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転生先は悪役令嬢?破滅ルート?そんなことより推し「モブ文官」に全力推し活ですわ!!〜推し活令嬢はハッピーエンドを望まない〜  作者: 逢華
第2章 リリアーナ(11) やっぱり推しは最高ですわ!

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第82話 花園で見つけたもの

「まあ……! お花がいっぱいですわ!」


花園の入口をくぐったリリアーナは、目の前に広がる景色に瞳を輝かせた。色とりどりの花が小道の両側を埋め尽くし、奥には花で飾られた東屋や、木々に囲まれた庭が見える。風が通るたびに花の香りが広がり、町の中にいたときとは違う、穏やかな時間が流れていた。


「リリアーナ様、あちらをご覧ください。白い花の向こうに、桃色のお花が咲いておりますよ」


マリーが指さした先には、丸みを帯びた花びらを幾重にも重ねた花が並んでいた。リリアーナはそちらへ駆け寄ろうとして、ふと思い出したようにマリーを振り返る。


「マリーも一緒に見ましょう! わたくしだけでは、見落としてしまうお花があるかもしれませんもの」


「はい。リリアーナ様と一緒なら、きっとたくさん見つけられますね」


マリーは笑顔で手を差し出した。リリアーナがその手を取ると、二人は並んで花壇の前へ向かう。リリアーナは花の形や色の違いを見比べ、気に入った花を見つけるたびにマリーへ話しかけた。マリーも一つひとつ丁寧に応じながら、リリアーナが花壇に近づきすぎないよう、さりげなく歩く位置を調整している。


やがて、リリアーナは白い小花が集まって咲く一角で足を止めた。


「マリー、このお花を髪に飾ったら、どんなふうになるかしら?」


「きっとお似合いになると思います。でも、こちらのお花は摘まずに眺めて楽しみましょう。お土産にするのでしたら、売店で花を使った髪飾りを探すのはいかがですか?」


「まあ、それは素敵ですわ! マリーも一緒に選んでくださる?」


「もちろんです。リリアーナ様のお気に入りを、私も一緒に探したいですから」


その返事にリリアーナは嬉しそうに微笑み、今度はマリーの髪を見上げた。いつも自分の身支度を整えてくれるマリーにも、花の髪飾りは似合うに違いない。二人でお揃いのものを選んだら、今日の思い出が形に残る。そんな考えが浮かび、リリアーナは胸を弾ませた。


「ねえ、マリー。わたくしたち、お揃いにしませんこと?」


「私も、ですか?」


「ええ! 今日の旅行の記念ですわ」


マリーは一瞬驚いたあと、柔らかな笑顔で頷いた。


「それでは、リリアーナ様と一緒に選ばせてくださいませ」


二人の様子を後ろから見守っていたエレノアは、懐かしそうに目を細めた。


「楽しそうね。私たちも、学院にいた頃はよく一緒に髪飾りを選んだものよね、セシリア」


「ええ。エレノアが気に入ったものを見つけると、授業の時間ぎりぎりまで眺めていらしたこともありましたね」


「もう、そんなことまで覚えているの?」


「忘れるはずないでしょ。私が何度声をかけたことか」


セシリアの返事はいつもとは違い、その目元には懐かしい笑みが浮かんでいた。エレノアもそれに気づき、いたずらを思いついた少女のように彼女の顔をのぞき込む。


「でも、あなたも私が選んだ髪飾りを欲しがったことがあったでしょう?」


「……それは、エレノアがどうしてもお揃いにしたいと言ったからです」


「そうだったかしら?」


「そうでしたよ」


きっぱりと言い切るセシリアに、エレノアはとうとう笑い声をこぼした。学院時代から変わらないやり取りに、二人の間には主従という立場だけでは言い表せない親しさがにじんでいる。


「今日はお仕事のことは忘れて、あなたも楽しんでちょうだい。せっかく久しぶりに遠出をしたのだもの」


「……エレノア」


セシリアは周囲に聞こえないほどの声で、彼女の名を呼んだ。


「そうね。今日は、あの頃みたいに楽しみましょう」


エレノアが差し出した手を、セシリアは自然な動作で取った。二人が並んで花を眺める姿は、学院の庭を歩いていた頃と重なるようだった。


アルベルトはそんな妻たちの様子を微笑ましく見守りながら、リリアーナとマリーに声をかけた。


「この先にも見どころがあるそうだ。みんなで回ってみようか」


「はい、お父様!」


リリアーナは元気よく答え、マリーと手をつないだまま小道を進んでいった。花壇を眺め、東屋の装飾に感心し、木陰に咲く珍しい花を見つけては家族に知らせる。花園を歩く時間は、思っていた以上に楽しかった。


ところが、奥へ進むにつれて、リリアーナは何度も同じ方向へ目を向けるようになった。


木々の間に、細い小道が続いている。案内板には特別な説明もなく、入口から見たときには気にも留めなかった場所だった。それなのに、なぜかそちらが気になって仕方がない。誰かに呼ばれたわけでも、何かが見えたわけでもない。ただ、あの道の先を確かめなければいけないような気がした。


「リリアーナ様、どうかなさいましたか?」


マリーに尋ねられ、リリアーナは自分の胸元に手を当てた。


「あちらが気になりますの」


「奥にもお庭があるようですね。行ってみましょうか」


リリアーナは頷き、アルベルトたちのもとへ戻って小道のことを伝えた。アルベルトは案内板を確かめ、通行できる場所だと分かると、家族そろってそちらへ向かうことにした。


小道の先は、入口付近の華やかな花壇とは違い、木々の間に花が自然に咲く静かな庭だった。白い花が足元を彩り、背の高い草花が風に揺れている。人の声も遠くなり、葉擦れの音がよく聞こえた。


リリアーナは歩きながら、何かを探すように周囲を見回した。けれど、何を探しているのか自分でも分からない。


やがて小道が緩やかに曲がったところで、リリアーナは立ち止まった。


「……ここですわ」


木の根元に、小さな花壇があった。周囲には白い花が咲いているのに、中央だけは土がむき出しになっている。近くの花はきれいに咲いているため、そこだけ空いている様子がかえって目立っていた。


「この花壇は、どうしてここだけ咲いていないのでしょう?」


リリアーナが不思議そうに眺めていると、庭の管理をしている女性がやって来た。


「お客様、その花壇が気になりますか?」


「はい。周りにはたくさんのお花が咲いているのに、ここだけ何もありませんわ」


女性は困ったように頷いた。


「実は、ここだけ花が咲かないのです。土を入れ替えたり、水や肥料を調整したりもしましたが、原因が分からなくて……。せっかく訪れてくださった方に楽しんでいただきたいのに、私たちも困っております」


「そうだったのですね……」


リリアーナは花壇の前にしゃがみ、土の様子を眺めた。すると、むき出しの土の奥で、何かが淡く光ったように見えた。


「お父様、あそこに何かありますわ」


アルベルトが土の隙間を確かめると、そこには淡い光を帯びた石が埋まっていた。


その光を目にした瞬間、リリアーナの表情が変わった。


(嘘……! まさか、あれは……!)


石の色も、内部に浮かぶ光も、見覚えのあるものだった。リリアーナが知っている魔石に、よく似ている。


けれど、この魔石が見つかるのは花の町ではない。もっと遠く離れた山間の地域で、原作の物語が進んだ先に登場するはずのものだった。


(どうして、ここにありますの!? この魔石は、本来ならこんな場所にあるはずでは……!)


旅行先を考えていたとき、リリアーナは原作知識を頼りに、この魔石が手に入る地域を候補に挙げていた。しかし、今回は家族との時間を楽しむため、そこへ行くことは選ばなかった。それなのに、まったく別の場所で、探してもいなかった魔石が見つかったのだ。


「リリアーナ、どうしたんだい?」


アルベルトに声をかけられ、リリアーナは慌てて顔を上げた。


「お父様……その石、慎重に扱ってくださいませ」


「何か知っているのかい?」


「そ、それは……」


本当のことを話すわけにはいかない。リリアーナは答えに詰まり、もう一度、土の中の石へ目を向けた。どうしてここにあるのか、なぜ自分がこの場所へ導かれるように歩いてきたのか、考えても答えは出なかった。


「この石を取り出しても構いませんか?」


アルベルトが庭の管理者に尋ねると、女性はすぐに頷いた。


「もちろんでございます。花が咲かず困っておりましたので、原因が分かるのでしたらお願いいたします」


許可を得たアルベルトは、周囲の土や根を傷つけないよう注意しながら石を取り出した。手のひらに収まるほどの石は淡い色をしており、内部には光の筋のようなものが浮かんでいる。アルベルトが角度を変えて確かめると、その光が石の内側で揺れた。


「魔力を帯びているようだね。詳しいことは、調べてみなければ分からないが……」


「その石が、花の咲かない原因なのでしょうか?」


管理者の女性が不安そうに尋ねると、アルベルトは花壇へ視線を向けた。


「可能性はあります。ただ、今の段階では断定できません。調査のために私が預かり、分かったことをご報告するという形でもよければ、調べてみましょうか?」


「よろしいのですか?では、どうかお願いいたします」


正式に依頼を受けたアルベルトは、石を布で包んだ。そのとき、リリアーナが花壇を指さした。


「お父様、あちらをご覧になって!」


石が埋まっていた場所の近くで、固く閉じていたつぼみが開き始めていた。白い花びらが広がり、その隣でも、さらに奥でも、眠っていた花が目を覚ますように咲いていく。


「まあ……!」


管理者の女性は息をのみ、花が咲かなかった場所を見つめた。


「こんなことが……。何をしても咲かなかったのに……!」


「石を取り出したことが関係しているのかもしれませんね。ですが、詳しいことは調査してからお伝えします」


アルベルトは花壇の変化を確かめてから、預かった石を大切にしまった。管理者の女性は何度も礼を述べ、これから花壇の様子を記録していくと約束した。


リリアーナは、咲き始めた花を見つめていた。花が再び咲いたことは嬉しい。けれど、それ以上に気になるのは、なぜこの場所に魔石があったのかということだった。


原作では、遠く離れた山間の地域で見つかるはずだった魔石。それが今、花の町の花園に埋まっていた。自分が知っている物語とは、明らかに違っている。


(……わたくしの知らないところで、何かが変わっている?)


答えは出なかった。それでも、せっかく家族と訪れた花園で、不安な顔ばかりしているわけにはいかない。


「お母様、あちらのお花も見に行きませんこと?」


リリアーナが声をかけると、エレノアは優しく微笑んだ。


「ええ、行きましょう」


マリーもリリアーナの隣に並び、エレノアとセシリアも連れ立って歩き始めた。アルベルトは預かった石を確かめるように懐へ手を添えてから、家族のあとを追った。


リリアーナは歩き出す前に、もう一度だけ花壇を振り返った。咲き始めた花々の向こうに、先ほどまで石が埋まっていた場所が見える。


(あの魔石は、本来ならここにはないはずですのに……)


気になることは増えてしまったけれど、今は家族との旅行を楽しみたい。リリアーナは胸の中に疑問をしまった。


「次はどのお花を見に行きましょうか?」


「そうね。今度はあちらの庭を見てみましょうか」


エレノアの返事に、リリアーナは笑顔で頷いた。


花園には、まだ見ていない花がたくさんある。今日の思い出を大切にしながら、リリアーナは家族と一緒に小道を歩き始めた。


物語の展開にあれこれ悩んでいたら、思った以上に時間が経っていました(× × )

悩んだ分、楽しんでいただけるお話になっていたら嬉しいです!


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