第74話 グラーツ商会の影④
商務局へ提出された資料は、その日のうちに正式な調査案件として扱われることになった。
第三文官執務室には、商務局から追加の照会が届いた。グラーツ伯爵家と関係商会の取引について、さらに詳しい資料が求められている。
「キャメロン、昨日までに確認した内容をまとめてくれ」
「承知しました」
シードは机の上へ資料を並べた。
フェルナー領の木工品。別の領地の布製品。さらに別の領地の革製品。
それぞれの契約書、販売記録、入金記録。そして、グラーツ伯爵家と関係商会との契約書。一つずつ確認しながら、シードは事実だけを書き出していく。
領地が受け取ったのは、最初に結ばれた契約通りの金額だった。
ところが、その商品は王都で、それより高い価格で販売されている。その差額の一部は関係商会へ支払われ、さらにその一部がグラーツ伯爵家へ戻っている。
そして王宮へ提出された販売記録には、実際に売れた高い価格ではなく、領地との契約に使われた低い価格が記載されていた。
「……ここまでなら、記録上は確認できます」
シードが報告書を室長へ渡す。
「問題は、誰の指示でこの形が作られたのか、ですね」
「そうだ」室長は頷いた。
「だから、グラーツ伯爵家に説明を求める」
その日の午後、商務局から正式な通知が届いた。
グラーツ伯爵家に対し、関係商会との契約内容、過去六年間の販売価格、入金先、そして王宮へ提出した価格報告について説明を求めるというものだった。
シードは通知書を読み終えると、静かに息を吐いた。
「これで、先方の説明が聞けますね」
「ああ。ここからは証拠と説明を照らし合わせることになる」
翌日、商務局から最初の返答が届いた。
グラーツ伯爵家は、関係商会との取引について「通常の仲介取引だった」と説明していた。
販売価格についても、最終的な価格設定は関係商会が行ったものであり、グラーツ伯爵家が直接関与したものではないとしている。
シードはその説明を読み、すぐに契約書を開いた。
「……契約と合いません」
「どこがだ?」
室長が尋ねる。
「こちらです」
シードは契約書の条項を指した。
「販売によって生じた差額の一部を、グラーツ伯爵家へ精算することが明記されています」
さらに入金記録を並べる。
「実際に、その金額もグラーツ伯爵家へ入っています」
室長が資料を見比べた。
「つまり、販売価格を決める商会に任せていたというだけでは説明できない」
「はい」
シードは頷いた。
「少なくとも、販売価格によって生じた差額から利益を受け取っていたことは確認できます」
そこへ商務局の担当者が入ってきた。
「第三文官執務室の資料と、こちらの調査結果を合わせました」
担当者が新しい書類を机へ置く。
「三つの領地について、同じ仕組みが確認されています。期間も一致しています」
シードは資料を受け取った。
「五年前からですか?」
「はい。少なくとも五年以上前から同じ形です」
さらに担当者は続けた。
「王宮への報告についても、実際の販売価格と一致していない記録が複数確認されました」
室長が顔を上げる。
「グラーツ側は?」
「現在、説明を求めています」
「そうか」
室長は書類を閉じた。
「では、こちらから追加で確認すべき点をまとめよう」
シードも新しい紙を取り出した。
誰が販売価格を決めたのか。
なぜ王宮には低い価格を報告したのか。
なぜ差額の一部がグラーツ伯爵家へ戻っているのか。
そして、この仕組みを誰が始めたのか。
一つずつ確認していけばいい。
最初に見つかったのは、帳簿から消えていた十二点の木工品だった。それが三つの領地へつながり、五年以上続いた取引へつながった。
そして今、その金の流れはグラーツ伯爵家の名前までたどり着いている。
シードは最後の資料を整えた。
もう、ただの帳簿上の不一致ではない。
誰が何をしたのか。
その答えを、記録が少しずつ示し始めていた。
明日でこの話も終わりそうです( ¯ᵕ¯; )
また明日よろしくお願いします(´˘`*)




