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転生先は悪役令嬢?破滅ルート?そんなことより推し「モブ文官」に全力推し活ですわ!!〜推し活令嬢はハッピーエンドを望まない〜  作者: 逢華
第2章 リリアーナ(11) やっぱり推しは最高ですわ!

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第67話 繋がった二つの名前

翌朝、第三文官執務室へ入ったシードが最初に見たのは、室長の机に置かれた昨日の書類箱だった。封まで昨日のままになっている。


「おはようございます」


「おう。キャメロン、昨日の件だがな。商務局から返事が来るまで触るな。あっちでも確認するそうだ」


室長は朝一番の茶を飲みながら、机の上の紙を持ち上げた。


「分かりました」


シードはそのまま自分の席へ向かい、今日の仕事を手元へ引き寄せた。予算書、備品申請、支出報告。いつもの書類だ。


「気にならないのか?」


隣からニールが声を潜める。


「気にはなります。ただ、確認できないものは確認できませんから」


昨日の箱が視界に入る位置にあっても、やることは変わらない。シードは一枚目の予算書を開き、いつも通り数字を追い始めた。


昼前には最初の束を終え、次の書類へ手を伸ばしていた。


「失礼します。第三文官執務室の責任者はこちらで?」


扉を開けて入ってきたのは、見慣れない男だった。濃紺の上着の胸元には商務局の徽章がある。


「俺です」


室長が立ち上がると、男は一礼した。


「昨日お送りしたグラーツ伯爵家関係商会の照合について、確認したい箇所が見つかったと報告を受けました」


「キャメロン」


呼ばれたシードが席を立つ。室長は昨日の箱を開け、シードが書類番号を控えた別紙を取り出した。


「見つけたのはこいつです」


「説明をお願いできますか?」


「はい」


シードは机へ三種類の書類を並べた。フェルナー領から王都へ入った木製品の搬入記録、その一部を別の倉庫へ移した搬出記録、そして商会が提出している三年分の倉庫使用申請。


「こちらが最初に確認した記録です。搬入量が前年より増えていましたが、使用している倉庫の規模は変わっていませんでした」


「それで搬出記録を?」


「はい。商品をすぐ別の場所へ移しているのであれば、倉庫の規模とは関係ありませんから。ただ、確認したところ移動先として記載されている住所が、商会の申請している三つの倉庫に含まれていませんでした。同じ住所への搬出は、ほかの領地から入った商品でも確認できています」


シードがもう一枚を横へ置くと、男は二つの記録を見比べ、手帳へ住所を書き写した。


「この記録はお借りします。まず、この住所が何に使われているのか商務局で確認します」


「頼む」


室長が頷くと、男は鞄から新しい紙を取り出した。


「それと、今回の照合依頼について追加があります。この商会について調べてほしいという正式な照会が、アドラー侯爵家から出ています」


シードの目が、紙の上で止まった。


アドラー侯爵家。見間違えるはずがない。


「フェルナー男爵家との取引について調べているそうです。こちらで確認していた内容と重なったため、関連する記録をまとめることになりました」


フェルナーとアドラー。その二つの名前が並んだ瞬間、数日前のリリアーナ様が浮かんだ。


『リーネ様という、お友達ができましたの!』


フェルナー領から帰ったばかりで、工房を案内してもらったことも、友人ができたことも、本当に嬉しそうに話してくださった。


(……リリアーナ様)


けれど、リリアーナ様が今回の照会に関係しているとは限らない。侯爵家の仕事かもしれないし、フェルナー男爵家から相談を受けただけかもしれない。


「キャメロン?」


室長に呼ばれ、シードは顔を上げた。


「失礼しました。少し考え事をしてました」


「珍しいな。お前が仕事中にぼーっとするなんて」


商務局の男は書類を箱へ戻しながら続けた。


「第三文官執務室には、追加で過去五年分の照合をお願いする可能性があります。ただし、こちらの確認が先です。正式な依頼が届くまでは、昨日までの作業で止めておいてください」


「承知しました」


室長が答え、男は書類箱を持って執務室を出ていった。その扉が閉まるのを待っていたように、ニールがシードの机へ寄ってくる。


「アドラー侯爵家って、リリアーナお嬢様の家だよな? フェルナー領にも行ってたんだろ。だったら今回のこと、何か知ってるんじゃないか?」


「分かりません。リリアーナ様から伺ったのは、フェルナー領で楽しく過ごされたことだけです」


「次に来た時、聞かないのか?」


「聞きません」


シードは椅子へ座り、途中だった備品申請を開いた。


「侯爵家が正式に調べていることを、私が仕事で知ったからといって、リリアーナ様へ尋ねていい理由にはなりませんからね」


「……なるほど」


ニールが自分の席へ戻っていく。


シードは万年筆を手にしたものの、すぐには紙へ落とさなかった。


フェルナー領で友人ができたと話してくださったリリアーナ様。その数日後に出された、アドラー侯爵家からの照会。


何も知らないふりをする必要はない。けれど、仕事で知ったことをこちらから聞くつもりもなかった。


もしリリアーナ様が話したいと思ってくださるのなら、その時に聞けばいい。


シードは万年筆を持ち直し、途中だった備品申請の続きを確認し始めた。


その日の夕方、アドラー侯爵邸ではアルベルトが商務局から届いた書状を読んでいた。


「ヴィクトル。王宮側でも、同じ商会を調べ始めていたらしい」


「旦那様からの照会とは別に、ですか?」


「ああ。王宮の記録を照合する過程で、申請されていない住所が見つかったそうだ。しかも、そこへ運ばれているのはフェルナー領の商品だけではない」


アルベルトは書状を机へ置いた。侯爵家から調べられる範囲では追えなかった商品の行き先が、王宮側の記録から一つ浮かび上がってきたことになる。


「偶然でしょうか」


「まだ分からない。ただ、調べる場所は一つ増えたな。誰が所有している建物なのか、まずそこから確認してくれ」


「承知しました」


ヴィクトルが書状を受け取り、扉へ向かう。その背中をアルベルトが呼び止めた。


「それと、リリアーナにはまだ話さなくていい」


「よろしいのですか?」


「何か分かってからでいい。あの子はリーネ嬢のことになると、自分にもできることがないか探し始めるだろう?」


アルベルトは苦笑し、机の端に置かれたフェルナー家の資料へ目を落とした。


「今度は大人の仕事だ」


「かしこまりました」


扉が閉まると、アルベルトはもう一度、商務局から届いた書状へ目を戻した。


申請のない倉庫として記された住所。


その横には、所有者を確認中、と書かれていた。

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