第83話 お揃いの髪飾り
「マリー、あちらのお店を見にいきましょう!」
花園の小道を歩いていたリリアーナは、道の先にある小さな売店を見つけると、ぱっと顔を輝かせた。
木造の店先には、花をあしらった小物が並んでいる。乾燥させた花を閉じ込めた小さな飾りや、花びらを模したブローチ、色とりどりのリボン。そして、細い金具に小さな花を添えた髪飾りもあった。
「どれも可愛らしいですわ!」
リリアーナは並んだ品々を前に、目を輝かせた。
先ほど花壇の前でマリーと交わした会話を思い出す。
お揃いの髪飾り。
そう考えただけで、胸の奥がくすぐったくなるような嬉しさが込み上げてきた。
リリアーナが手に取ったのは、小さな白い花を二輪あしらった髪飾りだった。花の中心には淡い桃色の石が埋め込まれ、細い葉を模した飾りが添えられている。華美すぎず、それでいて花園の思い出にふさわしい品だと思った。
「まあ、可愛らしいですね。白いお花がとても綺麗です」
「でしょう? こちらなら、わたくしにもマリーにも似合いそうですわ!」
「私にも、ですか?」
マリーは少し驚いたように目を丸くした。
「ええ。マリーの髪にも、きっとよく映えますわ。それに、わたくしだけが身につけるのでは、お揃いになりませんもの!」
リリアーナはそう言って、もう一つ同じ髪飾りを探し始めた。
ところが、棚に並んでいるのは花の色や形が少しずつ違うものばかり。白い花の髪飾りは残り一つしか見当たらない。
「店員さん、この髪飾りと同じものは、ほかにもございませんか?」
「少々お待ちくださいませ。こちらの箱に、同じものがもう一つございますよ」
店員が奥から小箱を取り出し、同じ髪飾りを並べて見せてくれた。
「まあ! ありがとうございます!」
リリアーナは二つを並べ、じっくりと見比べた。
花びらの形も、桃色の石の輝きも、ほとんど同じ。
けれど、よく見ると一方の花はほんの少しだけ右を向き、もう一方は左を向いている。
(まるで、並んで咲いているお花みたいですわ!)
そんなことを考えると、ますますこの髪飾りが気に入ってしまった。
「こちらを二つ、お願いいたします」
「かしこまりました」
店員が小箱に入れて丁寧に包もうとすると、リリアーナは慌てて声をかけた。
「そのままで大丈夫です、すぐつけますから!」
「ふふっ、かしこまりました」
「ありがとうございます! こちらはわたくしの分、そしてこちらはマリーの分ですわ!」
リリアーナは受け取った一つを、両手でマリーへ差し出した。
「マリー、今日の旅行の記念です。お揃いで一緒につけませんか?」
マリーは照れくさそうにするリリアーナの顔と髪飾り見つめ
「本当にいただいてよろしいのですか?」
「もちろんですわ! マリーとお揃いの物がほしかったのですもの。それに……」
リリアーナは少しだけ声を小さくした。
「いつもわたくしの髪を綺麗に整えてくださるでしょう? 今日は、マリーにもわたくしと同じように、おしゃれを楽しんでいただきたいのです」
マリーの頬が、ほんのりと赤くなった。
「……ありがとうございます。大切にいたしますね」
「ふふ、今すぐつけてみませんこと?」
リリアーナは待ちきれない様子で、自分の小箱を開けた。
髪飾りを取り出し、鏡の代わりに店先の磨かれた小さな金属板をのぞき込む。けれど、慣れない手つきでは、なかなか思いどおりの位置に留められない。
「むむ……。もう少しこちらでしょうか?」
「リリアーナ様、私がお手伝いいたします」
マリーは微笑みながら、リリアーナの髪へそっと手を伸ばした。
いつものように手早く髪を整え、白い花の髪飾りを留める。少し離れて全体を確かめると、マリーは満足そうに頷いた。
「はい、とてもよくお似合いですよ」
「本当ですの?」
「はい。白い花が、リリアーナ様の髪によく映えております」
「まあ……!」
褒められたリリアーナは嬉しそうに頬を緩めた。
「それでは、次はわたくしがマリーにつけて差し上げますわ!」
「えっ、リリアーナ様が?」
「もちろんですわ! お揃いなのですから、わたくしにもお手伝いさせてくださいませ」
リリアーナは真剣な顔でマリーの髪飾りを手に取った。
けれど、普段はマリーに整えてもらう側である。どこに留めれば綺麗に見えるのか、いざ自分でやろうとすると分からない。
「……こちらでしょうか?」
「もう少し上のほうがよろしいかもしれません」
「こ、こちらですの?」
「はい。あっ、少しだけ右へ……」
「み、右ですわね!」
二人は顔を見合わせ、とうとう笑い出してしまった。
「ふふっ、思ったより難しいですわね!」
「はい。でも、リリアーナ様がつけてくださるのなら、どこでも嬉しいです」
「マリー……!」
その言葉に感激したリリアーナは、今度こそ慎重に髪飾りを留めた。
白い花が、マリーの髪にそっと咲く。
「できましたわ!」
「ありがとうございます、リリアーナ様」
二人は並んで店先の鏡をのぞき込んだ。
同じ白い花が、それぞれの髪に揺れている。
同じものなのに、身につける人が違えば、違った印象になる。リリアーナの髪飾りは明るく華やかに見え、マリーの髪飾りは落ち着いた優しさを添えていた。
「まあ……素敵ですわ!」
リリアーナは自分の髪飾りに触れ、それからマリーの髪を見上げた。
「マリー、今日はずっとこれをつけていてくれませんか?」
「はい。もちろんですとも」
「そして、お屋敷に帰ってからも、ときどき一緒につけましょう!」
「ふふ、かしこまりました」
二人はもう一度、顔を見合わせた。
髪に揺れる、同じ白い花。
それを見るたびに、今日の楽しい思い出がよみがえるに違いない。
二人は顔を見合わせ、嬉しそうに笑い合った。
あと数話で学園編って決めてたのに、まだ書きたいことがあるから90話くらいからになりそうです:( ;´꒳`;):
次は11時頃に投稿予定です。
次回 《氷の才女、セシリア・ヴァイス》ですわ!




