ないのかも知れない。
だとしても、周回することが前提となっている以上、あまり距離を取りすぎるとショートカットして攻撃される恐れもある。
……だって、本来はレイドバトルだし。
「まずは方向転換しろ。それから迎え撃つ」
「どういうことですか?」
「フェンリルを呼び寄せた場所にはラプターイーグルを残している。アイツを目指してターンを決め、邪神に突撃しろ」
さも当然のように言うけど、盗賊さんはギルドの一員ではない。
なのでゴッドウィンドも使えないはずだけど……。
「……わかりました。捨て身の攻撃で邪神を倒した者が勝者というわけですね」
「ああ」
「いや、違うでしょ」
さっき出てきたばかりだからあの邪神、蓄積ダメージが全くないけど?
そんなので突撃しても散るだけじゃないの?
「違うのか?」
「違いますか?」
「違うの?」
「え?」
こいつ何いっていんだ? という目で見られるけど、また私が間違っているのかしら?
突撃するのが正解で、もしかしたら簡単に倒せるのかも……。
そんなことを考えているうちに、私たちは並んで長老を追い越す。
あとはターンして、反対側のラプターイーグルが残された場所……目印まで突っ走るだけなのだけど、邪神をこちらに引きつけてからでないと妨害されかねない。
つまり、邪神が長老を抜かした後にどれだけタイミングよく駆け抜けるかが勝負の分かれ目だ。
そのためにはターンするタイミングが重要になってくる。
邪神は走ってくる。
流星は減速して長老と邪神の距離を見計らっている。
盗賊さんは駆けるのをやめ、タイミングをみてダッシュするようだ。
デス子ちゃんは……もうコタロウ任せだからいいかな。
コタロウは長老とじゃれているけど、そこが一番危ないからね?
私は流星の隣をキープ。
彼の抜け駆けは許さない。許さない……けど。
「そういえば……どうして私、レースに必死なの?」
「考えるな、感じろ」
冷静になったら負けな気がする。
先程まで迷いのなかった盗賊さんも、私の言葉を聞いて少し悩んでしまったようだ。
そしてようやく、邪神が長老のすぐ近くまで追いついてきた!
狙いはコタロウ……フェンリルに一直線のようだ。
「コタロウ! 待て、待て……GO!」
「ワンッ!」
「やっぱり犬……もうなんでもいいや」
フェンリルを狙った邪神は、もうすぐ捉えるといったところで避けられる。
そして同時に、流星と私はラプターイーグルの場所まで駆ける。
盗賊さんも一足遅れて走ってくるけど、囮を引き受けたデス子ちゃんもコタロウに乗って付かず離れずで追いかけてくる。
「フッ、やるなお前たち」
「そもそも、なんでアイツは攻撃してこないのよ!」
「アレは邪神くずれだ。腕力と脚力はあるが、魔力はない」
「つまり接近戦でしか攻撃しないってこと?」
「ああ。あとは足が速い分、常人なら逃げ切れない。だが、俺達は違う」
そう言い、さらに加速する流星。
その速度は、スキルを使っていないのにAGI600は行きそうだ。
私は少しずつだけど引き離されていく。
「ぐっ、差が開くなんて!」
「言っておくが、フェンリルを召喚している限り、召喚者の全ステータスは+100される」
「なんですって!」
「俺は実力を隠していただけにすぎない」
たしかに流星の召喚は初めて見た。
けど、ここまでのモノだったなんて!
私は二位の順位を保っているけど、盗賊さんとデス子ちゃんとの差も徐々に埋まってきている。
……どうしよう。
さっきフルバーストしたばかりだし、私には加速の手段がもう……。
そうこうしているうちにも、流星は一足先にラプターイーグルの場所まで行き、ターンを決める。
一瞬だけ視線が合ったけど、その顔は……笑っていた。
「……アイツ!」
「そんなスピードで大丈夫なのですか?」
「あっ!」
流星の顔を見て気が動転したタイミング、少しだけこちらの速度が落ちた隙きを狙って盗賊さんに抜かされた。
つまり、デス子ちゃんもすぐ後ろにいるわけで。
「ワオォォォォォォオン!!」
「うるさいわね!」
……すぐ後ろで、遠吠えが聞こえた。
流星は既に邪神へと突撃姿勢に入っている。
盗賊さんはようやくターンを決めたあたりだ。
といっても、彼女は走っているだけなので一番ロスが少ない。
デス子ちゃんのブーツならともかく、あの犬も動物の身のこなしで素早くターンを決めるだろう。
つまり、私だけがさらに遅れる。
「こうなったら……やるしかないわね」
ロスなくターン。
さっき流星がやったようなV字ターンではなく、空を飛べることを活かした実質360°の方向転換。
つまり、私だけに許された特権。
「これが私の本気よ……空中宙返り!!」
「なっ!」
すぐ目の前にいた盗賊さんが驚いているけど、ルール的には長老さえ跨げば問題ない。
なら、斜めに飛んで折り返せばオッケーなはず。
ターンが素早い流星すらドリフト気味で折り返すけど、私が空を飛べる利点を見逃すわけないじゃない!
「だって飛ぶのが好きだから!」
あとは私の加速、そしてロスなしのターンでどれだけ加速できるかやってやろうじゃないの!
……邪神? そんなのもいましたね。
プロデューサーの集うライブで元気をもらいました。
なるべく週3の更新を目指します。




