第27話 わたくしのお父様
月間280位、日間195位になってました!
ヤタ───ヽ(˶'▽'˶)ノ───ッ!!
ありがとうございます!では、本編をどうぞ
「では本日は、王国の貴族制度について学んでいきましょう」
午前の授業が始まってしばらくした頃、家庭教師のマダム・ヴァレンティノはそう言って、一枚の紙をリリアーナの前へ置いた。
アドラー侯爵邸に勤めて長い彼女には、会計や財政だけでなく、貴族社会について教える役目もある。
紙には、上から順番に五つの爵位が書かれていた。
公爵
侯爵
伯爵
子爵
男爵
「我が国で正式に認められている爵位は、大きく分けてこの五つです。リリアーナ様も、ご存じですね?」
「もちろんですわ」
侯爵令嬢として十年も暮らしているのだから、それくらいは知っている。けれど、改めて上から順番に並べられたものを見る機会はなかった。
リリアーナは二番目に書かれている文字へ目を落とす。
侯爵
つまり、自分の家だ。
「公爵が五爵の中では最上位。その次が侯爵、伯爵、子爵、男爵と続きます。ただし、爵位がすべてというわけではありません。同じ爵位でも、治める領地や財力、王家との関係によって影響力は異なります」
「では、男爵家より伯爵家の方が必ず豊か、というわけではありませんのね?」
「その通りです。非常に裕福な男爵家もあれば、領地の経営に苦労している伯爵家もあります。ただ、爵位そのものが示す家格では伯爵家が上になります」
「なるほど……」
知っているつもりでも、こうして聞いてみると意外と知らないことがある。
マダム・ヴァレンティノはリリアーナが理解したのを確認すると、紙の二段目を指した。
「そしてアドラー家は侯爵家です。五爵では公爵家に次ぐ上級貴族となります」
リリアーナは改めて「侯爵」の文字を見る。
「わたくしの家、かなり上なのですね」
マダム・ヴァレンティノが一瞬、言葉に詰まった。
「ご存じなかったのですか?」
生まれたときからリリアーナ・ヴァン・アドラーだったため、自分の家を他家と比べて考える機会がなかったのだ。
マダム・ヴァレンティノは小さく咳払いをすると、次の資料を取り出した。
「では、ご自身の家についても学んでおきましょう。アドラー家の歴史は、およそ百五十年前まで遡ります」
「百五十年……」
「現在のアルベルト・ヴァン・アドラー侯爵は、六代目の当主にあたります」
「初代から侯爵家だったのですか?」
「いいえ。そこが本日の大切なところです」
マダム・ヴァレンティノがアドラー家の系譜を広げた。
一番上には、今まで名前しか知らなかった初代当主がいる。
「初代アドラー卿は、北部で発生した大規模な魔物災害から三つの街を守り抜きました。その功績を当時の国王陛下に認められ、領地と伯爵位を賜ったのがアドラー家の始まりです」
「最初は伯爵だったのですね」
初代から侯爵だったものだと、なんとなく思っていた。
マダム・ヴァレンティノの指が、系譜の二代目へ移る。
二代目は、父から受け継いだ領地の発展に力を尽くした。
荒れていた農地を開き、街道を整備し、商人が安全に行き来できる環境を作る。初代のような華々しい武功こそなかったものの、その治世によってアドラー領は大きく豊かになったという。
そして、三代目。
ここでアドラー家の歴史が大きく動く。
「当時、王国北部を大飢饉が襲いました。三代目当主は自領の食糧庫を開放するだけでなく、周辺領主や商会と協力し、各地へ食糧を届ける仕組みを整えました」
「自分の領地だけを助けたのではないのですね」
「ええ。その結果、周辺地域だけでなく、王都への食糧供給まで維持することに成功しています。その功績を国王陛下が認め、アドラー家は伯爵家から侯爵家へ昇爵しました」
リリアーナは系譜に描かれた三代目の名前を見つめた。
「爵位というのは、途中で上がることもありますのね」
「あります。ただし、簡単なことではありません。王国へ長く貢献したり、国を左右するほど大きな功績を残したりした者が、その働きを国王陛下に認められて初めて昇爵するものです」
「では、三代目はとても頑張った方なのですね」
「ええ。もちろん三代目だけではありませんよ」
そこから四代目は、侯爵家としての立場を生かし、北部と王都を結ぶ物流網の発展に尽力した。
五代目は王宮で長く国政に携わり、他国との交易や領地間の税制を整えた。
そして、そのすべてを受け継いだ六代目が現在の当主。
リリアーナの父、アルベルト・ヴァン・アドラーである。
「こうして聞くと、お父様ってすごい家の当主なのですね」
「リリアーナ様も、その『すごい家』のご令嬢なのですよ」
「……そうでしたわ」
マダム・ヴァレンティノに言われて、リリアーナは自分の胸元を見る。
アドラー家に生まれて十年。
侯爵令嬢、侯爵令嬢と呼ばれ続けてきたけれど、その言葉の後ろに百五十年もの歴史がくっついているなんて、これまであまり考えたことがなかった。
(六代目ですか……)
授業が終わったら、父に話を聞いてみるのも面白いかもしれない。
肖像画でしか知らない初代から五代目の話も、父ならもっと知っているだろう。
リリアーナは系譜の一番下に書かれた、父の名前を指でなぞる。
アルベルト・ヴァン・アドラー。
いつも屋敷で顔を合わせている「お父様」と六代続くアドラー家の当主。
同じ人なのに、今は違って思えた。
(……お父様のお話も、聞いてみたいですわね)
こうしてその日の授業が終わったあと。
リリアーナはいつもより弾んだ足取りで、父のいる場所へ向かうことにした。




