第23話 最初の一枚
昨日でブクマ3人も増えたし、☆もつけてくれました!!すっごく嬉しいです!!ヤタ──ヽ(˶'▽'˶)ノ──ッ!!
喜びが爆発しました、本編をどうぞ、ですわ!
数日後、ヴェルデ商会との取引停止が決まり、中央倉庫と財務局から数名の役人が姿を消した。
第三文官執務室まで詳しい事情が降りてくることはなかった。
ただ、いつもより王宮内が騒がしかったことと、朝の朝礼で室長が「とにかく我々は、今まで通り間違いなく作業をこなすように」と緊張した面持ちで告げたことくらいだ。
シードにとっては、何一つ変わらない日常だ。
だが——事件が静かに収束を迎えた頃、地上にある王宮会計監査室では、小さな変化が起きていた。
「……おい」
デスクで厚い帳簿と睨み合いを続けていた中堅の監査官が、隣の同僚に声をかけた。
手元にあるのは、第一文官室から回されてきた施設修繕費の請求書だ。
計算は合っている。添付された資材明細にも不足はない。それでも監査官は、すぐには決裁印へ手を伸ばさなかった。
数日前までなら、そのまま通していたはずのありふれた書類だった。
「この修繕費の計算……数字自体は合っているんだが、何か引っかからないか?」
声をかけられた同僚は、提出された書類を軽く検分し、首を振った。
「考えすぎだろ。形式も金額も完璧じゃないか。判を押して上へ回せばいい」
「……そうなんだがな」
監査官は眉をひそめた。
数日前のあの「四パーセント」の件が、頭から離れなかったのだ。あの時も、単体の書類には何一つ不備がなかった。
監査官はしばらく指先でデスクを叩いていたが、ふと、書類運搬用の籠へ視線を遣った。
「……おい。これ、念のため第三文官室のキャメロンにも見せてみるか」
同僚が怪訝そうな顔で振り向く。
「何をさせるんだ?」
「何もしなくていい。ただ目を通して、気になるところがあるか聞くだけだ」
「……ただ見せるだけか?」
「ああ。四パーセントを見つけたのはあいつだろ。
一度、目を通してもらうだけだ」
同僚は一瞬呆れたような顔をしたが、やがて「……好きにしろ」と肩をすくめた。
決裁前の、ただの確認。
誰の指示でもない、一人の監査官の小さな気まぐれとして、その一枚の書類は第3文官室へと運ばれていく籠の中へと載せられた。
——同じ頃。地下の第三文官執務室
「シード様、お邪魔いたしますわ」
控えめなノックとともに現れたのは、アドラー侯爵家の令嬢リリアーナだった。
侍女に淹れさせた温かいハーブティーを前に、彼女はシードの机に鎮座する木製の書見台へ視線を向けた。
「シード様、書見台の使い心地はいかがですか?」
「とても助かっています。目線が下がらないため、以前より首や背中が疲れなくなりました」
「まあ……!」
シードの淡々とした言葉に、リリアーナの顔がぱっと明るくなった。
背筋を伸ばし、姿勢を崩さずに静かに万年筆を走らせるシードの姿は、以前にも増して洗練されて見える。
「もしなにか不調がございましたら、すぐにおっしゃってくださいね。職人にお願いして最高の調整をしてもらいますわ!」
「お気遣いありがとうございます。ですが、現状で完璧です」
そう言って万年筆を動かすシードの表情には、何の無理も感じられない。
(よかった……! 本当にお役に立っているのね……!)
自分の贈った品が推しの身体的な負担を確実に減らしている。その事に、リリアーナは胸の奥から湧き上がる純粋な喜びに満たされていた。
その時だった。
「……キャメロン。お前宛てだ」
顔色を少し悪くした室長が、一枚の書類を持ってシードの机へと歩み寄ってきた。
この第三文官執務室に、監査室から直接「見てほしい」と名指しで書類が回ってくることなんて、室長の記憶にはないことだった。
シードが手を止め、顔を上げる。
「私に、ですか?」
「監査室からだ。……目を通して、気になるところがないか見てほしいらしい」
「承知しました」
シードは特別疑問を抱く様子もなく書類を受け取ると、そのまま手元の書見台へと載せた。
「まあ、シード様をご指名ですのね」
リリアーナが嬉しそうに微笑む。
室長はボソリと呟いた。
「喜んでいい話なんですかね……それは。また胃がキリキリするなぁ、薬どこに置いたかな…」
室長はそっと胃の辺りを押さえるのであった。




