第79話 成長中のお嬢様
「リリアーナ様。この問題、どのように考えればよいか説明していただけますか?」
マダム・ヴァレンティーノが差し出したのは、複数の条件を整理して答えを導き出す問題だった。
「まず、こちらの数字を比べますわ。そうすると、次に確認すべきところが分かりますもの」
リリアーナは答案の一部を指で示しながら、順序立てて説明していく。
「なるほど。では、条件が一つ増えた場合はいかがでしょう?」
「その場合は、先ほどの計算をそのまま使うのではなく、こちらを先に確かめますわ」
迷いのない返答に、マダムは答案へ目を落とした。
正解を出すだけではない。なぜその答えになるのか、別の条件ならどう変わるのかまで理解している。
「大変よくできています。以前よりも、物事を順序立てて考える力が身につきましたね」
「本当ですか?」
「ええ。知識を覚えるだけでなく、自分で考えて答えを導き出せるようになっています」
リリアーナの顔がぱっと明るくなった。
(やりましたわ! これなら王立学園へ進んでも、きっと困りませんわね!)
「ありがとうございます、マダム! 次の問題もお願いいたしますわ!」
「その意欲は素晴らしいですが、今日はここまでにいたしましょう。続きは明日の授業で」
「……もう終わりですの?」
「十分に集中して取り組まれましたからね」
マダムが教材を片づける間、リリアーナは解き終えた答案を見直した。間違いはない。自分の考えを言葉にして説明できたことが、何より嬉しかった。
♢
「お嬢様、お着替えをお手伝いいたしますね」
授業を終えて自室へ戻ると、マリーが新しい服を用意して待っていた。
袖を通し、背中の留め具を留めてもらう。ところが、胸元の布が以前より張っていることに気づいた。
「マリー。こちらの服、前より窮屈になっていませんこと?」
「そうですね。丈も少し短くなっていますし、胸周りも余裕がなくなってきています」
「まあ……!」
リリアーナは鏡の前に立ち、姿を確かめた。
いつの間にか背丈が伸び、以前は余裕のあった服も合わなくなっている。
「わたくし、ちゃんと大きくなっているのですわね」
「はい。お嬢様は成長なさっていますから」
「でしたら、新しい服を仕立てる必要がありますわね。今度はどんなデザインにいたしましょう!」
鏡の中の自分を見つめながら、リリアーナは新しい服のことを考え始めた。
♢
夕食後、家族が集まる食堂には、エレノアが用意したケーキが運ばれてきた。
「今日はリリアーナの好きなケーキにしてもらったのよ」
「まあ! ありがとうございます、お母様!」
「授業も頑張っていると聞いたよ。マダムからも、理解力が伸びていると報告を受けた」
アルベルトの言葉に、リリアーナは嬉しそうに頷いた。
「はい! 今日の問題は、自分の考えを説明することもできましたの」
「それは素晴らしい。これからも楽しみだね」
「お父様、わたくし、もっと勉強を頑張りますわ!」
「期待しているよ。ただし、無理はしないようにね」
エレノアが切り分けたケーキを前に、リリアーナは目を輝かせた。
「いただきます!」
ひと口食べると、甘いクリームと果物の味が口いっぱいに広がる。
「おいしいですわ!」
「気に入ってくれてよかったわ」
家族に祝ってもらい、今日できるようになったことを話し、大好きなケーキを食べる。そんな何気ない時間が、リリアーナにはたまらなく幸せだった。
(勉強も、成長することも、家族と過ごす時間も。全部、大切にしていきたいですわ)
リリアーナはもうひと口、ケーキを頬張った。
十一歳の毎日は、今日も温かく過ぎていく。




