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転生先は悪役令嬢?破滅ルート?そんなことより推し「モブ文官」に全力推し活ですわ!!〜推し活令嬢はハッピーエンドを望まない〜  作者: 逢華
第2章 リリアーナ(11) やっぱり推しは最高ですわ!

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第66話 存在しない倉庫

午後、商務局から届いた返事を読んでいた室長が、途中で眉を寄せた。


「キャメロン。ちょっと来い」


「はい」


シードが席を立つ。室長は手紙を机へ置き、午前中に並べていた倉庫使用申請を引っ張り出した。


「お前が確認したがってた運搬記録な。商務局にも同じ疑問があったらしい」


「同じ疑問ですか?」


「ああ。グラーツ伯爵家の関係商会について、仕入れた後の商品がどこへ行っているのか確認したいそうだ。今回うちへ照合を頼んできたのも、それが理由らしい」


室長が返事の下半分を指で叩く。


「追加の記録を回してくれる。ただし量が多い。倉庫からの搬出だけじゃなく、王都の門を通った荷の記録も一緒に確認してほしいとさ」


「分かりました」


「……お前、嬉しそうだな」


「そう見えますか?」


「見える。仕事が増えたんだぞ」


シードは自分の机に残っている書類を見た。


「確認できるなら、その方がいいです」


「そういうところだよ」


室長が肩を落とした。


夕方になると、今度は小さな書類箱が一つ届いた。


倉庫から商品を出した記録と、王都の各門を通過した荷の記録。シードは午前中に確認した搬入記録を左側へ置き、日付の近いものから順番に並べていく。


「これ、全部繋げるのか?」


ニールが隣から覗き込んだ。


「まずはフェルナー領から入った分を見ます」


「なんでそこから?」


シードの指が止まった。


数日前、リリアーナ様がフェルナー領の話をしてくださった。


工房で作られていた椅子のこと。友人に案内してもらった広場のこと。そして、嬉しそうに差し出してくださった焼き菓子。


『リーネ様のお気に入りなんですの』


あの時の笑顔まで浮かんだ。


「……最初に目についたので」


「そうか?」


「はい」


ニールは首を傾げたが、それ以上は聞かなかった。


シードは搬入記録を一枚取った。


木製品、百二十七点。倉庫への搬入日は六日前。その日から順に搬出記録を確認する。


翌日、三十点。同日午後、二十点。二日後、十五点。


「出てるな」


「はい」


ニールの言う通り、商品は倉庫から出ていた。これなら倉庫の大きさと搬入量が合わなくても不思議ではない。


シードは残りの記録も確認した。


三十、二十、十五。その後にも二回。


合計する。


「……九十二」


「入ったのはいくつだ?」


「百二十七です」


「残り三十五なら、倉庫に置いてあるんじゃないか?」


「その可能性はあります」


シードは確認済みの印をつけようとして、隣に置いた別の紙を見た。


王都の門を通った荷の記録。


倉庫から出た九十二点のうち、王都の外へ運ばれたものがあるなら、ここにも残っているはずだ。日付と商会名を追っていく。


「あったか?」


「同じ商会の荷はあります」


「じゃあ合ってるんじゃないか?」


「品目が違います」


シードは一枚を抜き出した。


商会名は同じ。日付も搬出日の翌日。だが、門を通った荷として記録されているのは布製品だった。


「木製品は?」


「ありません」


「王都の中で売ったとか」


「それなら問題ありません」


シードは別の搬出記録を取った。


搬出先の欄には商会名だけが書かれている。次も同じ。その次も。


「……全部同じですね」


「何が?」


「搬出先です。この商会の別倉庫へ移したことになっています」


「なら、その倉庫を見ればいいんじゃないか?」


「はい」


シードは倉庫使用申請を取った。


グラーツ伯爵家の関係商会が申請している倉庫は三つ。西区、南区、そして東区。


搬出先に記載されている住所と照らし合わせる。


シードの手が止まった。


「ありません」


「え?」


「この住所の倉庫です」


もう一度、三年分の申請を見る。


どこにもない。


ニールも横から住所を確認し、申請書を一枚ずつめくった。


「本当にないな」


「はい」


「申請を忘れてるだけじゃないのか?」


「その可能性もあります」


だから、まだ決めつけられない。


シードは該当する搬出記録だけを抜き、日付順に並べた。一枚ではない。二枚、三枚。同じ住所が何度も出てくる。


「室長」


「今度は何を見つけた」


「確認をお願いします」


室長が立ち上がり、シードの机まで来た。


シードは搬入、搬出、倉庫申請の三種類を順番に示す。


「フェルナー領から運ばれた木製品は、この倉庫へ入っています。その後、一部は別の倉庫へ移した記録があります」


「それで?」


「移動先として書かれている住所が、倉庫使用申請にありません」


室長の顔から、さっきまでの疲れた表情が消えた。


「何回ある?」


「今確認した範囲で三回です」


「ほかの領地から入った商品は?」


「まだ見ていません」


室長は書類を見たまま考え、ニールの机に置かれていた束へ目を向けた。


「キャメロン。そっちも確認してくれ。ただし、ここから先は書類を抜くな。見つけたものは全部そのまま残して、別紙に番号だけ控えろ」


「分かりました」


「ニール、お前も手伝え」


「はい!」


二人が席へ戻る。


今度はフェルナー領だけではない。同じ商人が商品を買い付けていた、別の領地の記録。


シードが一枚目を開いた。


搬入先、搬出日、移動先。


指が止まる。


「……室長」


「今度はなんだ!」


「同じ住所があります」


室長が椅子から立ち上がった。


シードはその住所を見つめた。


フェルナー領から運ばれた木工品。別の領地から運ばれた布製品。どちらも記録の上では、王都に申請されていない同じ場所へ運び込まれている。


室長は二枚の書類を手に取った。


「これ以上は、うちだけで触る話じゃないな」


「商務局へ?」


「ああ。向こうに返す。必要なら監査室も動くだろう」


シードは頷き、書類番号を別紙へ書き込んだ。その横には、まだ確認していない記録が残っている。


「キャメロン」


「はい」


「今日はそこまでにしろ」


シードが顔を上げた。


「まだ確認できますが」


「できるかどうかじゃない。ここから先は、商務局の返事を待ってからだ」


「……分かりました」


シードは万年筆へ蓋をした。


仕事が途中で止まるのは落ち着かない。それでも、勝手に進めていいものではないことも分かっている。


机の上の書類を順番通りに揃えていると、フェルナー領の文字がもう一度目に入った。数日前、友人ができたことを嬉しそうに話してくださったリリアーナ様の顔が浮かぶ。


シードは書類の端を揃え、箱へ戻した。


次にリリアーナ様がいらっしゃる時も、あんなふうに笑っていられればいい。


そう思いながら、最後の一束を箱へ収めた。

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