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転生先は悪役令嬢?破滅ルート?そんなことより推し「モブ文官」に全力推し活ですわ!!〜推し活令嬢はハッピーエンドを望まない〜  作者: 逢華
第2章 リリアーナ(11) やっぱり推しは最高ですわ!

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第59話 リーネ様の大好きな場所

リリアーナ様がフェルナー領を訪れる日を、リーネはずっと楽しみにしていた。


アドラー侯爵家の馬車が屋敷の前に止まると、リーネは父と一緒に玄関前で出迎えた。先に降りてきたのはアルベルト・ヴァン・アドラー侯爵。そのあとに続いて、淡い金色の長い髪を揺らしながらリリアーナ様が姿を見せる。


「ようこそお越しくださいました、アドラー侯爵様」


父が挨拶を交わす隣で、リーネもきちんとドレスの裾を取った。


「ごきげんよう、リリアーナ様。またお会いできるのを楽しみにしておりました」


「ごきげんよう、リーネ様。わたくしもですわ!」


二人が顔を合わせるのは、これが二度目だった。


初めてアドラー侯爵家を訪ねた時にも綺麗な方だと思ったけれど、明るい陽の下で見るリリアーナ様は、また印象が違う。腰近くまで伸びた淡い金色の髪は光を受けて柔らかな金色に透け、白と薄紫を基調とした上品なドレスの上でさらりと揺れている。


大きなアメジストの瞳まで嬉しそうに輝いていて、黙っていれば飾っておきたくなるような人形そのものなのに、笑うと途端に十一歳の少女らしい愛らしさが顔を覗かせた。


やっぱり、とても可愛い方だ。


そう思っていると、そのアメジストの瞳がリーネへ向けられた。


「今日のリーネ様、とても可愛らしいですわ。髪のお花も素敵です」


「えっ……ありがとうございます」


思いがけない言葉に、リーネの頬が熱くなる。


今日は淡い茶色の髪を編み込み、白い小花と深い緑のリボンを飾っていた。淡い緑と白を重ねたドレスも、工房を歩きやすいよう裾が広がりすぎないものを選んでいる。


「リボンのお色も、リーネ様の瞳によく似合っていますもの」


そこまで見てもらえていたことが嬉しくて、リーネは髪飾りへ触れそうになった手を止めた。


今日、これを選んでよかった。


「リリアーナ」


アルベルトが娘へ声をかけた。


「私はフェルナー男爵と先に話をしてくる。工房を見せてもらうのを楽しみにしていただろう?」


「はい、お父様!」


リリアーナ様の返事は、先ほどまでよりさらに弾んでいた。


今回アルベルトがフェルナー領を訪れたのは、娘に付き添うためだけではない。王宮の他部署へ納める椅子や貴族向けの椅子について、フェルナー男爵と確認することもあると父から聞いている。


「ではリーネ様、お願いしてもよろしいですか?」


「もちろんです。ぜひご案内させてください」


父親たちが仕事の話へ向かうのを見送り、リーネはリリアーナ様と工房へ向かった。


フェルナー家の屋敷から工房までは遠くない。道を進むにつれて木材の匂いが濃くなり、やがて槌や工具の音が聞こえてくる。


工房へ入った途端、隣を歩いていたリリアーナ様の顔がぱっと輝いた。


壁際には加工前の木材が積まれ、作業台には削りかけの部品や工具が並んでいる。その奥では何人もの職人たちが椅子を組み上げていた。


「あちらは椅子の脚でしょうか? あっ、向こうにも作りかけのものがありますわ」


「はい。まだ組み立てる前のものです」


「まあ……!」


リリアーナ様の視線が、工房の中を忙しそうに巡っている。


初めて会った時は、綺麗で上品な侯爵令嬢という印象が強かった。


けれど、こうして一緒に歩いてみると、それだけではないらしい。興味を惹かれるものを見つけるたびに、大きなアメジストの瞳がすぐに輝く。


そのたびに、リーネはもっと見せてあげたくなった。


工房の職人たちも二人に気づき、手を止めて頭を下げる。


「アドラー侯爵令嬢様。ようこそお越しくださいました」


「お仕事中に失礼いたします。第三文官執務室へ届けてくださった椅子も、こちらで作っていただいたのですよね?」


「はい。職人一同で作らせていただきました」


「皆様、とても喜んでいらっしゃいましたわ。座りやすくなったと仰っていました。本当にありがとうございます」


職人たちの表情が明るくなると、リリアーナ様まで嬉しそうに笑った。


リーネはその横顔を見ながら、初めて会った時には知らなかったリリアーナ様を、また一つ見つけた気がした。


「リリアーナ様、こちらです。今日、一番見ていただきたかったものなんです」


リーネが案内した先には、一脚の椅子が置かれていた。


第三文官執務室へ納めたものとは、ひと目で雰囲気が違う。艶のある木材を使い、背もたれや肘掛けには細かな彫刻が施されている。座面には深みのある布が張られ、貴族の書斎に置かれていても見劣りしない仕上がりだった。


「素敵ですわ……!」


大きなアメジストの瞳が、また輝いた。


その反応が見たくて連れてきたのだから、リーネまで嬉しくなる。


「貴族の方向けに作っている椅子です。今まで作っていたものより、木材や布も良いものを使っているそうです」


「彫刻まで入っているのですね。座るためだけではなく、お部屋に置いてあるだけでも素敵ですわ」


リリアーナ様は椅子の周囲を眺めながら、背もたれや肘掛けまで熱心に見ていた。


そのうち、何かを思いついたように表情が明るくなったかと思えば、急に真面目な顔になる。


「……これをシード様に」


「リリアーナ様?」


「な、なんでもありませんわ!」


何を考えていたのだろう。


リーネには分からなかったけれど、さっきまで輝いていた瞳を見れば、何かとても好きなことを考えていたのだろうとは分かる。


「もう一つ、見ていただきたいものがあります」


リーネは工房の隅にある作業台へ案内した。


そこには手のひらより大きな木箱が置かれている。蓋には小さな花がいくつも彫られ、角まで丁寧に丸められていた。高価な宝石も金の飾りもない。それでも木目を生かした箱には、職人の手で作られた温かみがある。


「まあ……可愛い!」


リリアーナ様が身を寄せる。


肩からさらりと流れた淡い金色の髪の向こうで、大きなアメジストの瞳が木箱へ釘付けになっていた。


リーネは木箱ではなく、その横顔を見てしまった。


本当に、表情がよく変わる。


初めて会った時に抱いた「綺麗な侯爵令嬢」という印象が、今日だけでどんどん変わっていく。


綺麗だけれど、それ以上に可愛らしい。


「こちらは商品ではないんです。余った木材で、職人の方が娘さんへの贈り物として作ったそうです。リリアーナ様にも見ていただこうと思って」


「あら」


木箱へ伸びかけていたリリアーナ様の手が止まった。


「でしたら、触らないでおきますわ。こんなに可愛いものをお父様からいただいたら、きっと娘さんも喜ばれますもの」


あれほど興味を示していたのに、持ち主がいると知った途端に手を引いた。


リーネはそれが嬉しかった。


「触っても大丈夫だと思います」


「本当ですの?」


またアメジストの瞳が輝いた。


その表情があまりにも分かりやすくて、リーネも笑ってしまう。


「こういうものも、こちらでは作られているのですか?」


「はい。大きな家具だけではなく、余った木材で箱や小物を作る方もいます。布を使ったものや、簡単な魔導加工をした日用品もありますよ」


「それも見てみたいですわ!」


リリアーナが笑うと、リーネも楽しそうに笑う。


「リーネ様が工房をお好きな理由が、分かった気がしますわ」


「え?」


リリアーナは工房の中を見渡した。

椅子を組み立てる職人たち。削られた木材。棚に並ぶ小物。あちこちから聞こえてくる仕事の音。


「素敵なものがたくさんありますもの。それに、皆様が大切に作っていらっしゃるのが分かりますわ」


リーネは嬉しくなって頷いた。


「わたくし、リーネ様が大好きなものを一緒に見せていただけて、とても嬉しいです」


胸の奥に、その言葉が真っ直ぐ入ってきた。


工房が好きだと言うと、珍しがられることはあった。男爵令嬢なのだから、もっと別のことに興味を持った方がいいと言われたこともある。


だから今日も、自分の好きな場所をリリアーナ様に楽しんでもらえたら、それだけで嬉しいと思っていた。


それなのにリリアーナ様は、工房を褒めただけではなかった。わたしが大好きなものだから、一緒に見られて嬉しいと言ってくれた。


「……わたしも、嬉しいです」


やっとそう答えると、リリアーナ様が柔らかく笑った。


「でしたら、もっと教えてくださいませ。リーネ様のお好きなものを、わたくしも知りたいですわ」


また胸が温かくなった。どうしてこの方は、自分が言ってほしかった言葉を、こんなに自然にくれるのだろう。


会ったのは二度目だ。


それなのに、初めて会った時にも自分の工房の話を楽しそうに聞いてくれた。そして今日は、自分が大好きな場所まで一緒になって楽しんでくれている。


リリアーナ様といると、自分が好きだったものを、前よりもっと好きになれる。


「では、次はこちらへ。まだ見ていただきたいものがたくさんあるんです」


「まあ! 楽しみですわ!」


嬉しそうについてくるリリアーナ様を見て、リーネの足取りも自然と軽くなる。


もっと見せたい。リリアーナ様に、自分の好きなものをもっと知ってほしい!


そしていつか、自分もリリアーナ様が大切にしているものを、一緒に大切にできる人になりたいとリーネは思った。

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