第70話 不透明な運び先
翌朝、第三文官執務室へ入ったシードは、室長の机に置かれた書類箱に気づいた。昨日まで調べていた、届け出のない倉庫についての追加資料だった。
「キャメロン。商務局から、倉庫の搬出記録が届いた。先日の照合と合わせて確認してくれ」
「承知しました」
シードは書類箱を受け取り、自分の席へ戻った。向かいではニールさんが別の資料を開いている。
「俺は布製品を見ます。フェルナー領の木工品は、キャメロンに任せても?」
「はい。こちらを確認します」
シードは木工品に関する資料を机へ広げた。
フェルナー領から王都へ入った木工品は百二十七点。そのうち九十二点が、届け出のない倉庫を経由している。
ただし、九十二点すべてが問題になっているわけではない。倉庫から搬出された後、通常の取引としてグラーツ商会の売上帳に記録されている商品もある。
シードが確認するのは、その九十二点の中で、搬出された記録があるにもかかわらず、グラーツ商会の売上帳に残っていない取引だった。
搬入記録と搬出記録を並べ、品目、数量、搬出先を順番に照らし合わせていく。木箱、小物入れ、花模様の髪飾り。最初の取引は帳簿にあり、次のものも問題なく記載されていた。
そのまま確認を続けていると、ある取引でシードの手が止まった。
十二点。
倉庫から搬出された記録はある。ところが、グラーツ商会の売上帳には同じ取引が見当たらない。
シードは念のため、搬入記録、倉庫の保管記録、搬出記録をもう一度確認した。数量はすべて一致している。書類番号も照らし合わせたが、写しを取り違えたわけではない。
百二十七点のうち、届け出のない倉庫を経由したものが九十二点。その中で、ここまで確認した範囲では十二点について、売上記録との不一致が見つかった。
しかし、これだけでは不正とは断定できない。
倉庫を借りている商会が商品を買い取っていたのであれば、グラーツ商会の売上として記載されていない理由も考えられるからだ。
シードが次の記録へ目を移したところで、ニールさんから声がかかった。
「キャメロン。布製品にも同じような取引がある」
「どのくらいありますか?」
「今確認できた範囲で八点だ。こっちは別の領地の商品になる」
シードは資料を受け取った。
こちらも倉庫への搬入記録と搬出記録は一致しているが、その一部がグラーツ商会の売上帳に載っていない。
「搬出先は?」
「三つある。そのうち一つは、さっきキャメロンが見ていた木工品と同じ商会だ」
シードは木工品の記録を取り出し、商会名を照らし合わせた。
確かに同じだった。
フェルナー領の木工品と、別の領地から入った布製品。そのどちらも届け出のない倉庫を経由し、その一部が同じ商会へ運ばれている。
「この商会が、倉庫を借りている商会から商品を買っている可能性もありますね」
「そうなると、グラーツ側の売上にないことだけでは判断できない」
「はい」
シードは二つの記録を並べた。
同じ商会へ商品が運ばれているという事実だけでは、まだ足りない。倉庫を借りている商会が誰から商品を買い、誰へ売ったのかが分からなければ、その取引が帳簿から外れている理由も判断できない。
「代金の流れを確認する必要があります」
シードは確認した取引の書類番号をまとめ、室長のところへ資料を持っていった。
「室長。確認したい取引があります」
「どれだ?」
「フェルナー領の木工品です。百二十七点のうち、届け出のない倉庫を経由したものが九十二点あります。その中で、十二点についてグラーツ商会の売上記録と一致しない取引が見つかりました」
室長が資料へ目を落とす。
「九十二点すべてではないんだな」
「はい。通常の売上として確認できているものもあります」
「それなら、まずは帳簿にない十二点の流れを確認する必要があるな」
「それと、別の領地の布製品にも同じような記録があります。こちらでは八点が確認できています」
シードはニールさんから受け取った資料を重ねた。
「さらに、木工品と布製品の一部が同じ商会へ運ばれています」
室長は二つの資料を見比べた。
「代金がどこへ入っているかを調べれば、倉庫を借りている商会が売買しているのか、それとも別の形で処理されているのか分かるか」
「はい。倉庫を借りている商会へ支払われているなら、その商会の取引として処理されている可能性があります。ですが、グラーツ商会へ代金が支払われているのであれば、売上帳に記録されていない理由を調べる必要があります」
「分かった。商務局へ確認を頼もう」
「お願いします」
シードは資料を渡して席へ戻った。
机の上には、先ほど確認した十二点の記録が残っている。
百二十七点のうち九十二点が、届け出のない倉庫を通っている。その中には帳簿と一致する取引もあれば、一致しない取引もある。
そして、別の領地の商品にも同じような不一致が見つかっている。
まだ、それだけで何かを決めることはできない。
けれど、同じ倉庫を経由した複数の領地の商品に、同じような記録が残っている以上、偶然として片づけることもできなかった。
シードは該当する取引の書類番号を整理し、商務局への照会資料へ添えた。
次に確認するのは、商品そのものではない。
その商品を誰が売り、誰が代金を受け取ったのか。
そこまで追えば、帳簿に残っていない取引が何を意味するのか、少しずつ見えてくるはずだった。




