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転生先は悪役令嬢?破滅ルート?そんなことより推し「モブ文官」に全力推し活ですわ!!〜推し活令嬢はハッピーエンドを望まない〜  作者: 逢華
第2章 リリアーナ(11) やっぱり推しは最高ですわ!

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第63話 シード様へのお土産

フェルナー領から帰って数日。

リリアーナは小さな箱を両手で抱え、王宮の廊下を歩いていた。


箱の中に入っているのは、フェルナー領で買ってきた焼き菓子だ。砕いた木の実が練り込まれた丸い焼き菓子で、広場を案内してくれたリーネが一番好きだと教えてくれたものだった。


一つ食べて美味しかったから帰る前にもう一つ買って、それとは別にお土産として持ち帰れる分も包んでもらった。


もちろん、目的地は決まっている。


(シード様にも食べていただきますわ!)


フェルナー領で楽しい時間を過ごしている間も、忘れていたわけではない。


工房で椅子を見ればシード様を思い出し、貴族向けの立派な椅子を見れば、一瞬だけ本気で持ち帰れないか考えた。


さすがに止めた。


すでにシード様には、世界に一脚しかない特注の椅子があるのだから。


(それに、あの椅子から始まったものが、フェルナー領でたくさん作られていましたもの!)


第三文官執務室のみんなが使う椅子が作られ、さらに王宮のほかの部署へ届けるものまで作られている。


最初はただ、シード様の腰が心配だった。


毎日長い時間座って仕事をするのに、あんな硬い椅子では身体がつらいだろうと思った。それだけだったはずなのに、今ではフェルナー領の職人たちまで椅子を作っている。


思い出すだけで頬が緩んだ。


(推しの腰を守ろうとしたら、お仕事まで増えましたわ!)


素晴らしい。シード様の腰も守られる。第三文官執務室のみんなの腰も守られる。職人たちのお仕事にもなる。


こんなに嬉しいことはない。


「お嬢様、そろそろ第三文官執務室ですよ」


隣を歩くマリーに声をかけられ、リリアーナは顔を上げた。


「分かっていますわ。今日はちゃんとお仕事の邪魔をしないようにいたします」


「はい」


「……マリー?」


「何でしょう?」


「今、何か言いたそうなお顔をしませんでした?」


「いいえ。お嬢様がシード様を前にされても、今のお言葉を覚えていらっしゃるといいなと思っただけです」


マリーが柔らかく笑う。


その笑顔を見ながら歩いているうちに、見慣れた扉へ着いた。


リリアーナは箱を抱え直す。


(久しぶりのシード様ですわ!)


数日会っていなかっただけ。

それでも楽しみにしていたものは仕方がない。

扉を開けると、紙をめくる音とペンを走らせる音が耳に入った。


第三文官執務室は今日も変わらない。


机に向かう文官たち。その中に、探すまでもなく見つけられる人がいる。


黒い長い髪。


丸い眼鏡。


書類へ落とされた黒の瞳。


シードは左手で一枚前の書類を押さえながら、右手の万年筆を動かしていた。数字を書き終えると、横に置かれた別の紙へ目を移す。二つの数字を確かめてから次の欄へ進み、最後まで書き終えたところで、もう一度最初から視線を通した。


それから書類を揃え、次の束へ手を伸ばす。


(ああ……)


帰ってきた。


フェルナー領も楽しかった。リーネ様と過ごした時間も、全部大切だ。


でも、これも大切。


(今日もシード様が最高にシード様ですわ……!)


仕事をしている。ただそれだけで嬉しい。今すぐ話しかけたい気持ちを抑え、リリアーナはその場で待った。シードが今見ている書類を書き終えるまでは邪魔をしない。


やがて最後の一行を書き終えたシードが、紙を揃えた。


顔が上がる。


青灰色の瞳と目が合った。


「あ……リリアーナ様」


「ごきげんよう、シード様!」


シードの表情が和らいだ。


「ごきげんよう。今日は来てくださったんですね」


(来てくださった!)


危ない。


たった一言で顔が緩みそうになる。リリアーナは箱を抱えたまま、どうにか侯爵令嬢らしく笑った。


「はい。フェルナー領から戻りましたので、シード様にもお会いしたくて参りましたわ」


「フェルナー領へ行かれていたのですか?」


「ええ! お友達に工房や広場を案内していただいたんですの」


「それは楽しそうですね」


「とっても楽しかったですわ!」


思い出した途端、話したいことが次々と浮かんできた。


リーネ様が工房を案内してくれたこと。職人たちが椅子を作っていたこと。可愛い木箱を見せてもらったこと。広場には木工品も布小物もたくさんあったこと。


どれから話そう。


迷った末に、一番言いたかったことから口にした。


「シード様の椅子も作られていましたの!」


シードが瞬きをした。


「私の椅子ですか?」


「正確には、シード様の椅子を元にした文官向けの椅子ですわ。第三文官執務室へ届けていただいたものと同じ椅子を、ほかの部署へ届けるために作っていらっしゃいましたの」


「ああ、そちらですか」


シードは自分が座っている椅子へ目を落とした。


最初に作った特注の一脚。


今ではすっかり、この机にあるのが当たり前になっている。


「工房にたくさん並んでいましたわ。組み立てている途中のものもありましたし、座面へ布を張っているところも見せていただきました」


「リリアーナ様は、本当に楽しそうにお話しされますね」


「だって嬉しかったんですもの」


リリアーナは椅子の背もたれへ目を向けた。


「最初は、シード様に楽な椅子を使っていただきたかっただけでしたの。それが今では、ほかの文官の方にも使っていただけて、フェルナー領の皆様のお仕事にもなっているんです。シード様のために作った椅子から始まったんですわ!」


「私のため、というより……」


シードがリリアーナを見る。


「リリアーナ様が作られた椅子でしょう?」


「違いますわ」 思わず即答した。


シードが目を瞬く。


「シード様がいらっしゃらなければ、作っていませんもの」


「ですが、考えたのはリリアーナ様です」


「考えた理由がシード様ですわ」


「……そうなるんですね」


「そうなります!」


当然である。シード様があの硬い椅子で仕事をしていなければ、椅子を作ろうなんて考えなかった。


万年筆も。


ランプも。


ハーブティーも。


暖魔布も、魔導アイマスクも。


全部、目の前の人から始まった。


(やっぱりシード様は偉大ですわね)


本人はまったく納得していない顔をしているけれど、それでいい。リリアーナの中では決定事項だった。


「それと、今日はお土産がありますの」


抱えていた箱を机の端へ置く。


「フェルナー領の焼き菓子ですわ。リーネ様に教えていただいたんですけれど、とても美味しかったので、皆様にもと思いまして」


「リーネ様というのが、先ほど仰っていたお友達ですか?」


「はい。リーネ・フェルナー様ですわ」


友達。


その言葉を口にすると、今でも嬉しくなる。


「工房がお好きで、たくさん案内してくださいましたの。白いお花がお好きで、美味しい焼き菓子のお店も教えていただいて……次はわたくしの好きなものをお見せする約束もしたんです」


「良いお友達ができたんですね」


「はい!」


シードの声が柔らかくて、リリアーナは嬉しくなった。


箱を開け、焼き菓子を一つ取り出す。


「シード様も召し上がってくださいませ」


「ありがとうございます」


シードは受け取ると、そのまま口へ運ぼうとして止まった。


「……せっかくですから、お茶も淹れましょうか」


「まあ!」


シードが席を立つ。以前リリアーナが持ってきたハーブティーは、今では第三文官執務室に置かれている。

その箱へシードが手を伸ばすのを見ただけで、リリアーナの胸が弾んだ。


(またシード様がお茶を……!)


一度経験したからといって、慣れるものではない。

シード様が自分のためにお茶を淹れてくださる。

何度だって嬉しい。


「リリアーナ様も飲まれますよね?」


「もちろんですわ!」


「では、少しお待ちください」


シードが湯を用意している間、リリアーナはその後ろ姿を眺めた。


仕事をしている姿も好き。


お茶を淹れている姿も好き。


結局、何をしていても好きなのでは。


(……今さらでしたわね)


やがて二つのカップが並んだ。


シードが一つをリリアーナの前へ置く。


「どうぞ」


「ありがとうございます、シード様」


焼き菓子を半分に割り、一口食べると木の実の香りが広がった。


「やっぱり美味しいですわ」


シードも一口食べる。


「美味しいですね。甘すぎませんし、お茶にも合います」


「でしょう?」


なぜか自分が褒められたように嬉しい。広場でリリアーナが同じことを言った時、リーネもこんな顔をしていたのだろうか。そう思うと、また嬉しくなった。


「リーネ様も、これが一番お好きなんですの」


「では、今度お会いしたら、美味しかったとお伝えください」


「はい!」


次の手紙に書くことが、もう一つ増えた。


リリアーナはカップを両手で持ち、向かいにいるシードを見る。


フェルナー領へ行って、リーネと友達になった。


大好きなものを教えてもらった。


そして王宮へ戻れば、こうしてシード様がいる。


(わたくし、幸せですわね)


破滅を避けことなんか忘れてシード様を推すだけだと決めていたのに、今はもう、未来を変えなければならないと思っている。


それに、避けたい未来だけではなく、増やしたいものがたくさんある。


リーネ様と、また会いたい。


マリーと出かけたい。


お父様とお母様にも、今日あったことを話したい。


そして。


「シード様」


「はい」


「またフェルナー領へ行ったら、お土産を買ってきてもよろしいですか?」


シードが眼鏡の奥で目を細めた。


「楽しみにしています」


胸の奥が、一気に熱くなった。


(楽しみに……!)


危ない。危ない。今のはかなり危ない!!


リリアーナはカップへ口をつけて、緩みそうになる頬を隠した。


次にフェルナー領へ行く予定なんて、まだ決まっていない。


それなのに。


(絶対にまた行きますわ!)


行く理由が、また一つ増えてしまった。

昨日は投稿できませんでした、毎日更新が……

もし楽しみにしてくれてた方がいたなら、それはそれで嬉しい(˶' ᵕ ' ˶)ゴメンネ

ここから書きたいことが色々決まったので、70話近くまで書こうと思うけど時間が足りない…( っ °、。)っ


ここまで、読んでくれてる人がいるから書きたいと思える、ありがとうございます、ですわ!

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