第73話 グラーツ商会の影③
数日後、第三文官執務室へ商務局から新しい書類が届いた。
シードが求めていた、グラーツ伯爵家と関係商会との直接契約。そのほかにも、過去の販売記録や入金記録までまとめられている。
「これで、ようやく確認できますね」
シードは契約書を机へ広げた。室長とニールも左右から紙面を覗き込む。
契約書には、グラーツ伯爵家と関係商会の間で、商品の販売と、その販売によって生じた差額の精算について取り決めが記されていた。
さらに、販売によって生じた差額の一定割合を、グラーツ伯爵家へ精算する条項まである。
「……ここだな」
室長が指を置いた。
「はい」
シードは頷いた。
「販売価格と仕入れ価格の差額から、グラーツ伯爵家へ金が戻ることになっています」
ニールが眉を寄せる。
「でも、グラーツが直接高く売っているわけじゃないんだろ?」
「はい。関係商会を通しています」
シードは別の帳簿を開いた。
「だから、今まで別々の取引に見えていました。でも、実際の販売記録と入金記録を重ねると、同じ金の流れが確認できます」
フェルナー領の木工品。
別の領地の布製品。
さらに別の領地の革製品。
商品も領地も違う。それでも、安い価格で買い取られた商品が王都で高く売られ、その差額の一部がグラーツとつながる商会へ流れている。
そして、その商会からグラーツ伯爵家へ金が戻っている。
「つまり……」
ニールが帳簿を見つめた。
「安く買って、高く売って、その差額を自分たちの利益にしていたってことか」
「記録上は、そうなります」
シードは答えた。
「ただし、まだ確認することがあります」
「何だ?」
「王宮へ、実際の販売価格がどう報告されていたのかです」
シードは販売記録と王宮へ提出された資料を並べた。
すると、三つの数字に違いがあった。
領地から買い取った価格。
王都で実際に売れた価格。
そして、王宮へ提出された価格。
三つが一致していない。
「……王宮への報告も違います」
室長が資料を手に取った。
「実際には、もっと高く売っているのに?」
「はい。王宮へ提出された記録には、実際の販売価格ではなく、契約上の低い価格が記載されています」
室長は黙って資料を見つめた。
「これが意図的だったと証明できれば、大きいな」
「はい」
シードは過去の資料へ手を伸ばした。
「だから、もう一度確認したいです。今だけではなく、昔から同じことをしていたのか」
三人は過去の記録を並べ直した。
五年以上遡っても、同じ仕組みが残っている。
安い価格で商品を買い取る。
それより高い価格で販売する。
差額の一部を関係商会へ流す。
その一部がグラーツ伯爵家へ戻る。
そして王宮へ提出された記録には、実際の販売価格が反映されていない。
「……もうかなり前から同じです」
シードが呟いた。
室長は古い契約書を閉じた。
「少なくとも五年前から続いていた、ということか」
「はい」
「三つの領地で?」
「確認できている範囲では、三つすべてです」
シードは静かに頷いた。
「これだけ同じ形が続いているなら、偶然では説明できません」
室長はしばらく考えたあと、書類をまとめた。
「商務局へ正式に報告する。ここから先は、第三文官執務室だけで判断する話じゃない」
「承知しました」
シードは書類を整理した。
最初は、帳簿に残っていなかった十二点の木工品だった。
その十二点を追った先で、三つの領地が同じ取引に巻き込まれていることが分かった。
そして今、その先にいたグラーツ伯爵家まで、金の流れがつながった。
事件は、ようやく全体の形を見せ始めていた。
次は11時頃に投稿予定ですので、是非読んでください(´˘`*)




