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転生先は悪役令嬢?破滅ルート?そんなことより推し「モブ文官」に全力推し活ですわ!!〜推し活令嬢はハッピーエンドを望まない〜  作者: 逢華
第2章 リリアーナ(11) やっぱり推しは最高ですわ!

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第75話 グラーツ商会の影⑤

グラーツ伯爵家への正式な調査が始まったことで、三つの領地には商務局から新しい通知が届いていた。


今後の販売先を、自由に選んでよい。


フェルナー領にも、その知らせは届いた。


「……これで、好きな相手に売れるようになるのですね」


書類を読み終えたフェルナー男爵は、しばらく黙っていた。


長く続いてきた取引を、突然変えるのは簡単ではない。


それでも、決められた相手に安い価格で売り続ける必要はなくなった。


そして、その数日後。


フェルナー領へ、一通の商談書が届いた。


差出人は、アドラー商会。


提示された買い取り価格は、これまでの契約価格より高かった。


「……本当に、これで利益が出るのですか?」


フェルナー男爵は、商談書を何度も読み返した。


「材料費が上がった場合は、価格を見直す……」


さらに、一定量をまとめて購入する場合は、事前に条件を協議する。


そして、フェルナー領がアドラー商会以外へ商品を売ることも妨げない。


「ここまで……」


男爵は書類から顔を上げた。


「こちらに都合のいい条件ばかりではありませんか?」


もちろん、アドラー商会にも利益は残る。


フェルナー領から適正な価格で仕入れ、王都で必要とされる価格で販売する。


その差額が、商会の利益になる。


慈善事業ではない。


互いに利益があるからこそ、長く続けられる。


やがてフェルナー領から、取引を前向きに進めたいという返事が届いた。


その報告を受けたアルベルトは、執務室で商談書に目を通した。


「これでいい」


向かいに立つヴィクターが頷く。


「フェルナー領にも利益が残り、こちらにも商会としての利益が残る。長く続けられる取引になります」


「ああ」


アルベルトは書類を閉じた。


今回の問題は、単純に買い取り価格が安かったことだけではない。


売る相手が限られていた。


価格を上げたくても、取引を失う恐れがあった。


だから材料費が上がっても、同じ価格で作り続けるしかなかった。


ならば。


「選べるようにすればいい」


「はい」


「アドラー家が助けた、という形にはするな」


アルベルトはヴィクターを見る。


「フェルナー領が、自分たちの力で商売を続けられるようにする。それだけだ」


「承知しました」


その頃。


第三文官執務室では、シードが新しい資料を確認していた。


「この条件なら、長く続けても問題なさそうです」


室長が資料を覗き込む。


「お前は商売まで分かるのか?」


「いえ。計算しただけです」


シードは少し困ったように笑った。


「販売価格から輸送費と保管費を引いても、利益は残ります。ただ、材料費が上がった場合は、今の価格のままだとフェルナー領側が苦しくなります。その場合は、再交渉したほうがいいと思います」


「なるほどな」


室長が頷いた。


シードは資料へ視線を戻す。


そこには、フェルナー領という名前があった。


木工品を作る人たちがいる。


材料を仕入れ、手を動かし、完成したものを売って暮らしている。


その人たちが、作ったものに見合った金額を受け取れる。


それだけでも、今回の調査には意味があったのかもしれない。


そして数日後。


アドラー侯爵邸。


アルベルトは執務室で、先ほど届いた報告書を閉じた。


フェルナー領との取引は、無事に決まった。


アドラー商会にも利益が残る。


フェルナー領にも利益が残る。


そして何より、これからはフェルナー領自身が売る相手を選べる。


「……これなら問題ないな」


アルベルトは椅子から立ち上がった。


「リリアーナにも、明日話しておくか」


その頃、王宮では――。


グラーツ伯爵家への調査について、最終的な報告をまとめる準備が進められていた。


五年以上前から続いていた取引。


三つの領地。


安い価格での買い取り。


王都での高値販売。


そして、その差額の一部をグラーツ伯爵家へ戻す仕組み。


残る問題は二つ。


なぜ実際の販売価格を王宮へ報告しなかったのか。


そして、その報告を誰が指示したのか。


調査は、まだ終わっていなかった。

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